【AD】首都直下地震への備え、緊急車両が48時間以内に駆けつけるための「八方向作戦」とは?
東日本大震災が発生した3月11日は、防災意識をしっかりと見直すべき日でもある。人が集中する首都圏でも大地震の危険は常にあり、今、警戒されているのが「首都直下地震だ」。日本の中枢での大震災発生に備え、国土交通省では、警視庁や東京消防庁などと連携し、迅速な救助活動などを行うための「八方向作戦」を準備しているが、はたしてどのような作戦なのか。
「首都直下地震」は政府としても非常に警戒しており、内閣府の中央防災会議・首都直下地震対策検討ワーキンググループが、2013年に報告書「首都直下地震の被害想定と対策について(最終報告)平成25年12月」を発表している。同報告書によれば、首都直下地震はマグニチュード7クラスとして、今後およそ30年以内に約70%の確率で発生するという予測だ。
はたして、どれだけの被害をもたらすのか。同報告書には、震源地を幾通りも変えてシミュレーションした震度推定分布図が掲載されている。画像1もそのひとつで、震源地を首都圏南寄りと想定したシミュレーション結果だ。黄色が震度6弱のエリアで、オレンジ色が6強、湾岸部など一部には7を示す赤も見えている。
首都直下地震の最大被害想定は、死者が約2万3000人、全壊・焼失家屋が約61万棟、要救助者が約7万2000人、被害額が約95兆円。甚大な被害が想定されている。
それでは、この首都直下地震に対して、どのような備えが行われているのだろうか。
首都直下地震発生後、最も重要になるのは、救助活動のための通行や緊急物資の輸送を確保することである。そこで、発災後の道路交通の回復を目的に、関係各機関が連携して2016年6月に策定したのが、「首都直下地震道路啓開計画(改訂版)」、通称「八方向作戦」だ。なお「道路啓開」とは、道路が通行できるよう切り開くことを意味する言葉である(画像2)。
緊急車両が都心部へ48時間以内に駆けつけるための「八方向作戦」
八方向作戦は、発災後の状況に合わせて都心へ確実にアプローチできるよう、8方面からのルートを個別に設定するものだ(画像3)。具体的には、各方面からの高速道路(NEXCO東日本、同中日本、首都高)と、それと並走する国道などを組み合わせて設定されている。
確保される車線数は、郊外から都心へ向かう1車線と、都心から郊外へ向かう1車線の合計2車線。人命救助の “72時間の壁” を意識して、発災後48時間以内に各方向最低1ルートを確保することが目標とされている。八方向とは、以下の通りだ(北から時計回り)。
●E4東北道方面
●E6常磐道方面
●E14京葉道路方面
●CA1東京湾アクアライン方面
●首都高・K1横羽線方面
●E1東名高速方面
●E20中央道方面
●E17関越道方面
なお八方向作戦に関わる数多くの訓練も実施されている(画像4)。国土交通省や関連機関、民間企業などが協力し、道路啓開や段差解消、緊急物資輸送、渡河橋設置などの訓練が行われ、非常事態に備えている。
大地震発生時には渋滞を防ぐために大規模な交通規制を実施
八方向作戦を成功させるための重要な要素のひとつが、渋滞抑制だ。首都直下地震のような緊急事態の際には、鉄道やバスなどの公共交通はほぼ全面的にストップする。そうすると、多くの人がクルマでの移動を考えるだろうが、それが深刻な大渋滞の原因になる。
たとえば、東日本大震災が起きた2011年3月11日の夜は、画像5にあるように、都内の多くの幹線道路が大渋滞となってしまった。地震の影響で公共交通が全面的にストップし、多くの人がクルマでの移動を試みたことから大渋滞が発生し、結局、道路機能も奪ってしまったのである。さらに、徒歩で帰宅を試みた人々が、路上にあふれてしまったことも大きな原因だったといわれる。
このような状態では、迅速な救助活動や緊急物資の輸送はおぼつかない。そのため、東京では震度6以上の地震が発生した場合、2段階の交通規制を行うことが決められている。
第1段階の「第一次交通規制」で行われる4つの規制
第1段階の「第一次交通規制」は、道路交通法に基づいて実施される交通規制だ。道路における危険を防止するとともに、緊急車両の円滑な通行を確保することを目的としている。第一次交通規制では以下の4つの規制が実施される(画像6)。
1.環七通り(都道318号)から都心方向への通行を”禁止”
都心部の交通量を削減するため、都心方向へ流入する車両の通行禁止規制が実施される。
2.環八通り(都道311号)から都心方向への車両の通行を”抑制”
信号制御等により、都心方向へ流入する車両の通行抑制が実施される。
3.「緊急自動車専用路」の指定
以下の一般道6路線と、高速道路が緊急自動車専用路として指定され、通行禁止規制が実施される。
●国道4号(日光街道など)
●国道17号(中山道、白山通り)
●国道20号(甲州街道など)
●国道246号(青山通り、玉川通り)
●都道8号・24号(目白通り、新目白通り)
●都道405号(外堀通り)
4.都内に極めて甚大な被害が生じている場合
被災状況に応じて、車両の交通規制が実施される。
第2段階の「第二次交通規制」では「緊急交通路の優先指定」などを実施
第2段階の交通規制は、災害対策基本法に基づいて行われる「第二次交通規制」だ。災害応急対策を的確かつ円滑に行うための緊急交通路を確保するためのものである。以下のことが実施される可能性がある。
