「ウサギ」|第27回アニマル”しっかり”みるみる
世界中から集まったさまざまな動物たちを、間近で見て・感じられる施設がサファリパーク。そんなサファリパークで動物たちの世話をする飼育員さんに、知っておくとちょっぴり動物通になれるポイントを、 "しっかり" ご指導いただきました。富士山の自然豊かな環境にある富士サファリパークの動物ふれあい課 飼育担当河西さんに、「ウサギ」を解説してもらいました。
大きな耳で気になる音をキャッチ
ウサギは、アジア、ヨーロッパ、アフリカ、北・南アメリカなど広く世界中に分布する草食動物です。大きい門歯と臼歯を持っていて、その門歯と臼歯との間に犬歯はなく、広い隙間になっているなどリスやネズミなどのげっ歯目と似たような特徴がありますが、ウサギ目として独立した分類群に属します。
ウサギは大きく分けると、耳も足も短く体の小さいナキウサギ科と、耳も足も長いウサギ科とに分かれます。ウサギ科に属する「アナウサギ」という1種類のウサギ(「ヨーロッパアナウサギ」が原種とされている)を長い年月をかけて家畜用に改良してきたのがいわゆる「カイウサギ」です。世界中には約150種類ものカイウサギの品種が存在すると言われています。
「現在、園内では『ミニレッキス』『ネザーランドドワーフ』『アメリカンファジーロップ』『ホーランドロップイヤー』『ミニライオン』『フレミッシュジャイアント』『ミニウサギ』の7種のウサギが見られます」(※河西さん以下同)。
ウサギは、野生下では肉食動物に捕食される動物です。そのため敵から身を守るための特有なつくりがいくつも体にそなわっています。
そのひとつが、大きな耳です。天敵から逃げることで身を守るため、音には敏感で聴覚が優れています。音を集める働きのある「耳介」(外に張り出て飛び出している部分)が発達して大きいのはそのためです。耳介の細長い形は集音効果が高いうえ、耳介の可動域は約270度もあり自由に動かせるので、すべての方向からの音を聞くことが容易にできます。耳は360~42,000Hzの音を聞き取る能力があり、とくに高音に対してはとても敏感に反応します。そのせいなのか「園内のウサギは人間には聞こえない音を察知しているらしく、急に耳をピンと立てて辺りの様子をうかがう様子をみせることがある」そうです。また耳介には密に末梢血管が走っているので、血液を通して体内の熱を放散でき、体温の調節にも役立っています。
2つ目は、後ろ足が前足に比べて長く、太ももの筋肉が発達しており、跳躍力に優れています(特にウサギ科に顕著な特徴)。速く走って天敵から逃げることで身を守るため、種類にもよりますが時速40~72kmくらいで走ることができます。ただスピードを出して、瞬発力を確保するため、骨のつくりが他の哺乳動物に比べると細くて軽く華奢になっており、少しの衝撃で骨折しやすい傾向があります。
3つ目は、ウサギの足の指にはネコにあるような肉球がなく、ブラシ状の厚い毛が生えていることです。そのおかげで走行中に硬い地面をしっかりとらえることができ、衝撃を吸収する効果もあります。
4つ目は、鼻に向けて縦に割れた独特の形をした唇(「上唇裂」と言う)を持っていることです。自由に開閉でき、この唇の動きによって鼻も動きます。ウサギの嗅覚は、イヌやネコには劣りますが、人間の10倍は優れていると言われています。「ウサギが鼻をピクピクさせているときは、周囲の匂いを嗅いで情報を収集しています。鼻の動きが速いときは、興奮・緊張の度合いが高まっている証拠」だそうです。知らない匂いがすれば警戒を強め、仲間などの知っている匂いを嗅ぎとれば安心してリラックスします。
5つ目が、顔の側面に配置された目です。自分の真後ろと鼻先以外は見ることができ、ほぼ360度の視野があるので、周囲の状況を広範囲につかみやすくなっています。ただウサギの視力自体はあまりよくなくて、人間でいうとかなりの近視で、しかも視野のほとんどが平面に見えているそうです。
「食糞」で栄養を効率よく吸収
ウサギは排泄に関して特徴がある動物です。それが「食糞」という独特の消化システムです。ウサギは最初に食べたものを、一度粘膜に包まれたブドウの房状の糞(盲腸便)にして排出します。低栄養で消化しづらい繊維質の多い草などを効率よく吸収するために、ウサギの盲腸は他の哺乳動物と違って重要な役割を担っています。盲腸内にはたくさんの微生物が常在し、えさになる植物の繊維の細胞壁を微生物の力を借りて壊し、消化吸収をよくします。ウサギは排出されたこの盲腸便を再度食べることによって、盲腸・結腸を経由して便の中にあるたんぱく質やビタミンを吸収し、今度は普通の便(コロコロの5mmから1㎝ほどの丸い形の糞)にして排出するのです。一見不潔にも思えるウサギの食糞行動には、こうした合理的な理由があるのです。
またウサギの行動として特徴的なのは、コミュニケーションの方法としてしぐさや行動を用いることです。ウサギは声帯を持っていないので、ネコやイヌのように鳴き声を出しません。「鳴き声を上げない代わりに、危険や不満があるときは後ろ足を強く地面に打ち付ける『スタンピング』で知らせたり、顎の下の臭腺をこすりつけるマーキングやお互いの鼻同士を擦り付け合う挨拶を行う」そうです。ただ鳴き声ではなく、鼻を鳴らして音を出すことはあります。「『ブッ、ブッ』という強く短い音を出すときは威嚇や警戒の意味があり、『プー、プー』と高い長めの音は嬉しくてリラックスしているときに出します」。
警戒心も好奇心も強い
そんなウサギは、どんな性質の動物なのでしょうか?
「ウサギの品種にもよりますが、基本的には穏やかで人に良く慣れます。噛みついたり、おびえて逃げるなど、警戒心が強い一面もあるのですが、その反面、好奇心が強く活発に行動する動物です」。
最後に「ウサギあるある」についても伺ってみました。
その1は、「目を開けたままで眠ること」です。安心できる場所で眠るときには、目をつむることもあります。目を開けたまま眠ることができるのは、一説には天敵からの急襲がいつあっても対応できるようにするためだとも言われています。
その2は、「急に体をパタンと横倒して、お腹を見せたりすること」です。こんなポーズはとても気持ちがリラックスしているときに見せます。
その3は、「人の手や足に鼻を近づけてツンツンとつつくこと」です。これは甘えの行動の一つで、「自分にかまって欲しいときのアピールです。人に慣れてくるとよく行います」。ウサギって、イヌやネコのように大きな鳴き声を上げたりはしないけれど、感情表現が豊かな動物なんですね。