連勝&通算3勝目を狙う佐藤琢磨 。2021年インディ500直前インタビュー
2021年5月30日に決勝を迎えるインディアナポリス500マイルレースを前に、昨年の勝者である佐藤琢磨にモータースポーツライターの大串信がオンライン取材。連勝へ向けての抱負を語るとともに、佐藤琢磨自身がインディシリーズ参戦12年目となった自分の成長や経験についても語った。最新の予選結果レポートつき。
昨年の覇者として臨む2021年インディ500
18日からプラクティス走行がスタートする第105回インディアナポリス500マイルレースに、昨年のウィナー佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)は連勝、自身3回目の優勝を狙って臨む(決勝は5月30日)。
昨年のインディ500は新型コロナウイルス感染拡大の中、異例の無観客開催となった。例年30万人以上の観客を集めるインディアナポリス・モーター・スピードウェイのスタンドには誰も着席せず「グレー1色の中でレースをしました」と佐藤。「ずっとスタンドを見ているわけではなくて走ることに集中はしますけど、どうしても雰囲気が足りませんでした」と言う佐藤は、その”雰囲気の足りない”中で2勝目を挙げた。今年は感染対策が進み、最大収容人数の40%にあたる観客の入場が許されるという。14万人弱になると思われる観客の前で、2018年に優勝を遂げたときのような感激を味わおうと、佐藤は万端の準備を整えている。
2012年の2位を失う「大失敗」を経て
佐藤といえば2012年のインディ500でレースのフィニッシュ目前の最終ラップ、2番手を走りながらトップのダリオ・フランキッティに攻めかかり、スピンを喫した「大失敗」が記憶に新しい。逆転優勝はおろか、歴代日本人選手最高位である2位入賞も逃してしまった。
だがその失敗にもくじけず体勢を立て直し2017年に念願の初優勝、そして昨年2度目の優勝を遂げた佐藤は、あの「大失敗」をしでかした佐藤と「違う」佐藤になったのだろうか。
「確かにあの頃の僕は粗削りだったかもしれないし、時間をかけて成長して変わった部分もあると思います。でも(レースの)スタイルは何も変わっていません。あのとき、あのままでも日本人選手最高位になれました。でもあそこで2位を守ろうとしたら、その後2回も勝つことはできなかったと思うんです。優勝を狙うには、(風向きが不利な)あそこしかチャンスがありませんでした。一か八かで勝負をしたことはこれまで1回もありません。あのときは結果的にああいうことになっただけなんです」と佐藤琢磨は振り返った。
これまで104回開催されたインディ500の長い長い歴史の中で、複数回の優勝を飾ったのは佐藤を含めたったの20人のみだ。最終ラップで優勝を狙い2位の座を失うという、ある意味歴史的な悲劇を乗り越えて世界的レースのレジェンド中のレジェンドとなった佐藤は、さらなる高みを目指している。もし昨年に続く優勝を遂げれば、インディ史上6人目の”連勝”という大記録を打ち立てることになる。
エアロパッケージが大変更で連勝の難易度アップ
ただ、連勝は容易ではない。というのも今年インディシリーズではマシンのエアロパッケージが変わり、これまでよりも前方を走る車両に近づきやすくなるという変化が起きているからだ。いわゆるスリップストリームをうまく使うのがインディを初めとするオーバルコースでライバルに打ち勝つセオリーである。今年のエアロパッケージはこのスリップストリームが昨年よりも使いやすい、すなわちなかなか後続車を引き離せないという特性を持っているのだ。もちろん逆に見れば、前を走るライバルを抜きやすくなるということでもあり、レースは昨年よりも激しく展開することになりそうだ。
闘いの場であるインディアナポリス・モータースピードウェイで開催された4月の合同事前テストで佐藤は全体で2番手のタイムを記録している。しかし本人は本番を楽観視していない。
「先月のテストでは、最終的に2番手タイムを記録しましたが、僕はニュータイヤを履いた状態でしたし、集団走行の中でスリップストリームを使って出した結果ですからそのままは受け取れないんです。しかも新しいエアロパッケージで走るインディ500(全200周)の最後の30周でタイヤをどう使うべきかはまだわかっていません」とあくまでも慎重だ。
そしていよいよインディ500の本番が始まろうとしている。18日には予選に向けてプラクティスが始まった。18日のプラクティス初日に佐藤はなんと全体で3番手のタイムをたたき出して好調に走り出した。2日目のタイムは20番手だったが、ここではブーストを挙げないまま予選シミュレーションを含むさまざまなテストをこなし準備を着実に進めている。
3つ目の優勝リングを目指して
「ディフェンディングチャンピオンとして3つ目の優勝リング(副賞として授与される指輪)を狙って、全力を出していきます。(アメリカで活躍する)大谷翔平選手や松山英樹選手から気持ちとエネルギーをいただいて頑張っていきたいです」と佐藤は抱負を語った。22、23日には33グリッドを決める予選が行われ、30日には決勝レースが行われる予定だ。
22、23日の予選で、佐藤琢磨は思うようにタイムが伸ばせないなかで、最後のタイムアタックに臨むべくピットレーンにマシンを並べた。しかし、すでにコースにいるマシンが時間いっぱいまでタイムアタックしたため、佐藤琢磨はコースに入らぬまま予選が終了した。インディ500の予選には、前走車にタイムアタックの優先権があるというルールがあるため佐藤はコースに入れなかった。
これにより佐藤琢磨の決勝グリッドは15位に決定。佐藤は予選を振り返り、マシンにスピードが足りなかったことを反省しつつ、決勝ではいっぱい追い越しができるセッティングを見つけねば、とコメントしている。(予選リポート:小林祐史)