1.「緊急交通路」の優先指定
第一次交通規制で「緊急自動車専用路」として指定された高速道路と一般道6路線が、優先的に「緊急交通路」として指定される。
2.そのほかの緊急交通路の指定
被害状況、道路交通状況、災害応急対策の進捗状況などを踏まえ、必要に応じて以下の路線も緊急交通路として指定される可能性がある。
【国道】(路線番号順)
●1号(内堀通り、永代通り、桜田通り、第二京浜、中央通り、晴海通り、日比谷通りなど)
●6号(江戸通り、言問通り、水戸街道など)
●14号(京葉道路)
●15号(第一京浜など)
●16号(東京環状、八王子街道など)
●17号バイパス(新大宮バイパス)
●20号(甲州街道、新宿通り、日野バイパスなど)
●122号(北本通りなど)
●139号(旧青梅街道)
●246号バイパス(大和厚木バイパス)
●254号(春日通り、川越街道など)
●357号(東京湾岸道路)
【都道】(名称順)
●五日市街道(7号)
●稲城大橋通りなど(9号)
●井の頭通り(7号)
●芋窪街道など(43号など)
●青梅街道(4号、5号)
●鎌倉街道など(18号など)
●川崎街道(9号、20号、41号)
●北野街道(173号)
●蔵前橋通り(315号)
●甲州街道(256号)
●小金井街道(15号、24号)
●志木街道(40号)
●新青梅街道(5号、245号、440号)
●新奥多摩街道など(29号など)
●新小金井街道(15号、40号、248号)
●新滝山街道(169号)
●滝山街道(411号)
●多摩ニュータウン通り(158号)
●中央南北線など(153号など)
●東八道路(14号)
●中原街道(2号)
●八王子武蔵村山線(59号)
●府中街道(9号、16号、17号)
●町田厚木線(51号)
●町田街道など(47号など)
●三鷹通り(121号)
●睦橋通り(7号)
●目黒通り(312号)
●吉野街道(45号、411号)
なお震度5強の地震であっても、道路交通法に基づいた第一次交通規制の一部が実施される可能性があることも覚えておこう。実施されるのは以下の2点だ。
1.環七通りから都心方向への通行禁止規制
2.環八通りから都心方向への通行抑制
運転中に大地震に遭遇した際にドライバーがとるべき3つの行動
万が一、クルマを運転中に首都直下地震のような大地震に遭遇した場合、ドライバーはどのように行動すべきだろうか。消防庁の「防災マニュアル 震災対策啓発資料」を参考にまとめた。
1.クルマの止め方について
強い揺れを感じても、急ブレーキは禁物。徐々に速度を落とし、緊急車両が通行できるよう、路肩に停車させる(画像7)。高速道路の場合は、まずハザードランプを点灯させ、高速走行している前後のクルマに注意を促してから停車させること。
2.クルマからすぐに飛び出さない
路肩に止めてエンジンを切ったからといって、すぐにクルマから出ないこと。揺れが収まるのを待ち、周囲の状況をよく確認した上でクルマから出よう。また、カーラジオでの情報収集も忘れないように。
3.クルマから離れる際の注意点
窓を閉め、ドアをロックせず、キーは差したまま、もしくはキーレスキーやスマートキーの場合は、ドアポケットなどのわかりやすい場所に入れた状態で車内に残してクルマを離れること。また、車検証を忘れずに持って行くようにしよう。
このようにすぐに運転できるようにしてクルマを離れるのは、道路啓開の作業時に、警察官や消防隊員などがクルマを移動する可能性があるからだ。なお高速道路の場合は、約1kmごとに非常口が設置されており、そこから徒歩で地上に脱出することが可能だ。
なお、大地震の発生後は、津波からの避難などのやむを得ない場合を除き、原則クルマの使用はやめよう。
新型コロナウイルス感染症も考慮して三密を避けて避難
また以上の注意点に加え、もし実際に現時点で避難することになった際は、新型コロナウイルスへの感染防止も意識しておきたい。徒歩で避難する際に、前後左右の避難者との間隔を開け、密集しないようにすることも重要だ。
徒歩で避難する際に密を避ける方法としては、西成活裕東京大学教授の講演からヒントを得て鈴鹿市の消防署員が考案した「平泳ぎ避難」が注目を集めている。西成教授は、数理物理学を駆使して渋滞学に関する研究を30年間行っている第一人者。「渋滞吸収走法」を考案した人物でもある。なお平泳ぎ避難は、発案した消防職員から相談を受け、実験を行って論文を共同で執筆したそうである。
どのような避難方法かというと、平泳ぎの手の動きをしながら移動するというものだ。すると、両手が描く円の範囲内には他者が入りにくいスペースとなるため、避難者同士が密着するような事態を避けながら移動できるのである。また、一見すると平泳ぎ避難は空間的に無駄があって避難に時間がかかりそうに思えるかも知れない。しかし鈴鹿市消防本部が行った平泳ぎ避難の検証動画を見ると、平泳ぎ避難をした方が、しないよりもスムーズに避難できる結果となっている。
ひとりひとりが慌てずに行動すれば、救助活動や緊急物資の輸送などを迅速に進めることができる。非常事態に直面しても、あらかじめとるべき行動などがわかっていれば、より冷静に対応しやすい。
大地震に遭遇した際にドライバーがとるべき行動は、首都圏のドライバーに限った話ではない。日本に住んでいる以上、いつどこで大地震が発生するかわからないので、万が一に備えて覚えておこう。