EVやFCEVの燃料代はガソリンより安い?高い?|清水和夫が徹底解説「クルマの未来」<連載 第3回>
電動車は地球にもお財布にも優しい? モータージャーナリスト清水和夫が次世代モビリティについて優しくひも解く新連載。第2回はガソリン車、電気自動車(EV)、そして燃料電池車(FCV)の気になる燃料代(電費)について解説します。
電動車の気になるランニングコスト
ある自動車メーカーのエンジニアから「これからはマルチ・フュエールの時代」だと、聞いた。実は電動化の時代が来る前から、自動車はさまざまな燃料が使われていた。もちろん、国によって事情は異なる。例を挙げると、自動車大国・ドイツではガスステーションに行くと、「ガソリン、ディーゼル(軽油)、CNG(天然ガス)、LNG」と多種多様なエネルギーが用意されているが、最近はこれに電気と水素が加わった。
他方、ブラジルではエタノールが自動車燃料として売られているが、それぞれの価格設定には複雑な事情が絡んでいる。そのひとつの理由は、その国の主力燃料は、政治的に決定されるし、日本には揮発油税、地方揮発油税として徴収されるガソリン税のほか、地球温暖化対策のための税(環境税)なども含まれている。一概に自動車の燃料の価格を比較することはとても難しい。
それでも一般ユーザーの感覚では燃料代は気になる。とくに最近話題となっている電気自動車(EV)と燃料電池車(FCEV)の燃料代は知りたいところだ。早い話が、電気代と水素燃料代の比較となるわけだが、電気に関しては実績がある日産自動車のユーザー向けサイトを参考にしてみる(出展:日産自動車「EV BLOG」https://ev2.nissan.co.jp/BLOG/584/)。
このサイトでは電費(燃費に相当する指標)を1kWhの電気エネルギーで6km走行できるEVをモデルにしている。車名はリーフ相当だと思う。1kWhの電気エネルギーとは、1kW(1000ワット)の電気の仕事を1時間続けたときに必要な電力量だ。
しかし、複雑なのは、充電する時間によって電力会社に支払う電気代が異なるし、最近はグリーン電力(再生可能なエネルギー)を普及させるために、さまざまな施策が実行されている。電力会社から来る毎月の領収書をよく読むと色々なオプションが用意されているが、大体は1kWh当たりの金額は20~30円となっている。
この条件でまずガソリン車と比べると(燃費20km/L、レギュラーガソリン144円で試算)、電気で走るEVはかなり安く、ガソリン車に対して20~40%の節約が可能と言えそうだ。
一方、FCEVの場合はどうだろうか。最新のMIRAIを例にすると3本の高圧水素タンクに水素は重量で5.6kg充填されており、航続距離は650~800kmといわれている。関係者の実績ベースでは、満タンで約650kmは走ることができたそうだ。そのときの水素の燃料代は1kgで1100円なので、満タンで6160円。先のガソリン車の条件と比較すると30%ほど高くなる。
結論としていうと、ガソリン車の燃料代を100とすると電気で走るEVは50~80、水素で走る燃料電池車は130となる。このように電気と水素は性質が異なるので、直接比較することは難しいが、ガソリン車を物差しとすると分かりやすい。
ランニングコストの比較
車種別 | 100km走るのに掛かる費用 |
ガソリン車(燃費20km/L) | 720円(レギュラーガソリン価格144円/Lで試算) |
電気自動車(電費6km/kWh) ※日産リーフ相当 |
333円~500円(20円~30円/kWhで試算) |
燃料電池車(電費116km/kg) ※トヨタ新型MIRAI相当 |
948円(1kgあたり1100円で試算) |
(すべて参考値)
燃料代だけで比較するのは難しい。なぜなら……
電気の正体は原子の外側に存在する自由電子で、とても小さいが、電気として貯めるには、たとえば水溶液の電解質と正負の電極が必要。しかも、最近主流の発火性が高いリチウムイオン・バッテリーは、その容れ物を頑丈に作る必要がある。一方水素は電子よりも大きいが、周期律表では最初にでてくるもっとも小さな元素なので、これも貯めるのが難しい。そこで高圧ガスの状態で頑丈なタンクに貯蔵する。
これに対してガソリンは常温で液体なので、貯蔵は簡単だ。電気と気体ガスの水素は、たしかにクリーンエネルギーとして期待されるが、同時にその貯蔵は容易ではない。
最後に注意点をひとつ。ガソリン価格には多額な税金が含まれているが、EVやFCEVの燃料には含まれていない。燃料代(電費)を比較する場合、そのことも考えておく必要がありそうだ。