「ハイウェイ・トランスフォーマー」が高速道路での安全な作業を確保
高速道路での工事現場では、一般車との接触による作業員の死傷事故も発生しており、作業時の安全の確保が大きな課題となっている。そうした中、作業員の死傷事故削減に向けて大きな期待を集めているのが、NEXCO中日本が試験運用する大型移動式防護車両「ハイウェイ・トランスフォーマー」だ。
「ハイウェイ・トランスフォーマー」はNEXCO中日本のグループ会社である中日本ハイウェイ・メンテナンス名古屋株式会社(以下、メンテ名古屋)と、東邦車輌株式会社により共同開発され、2019年9月に発表された。
大型の移動式防護車両は米国ですでに活躍しており、それを輸入することも検討されたが、それらの車両は道路運送車両法など、日本の各種法令に適合しない部分があった。そのため、日本国内で使用できるよう、UDトラックス製の大型車をベースにして新規に開発されたという。
高速道路の作業エリアに誤進入する通行車両が増加中
「ハイウェイ・トランスフォーマー」が開発された背景には、近年、通行車両が工事規制区域内に誤進入して事故を起こす件数が増加していることにある。NEXCO中日本管内で2018年度に起きた事故を見てみると、物損事故は145件に及び、作業員の負傷事故も3件。さらには、死亡事故も1件発生している(2017年度にも死亡事故が1件発生)。工事による車線規制があることをどれだけ喚起したとしても、作業エリアに飛び込んでくる一般車が後を絶たないのだという。
しかも、物損事故・人身事故を含めた事故の全件数は、2016年度から2018年度にかけては毎年およそ50件ずつ増加している状況だ(画像1)。このまま事故が増加する一方であれば、工事現場の安全が脅かされ続けてしまう。
これまでもNEXCO中日本グループでは、さまざまな安全対策資機材が開発されてきた。作業員が装備するエアバッグ式安全チョッキや、誤進入車両を強制的かつ安全に停止させる「とまるぞーII」などである。しかしそれでも死傷事故の削減には至らず、「ハイウェイ・トランスフォーマー」の開発となったのである。
全長を7.5m伸ばしてその間に安全な作業スペースを確保
「ハイウェイ・トランスフォーマー」がどのようにして安全な作業スペースを確保するのかというと、車両の前部と後部を引き伸ばし、その間に側面を防護するためのメインビーム(保護用障壁)を展開させることで実現する。「ハイウェイ・トランスフォーマー」の走行時の全長は15.9mだが(画像3)、作業時は全長23.4mまで延伸(画像4)。これこそがトランスフォーマー(transformer:変形するもの)という名の由来だ。
「ハイウェイ・トランスフォーマー」を23.4mまで延伸させた場合、車両の前後の間に挟み込む形で9.8m×1.74mという広さの作業スペースを確保することができる。また保護ビームは、左右どちらにも展開可能。走行車線、追越車線のどちらの工事にも対応できるようになっている。
そして後方からの衝突車両に対しては、「ハイウェイ・トランスフォーマー」の車体後部に衝撃緩衝装置が装備されている(画像4)。実際の作業現場においては、同装置を展開した上で、「ハイウェイ・トランスフォーマー」の後方5mに防護を兼ねた後方警戒用の車両を別に1台を配置することで、防護に完璧を期す。機能と運用の両方で、後方からの追突から作業員を守るようにしている(画像5)。
スペックは以下の通りだ。
全長:15.9m(走行時)、23.4m(作業時)
全幅:2.5m
重量:24.7t
付帯装置:LED標識装置、衝撃緩衝装置、エアコンプレッサー
作業スペース:9.8m×1.74m
「ハイウェイ・トランスフォーマー」は、メンテ名古屋が実施している交通規制を伴う路上作業のポットホール補修(※1)や、事故復旧工事などの約4割に対して活用できるという。作業員の安全性の向上に加え、付帯装置としてLED標識装置や、衝撃緩衝装置などにより、工事規制作業の省力化にも貢献することが可能だ。
作業員の死傷事故の削減に大きな期待が寄せられる「ハイウェイ・トランスフォーマー」であるが、まだ試験運用の位置付けであり、三重県の車両基地に1台が配備されているのみである。そしてメンテ名古屋が実施する、交通規制を伴う維持修繕業務の中で試行的に活用されている段階だ。NEXCO中日本の広報によれば、有効性が確認されれば、台数を増やしていく可能性もあるとしている。