暑すぎる! 真夏のレーシングカーは走る砂漠だった。ドライバーたちの暑さ対策とは?
車内の温度はまさかの50℃超え!? 酷暑のコクピットでマシンを操るドライバーたちは、どれほど過酷な環境にさらされているのか? 国内最高峰の自動車レース、SUPER GT 第4戦が開催されたツインリンクもてぎで、各ドライバーの暑さ対策について話を訊いた。
車内の暑さはまるで砂漠
真夏のSUPER GT。猛暑のコクピットでレースを戦うドライバーたちは、どれほど過酷な環境にさらされているのか? シリーズ第4戦が開催されたツインリンクもてぎで各ドライバーに話を訊いた。
最初に登場願うのはARTA NSX GT3を駆ってGT300クラスに挑むベテランの高木真一選手。真夏のコクピットはどのくらい暑いものなのか、まずはこの点から教えてもらおう。
「おそらく40℃か50℃はありますね」と高木選手。「僕は砂漠に行ったことはありませんが、きっと砂漠に急に放り込まれたらこのくらい暑いんじゃないかと思うくらい、夏のレースでは車内が暑くなります」。
高木選手が走らせるのは、市販車に比較的近いGT3という規格に従って製作されたレース仕様のホンダNSX。本来、GT3規格のNSXには車内を冷やすエアコンが用意されているが、高木選手によると「(エアコンを使うと)ちょっとエンジンパワーが落ちてしまうので、昔ながらのクールスーツを使っています」とのこと。クールスーツとは、車内に置いたクーラーボックス内の氷水を電動ポンプで循環させ、専用のベストや耐火シャツなどを介してドライバーの身体を冷やすものだが、このシステムも時代の流れを受けて微妙に変化しているという。
身体も冷やす、頭部も冷やす!
「最近はレーシングスーツなどに適用される耐火基準が厳しくなっていて、昔のように、よく冷えるクールスーツは使えなくなっています。仕組みとしては、ドライバーが身につける耐火シャツに氷水が流れるパイプが縫い込まれていて、これで身体を冷やすのですが、冷水の流れる通路が網目のように張り巡らされていた以前のスペシャル・クールスーツに比べると、冷え方は少し物足りないように感じます」
とはいえ、クールスーツがあるかないかは大違いだと高木選手はいう。「いやもう、もしもクールスーツがなかったら、もうレースから引退しているかもしれませんね」
ちなみにARTA NSX GT3はクールスーツに加えて、ドライバーが着装するヘルメットの内部に外気を流し込むダクトを設けて冷却に役立てているという。
「『こんなもの、大して効かないだろう』と思って、ピットインの3周くらい前にダクトをヘルメットから外したことがありますが、もう外した途端に『ダメだ、やっぱりつけておこう』と思い直すくらい効いている実感がありました」
ARTAがレースで走らせるNSXのGT3は、エアコンの効率が悪くエンジンパワーが低下してしまうため、チームの判断でエアコンは使用していないようだが、高木選手がこれまで経験したBMW M6やニッサンGT-RのGT3車両はいずれもエアコンの効きが良好で快適だったそうだ。
「エアコンがちゃんと働いていると、ダクトを活用することで身体のいろいろなところを冷やせるので、その快適性は次元が違うといってもいいくらいです。特に疲れ方が大きく変わってくるので、ひとりで2スティント、3スティントと走る長いレースでは大きな違いがあると思います」
(スティントは連続周回する走行区間のことで、耐久レースではひとりのドライバーがこれを2度、3度と受け持つことになる。高木選手が2スティント、3スティントといったのは、これを指している)
いっぽう、同じARTAからGT500クラスに挑む野尻智紀選手は、自らが操るARTA NSX-GTについて次のように語った。
「正直、車内はメチャクチャ暑いです。だから身体や頭を冷やすことはとても重要だと思います」
同じホンダNSXでも、レース用に高度に開発されたGT500仕様のNSXはエンジンパワーに余裕があるうえ、エアコンも効率の高いものがとりつけてあるらしく、野尻選手はレース中にエアコンを活用していると説明してくれた。
「エアコンの風がシートから出てくるように工夫されているので、背中が直接冷やされる形になります。あとは同じ冷気がダクトを通じてヘルメットにも導かれています。それでも、さすがに運転中は冷たいと感じるほどではありません。ただし、走行を終えてエンジンを停めたあと、改めてエンジンを再始動するとエアコンも働き始めて『ああ、メチャクチャ涼しい』と感じますね」
対策や工夫はマシーンごとに様々
野尻選手と同じGT500クラスに参戦している牧野任祐選手(マシーンはSTANLEY NSX-GT)は、「エンジンを止めて待っているスタート前のセレモニーの間が、とにかく耐えられないほど暑い」と語っていた。
もっとも、なかには車内が快適なマシーンもあるらしい。たとえば、第4戦もてぎで優勝したGT300クラスの加藤寛規選手は、自らがステアリングを握るmuta Racing Lotus MCについて、こんなエピソードを聞かせてくれた。
「僕たちのクルマは相当涼しいと思いますね。この時期だからエアコンを使っていますが、普段は(エアコンを使わなくても)送風だけで十分涼しいくらいです」
加藤選手のチームメイトである阪口良平選手もmuta Racing Lotus MCの快適性を高く評価した。「僕たちのマシーンはマザーシャシー(GTAが用意したシャシーやエンジンをベースに開発された車両のこと)を使っているんですが、エンジンの搭載位置が(キャビンの後にあたる)ミッドシップなので、同じマザーシャシーでもフロントエンジン方式の車両とはだいぶ違いますね。特に(前方のエンジンから後方に向けて伸びる)排気管の取り回し方が違うので、ムチャクチャ楽です」
猛暑のなかレースを戦うドライバーたちにとって、身体を冷やす仕組みやその効率はマシーンによって大きく異なっているようだ。真夏のレースでは、そんなことも念頭に置いておくと、観戦する楽しみが一段と深まることになりそうだ。