「ワピチ」|第15回アニマル”しっかり”みるみる
世界中から集まったさまざまな動物たちを、間近で見て・感じられる施設がサファリパーク。そんなサファリパークで動物たちの世話をする飼育員さんに、知っておくとちょっぴり動物通になれるポイントを、 "しっかり" ご指導いただきました。富士山の自然豊かな環境にある富士サファリパークの動物展示課飼育担当の宗藤さんに、「ワピチ」を解説してもらいました。
角が落ちた後に生えてくる、「袋角」って
「ワピチ」って言われてもどんな動物なのかピンとくる人は少ないと思いますが、偶蹄目シカ科の動物です。シカの現生種では、ヘラジカに次いで2番目くらいに大きく(体長は1.5~2.5m、体重は200~400kgほど)、主にアメリカやカナダなど北アメリカ大陸の西部に生息していますが、中国やロシアなどにも分布しています。「エルク」や「アメリカアカシカ」などとも呼ばれています。
ワピチの一番の特徴は、体と同様に大きな角です。
「角はほとんどの場合オスに生えます。全体的に角は上方に高く大きく生え、そして外側に向かって枝分かれして小さな角が伸びていきます。平均で高さは100~150㎝(幅50~60㎝くらい)にもなります」(宗藤さん※以下同)。角の形は、大型のシカであるヘラジカが掌状なのに対して、ワピチは枝状です。
ワピチの角は毎年生えかわります。冬の終わり頃から春先にかけてポロリと角が落ち、新しい角が生えてきます。そして秋頃までに立派な角へと成長します。
特にワピチの角で注目してもらいたいのが、古い角が落ちてから数か月間だけ見られる「袋角」です。
「初めの頃は、頭に赤っぽい『たんこぶ』があるように見えます」。
袋角の外側は毛の生えた皮膚で覆われており、内部に血管(や神経)が走り栄養を補給してその中心に骨質が形成されます。袋角はだんだんと枝分かれして成長します。夏頃になると角はほぼ完成して、外側の袋が破れ、中から白くて硬い角が出てくる仕組みになっています。
ちなみにこの袋角は漢方薬の原料になります。漢方では、「鹿茸(ろくじょう)」と呼ばれ、
強壮、鎮痛などに効果があるそうです(この鹿茸は、ワピチではなくマンシュウアカジカもしくはマンシュウジカというシカの袋角が原料になる)。
角のぶつけ合いから角を合わせての力比べ
立派な角を持つことは、オスのワピチにとってはとても重要な意味を持っています。というのは繁殖期(主に秋~冬の季節)になると、オス同士は角をぶつけ合うことで群れにおける順位を決めるからです。
「戦いは角のぶつけ合いから始まりますが、だんだん角を突き合わせての力比べのようになっていきます。1回の戦いは長くて15~20分くらいです。その角による争いを1日に何回か繰り返します」。この勝負では先に逃げた方が負けになります。角による戦いで勝者になった一番強いオスだけが、すべてのメスを従えてハーレムを作ることができます。
ワピチのオスにとって角は一種のステータスです。だから「春先に角が落ちたオスは、見た目がメスと同じになるだけでなく、ちょっと弱々しい感じになり、繁殖期の頃と違って大人しく座っていることが多くなったりする」そうです。
その他のワピチの身体的特徴としては、体毛が季節によって変化することが挙げられます。「体毛は、夏は黄褐色で、冬は灰色がかった白色に変化します」。
歯は全部で32本あり、短歯型の歯で主に葉食に適した歯になっています。ラマなどと同様に上顎の前歯がありません。
またワピチは鳴き声が独特なのだそうです。
「キューンという甲高い鳴き声をあげます。メスの場合は、自分の子供を探したり、呼ぶときに、また威嚇の一部としても鳴く」のだそうです。とくに母ジカの場合は、子供が自分から離れて見失ってしまうと通常より甲高い金属的な鳴き声をあげて呼び寄せます。またオスの場合は、繁殖期にメスを求めるときや、争う相手に対して威嚇をするとき、遠吠えのような大きな鳴き声を上げます。
通常はのんびり、でも繁殖期になると?
そんなワピチですが、どんな気性の動物なのでしょうか?
「通常はのんびりした性格で、それを表すように歩き方もゆっくりしています。ただ繁殖期のオスは別でとても攻撃的になるので、飼育の際も注意が必要になる」そうです。急に他の動物を追いかけ回すこともあるそうです。
最後に「ワピチあるある」について伺いました。
それは「威嚇する時、ギリギリと音をだしながら歯ぎしりして近づいて来ること」だそうです。でもそんな状況にもかかわらず「口から舌が出っぱなしになっていることがある」そうです。なんだか可愛らしいですね。