雨の日のタイヤ性能を教えてくれる「ウェットグリップ性能」表示とは
雨の季節が近づくと車用品店やガソリンスタンドなどのタイヤコーナーでは「ウェットグリップ性能で〇〇」などのポップを見かけることがある。このウェットグリップ性能とは、路面が濡れた状態でブレーキをかけたときのグリップ性能を示すもので、タイヤ選びに役立つものだ。そして、この性能は低燃費タイヤと深い関係がある。ユーザーも知っておきたいウェットグリップ性能の見方や由来を紹介したい。
低燃費タイヤのグレーディングシステムの1つとして誕生
ウェットグリップ性能は、一般社団法人 日本自動車タイヤ協会が策定したタイヤの性能を示すグレーディングシステムの1つだ。グレーディングシステムとは、試験によってタイヤの性能を数値化し、それをもとにした「AAA」「AA」「A」「B」「C」のような数段階の等級(グレーディング)表示のこと。ちなみにタイヤのグレーディングシステムでは、性能値が最低基準値以下の場合、対象外として等級も与えられない。そういう意味では、さらに下位に、対象外という最低枠があるともいえる。
今回のテーマであるウェットグリップ性能は、「a」から「d」の4段階で示される。雨の日の性能がよいタイヤを選ぶには便利な指針なのでぜひ参考にしてほしいが、ここで注意が必要なのは、ウェットグリップ性能は、基本的に転がり抵抗性能と相反する関係になることだ。転がり抵抗性能とは、燃費性能のこと。つまり、雨天時の性能をよくしようとすると、燃費の悪いタイヤになりがちだということである。
このため、ウェットグリップ性能は、転がり抵抗性能と合わせて示されるので、両方を検討する必要がある。ちなみに、この両方の性能を両立したタイヤが低燃費タイヤと呼ばれるもの。後半で紹介するが、そもそもウェットグリップ性能は、低燃費タイヤの性能表示の1つとして始まったものである。
<ラベル(表示)の例>
上の図は、右上が転がり抵抗性能、右下がウェットグリップ性能の表示である。そして、転がり抵抗性能AAA~Aグレード、かつウエットグリップ性能a~dグレード(グレード対象外ではないこと)を両立すると、低燃費タイヤと呼ぶことができるようになる。左側の低燃費タイヤの表示はそれを示すものだ。相反する性能を高い技術力で両立させたタイヤだけが低燃費タイヤを名乗れるわけである。
ちなみに、転がり抵抗性能とウエットグリップ性能の等級と性能値の関係は下図のようになる。
<グレーディングシステム>
低燃費タイヤの表示制度の始まり
低燃費タイヤの表示制度が始まったのは、G8サミットで、IEA(国際エネルギー機関)が運輸部門におけるさらなるエネルギー効率化について提言を行ったことが契機だ。この提言には低燃費タイヤに言及していた。
その言及では、タイヤの転がり抵抗が少ないと、少ないエネルギーで回転できる。つまり転がり抵抗が少なければ、同じ距離を走行してもガソリン消費量が少なくなる。このようなタイヤならガソリンの消費量とともに排ガスも排出量を下げられるので、環境対策にもつながる、という考えを示した。
この言及から日本政府は低燃費タイヤ等の普及促進について検討を行うため、「低燃費タイヤ等普及促進協議会」を発足。その協議会に日本自動車タイヤ協会が参画し、2010年1月より低燃費タイヤなどの性能を消費者に分かりやすく表示することで、さらなる普及促進を図ることを目的とした自主基準であるラベリング制度を開始した。
近年はウェットグリップ性能「a」もある
低燃費タイヤのラベリング制度で、なぜ転がり抵抗性能とウェットグリップ性能が表示されているかというと、単純に転がり抵抗性能をよくするだけだと一般的にはウェットグリップ性能が悪くなる傾向があるため、安全性能と環境性能の両方を消費者が把握できるように制度設計されている。そこで、消費者が燃費とウェットグリップを把握しやすいようにしたのが、ラベリング制度やグレーディングシステムだった。ラベリング制度の効果もあり、最近は転がり抵抗性能「AA」、ウェットグリップ性能「a」という商品も登場している。
このグレーディングシステムに参画しているタイヤメーカーは、グレーディングシステムの等級を満たしている製品にラベル表示をしている。タイヤは車の走行性能や安全性を左右する重要なパーツだ。購入の際には、こうした指標もぜひ参考にしてほしい。