佐藤琢磨もF1ドライバーも続々参戦! 盛り上がるeスポーツについて考えてみた
レースゲームが超絶進化! 佐藤琢磨選手やマックス・フェルスタッペン選手など、現役トップレーシングドライバーも続々参戦するeスポーツの魅力とは? イベントの模様に合わせて最新事情をレポートする。
ここ最近、eスポーツ(コンピュータゲームをスポーツ競技として、腕を競い合う)の世界に続々とプロのレーシングドライバーが参戦していることをご存じだろうか。その大きなきっかけとなったのは、いまも猛威を振るう新型コロナウイルスの感染拡大だ。
世界各国で開催が予定されていたレースイベントが続々と中止・延期に追い込まれていくなかで、eスポーツによるバーチャルレースに現役のトップドライバーたちがこぞって参戦を表明。一気に注目を浴びた。
プレイヤーをオンラインでつなぎ、接触を避けつつレースができるeスポーツは、今の時世にはまさにうってつけのコンテンツだ。バーチャルとリアル、ふたつの世界が融合することでeスポーツは今後どう変わる!?
佐藤琢磨選手もバーチャルレースに参戦!
先日、世界3大レースのひとつに数えられる「インディ500」で2度目の優勝を飾った佐藤琢磨選手も、今回新たにeスポーツに参戦した大物ドライバーのひとりだ。
北米最高峰のカーレース「インディカー・シリーズ」は、新型コロナの感染拡大によって大会の中止・延期を余儀なくされたが、ファンサービスの一環としてレーシングシミュレーターを使ったバーチャルレース『iRacing』と提携し、現役インディカードライバーによるオンラインバトル『IndyCar iRacing Challenge』を開催。そこに佐藤琢磨選手も参戦した。
舞台となったのは、かつて実際にインディが開催されていたツインリンクもてぎ。オーバルコースは東日本大震災以来レースは行われていないが、バーチャル空間で10年越しのレースとなった。
琢磨選手は今回、IndyCar iRacing Challengeに参戦するため、シミュレーター機材一式を購入するところからはじめたという。iRacingは超本格派ゆえ、機材選びは大変だったそうだ。実際に走ってみると、映像が美しいことは当然ながら、もてぎ特有のバンプだったり、独特の難しさだったりが忠実に再現されていて驚いたそう。
実車との違いは、バンクの角度やGフォース、車の角度(グリップが抜けた瞬間)といった情報がまったく感じ取れないこと。ステアリングから伝わってくるフォースフィードバック(操作や画面内の状況に連動して発生する振動や衝撃)と視覚的情報がすべてなので、コントロールすることが難しいが、それでも再現力は非常に高く感じた、とレース後のインタビューで答えている。
レースの模様が収録されているYou Tube動画を見ると、レースエンジニアも交え、実戦さながらテレメトリーを駆使し、タイヤの摩耗や温度管理、さらには燃料消費など車両の状態を常にドライバーとオンラインで共有しながら挑んでいる様子がうかがえる。
「INDYCAR iRacing Challengeは、バーチャルである以外はほとんど本物と同様のオペレーションになります。レースコントロールがあり、2日間の合同練習や、チームのエンジニアたちもオンラインで日夜バックアップするなど、本当に真剣なレースです。コース上でのバトルはいつもレースしているドライバーの癖なども見えて本当に面白い反面、とてもコンペティティブなフィールドでした」と琢磨選手は自身の公式サイトでコメント(一部抜粋)。結果は12位だったが、一時は3位を走行するなど世界中のファンを大いに沸かせてくれた。
世界一速いドライバーは誰だ!?
eスポーツに積極的なのは、何もインディカーに限った話ではない。NASCARや2輪レースのMotoGP、そしてF1もオンライン上で熱戦が繰り広げられている。特にF1は若手注目株ドライバーの、シャルル・ルクレール選手(フェラーリ)、アレクサンダー・アルボン選手(レッド・ブル)、カルロス・サインツJr.選手(マクラーレン)らが参戦し、話題を集めた。
数あるeスポーツの中でも、筆者が最も興味を惹かれたのが『The All Star Esport Battle』と題され、3月に開催された現役トップドライバーたちによる異種格闘技戦だ。
こちらは元F1ドライバーのルーベンス・バリチェロ氏と、ファン・パブロ・モントーヤ氏の2名が顧問を務めるカナダのeスポーツ企業「トルクEスポーツ」が主催する大会で、出場者にはレッドブルのマックス・フェルスタッペン選手をはじめ、インディ500優勝ドライバーのサイモン・パジェノ選手など、各モータースポーツカテゴリーの現役トップドライバーたち名を連ねた。
同大会には、レーシングドライバーだけでなく、プロ・アマのeスポーツプレイヤーも参加しており、リアルとバーチャルの垣根を超えた、まさに世界最速の称号を賭けたオンラインレースバトルとなった。優勝したのは、なんと一般で参加したロシア出身のプレイヤー。現役レーシングドライバーがまさかの敗退という、誰も予想もつかない展開が繰り広げられるのも、eスポーツが支持される理由のひとつなのかもしれない。
このように、いま大きな盛り上がりを見せるeスポーツだが、ミハエル・シューマッハ選手と並んで最多勝タイ記録を持つ現F1ワールドチャンピオンのルイス・ハミルトン選手は、eスポーツに対してちょっと違う見方をしているようだ。
メルセデス・ベンツのオフィシャルインタビューでハミルトン選手は「eスポーツには参加しない。シミュレーターはあまり興味がない」とコメント。「グランツーリスモはプレイするけど、それは遊びであって競争ではない」と語る。シミュレーターをあまり好きでない理由について同選手は「シミュレーターは動きがまだ完璧ではない。シートは動かないし、マシンの動きが掴めないんだ。ふたつは全く別物だ」と続けた。F1の開発で使うシミュレーターを使う機会もめったにないというハミルトン選手。実車とシミュレーターにはまだ埋められない大きな溝があると感じているようだ。
たかがゲームと侮るなかれ
たかがゲーム、されどゲーム。今後、リアルとバーチャルの間で、eスポーツはどう進化していくのだろうか。おもしろい一例がある。それがフォーミュラEによる公式eレースで起こった出来事だ。
電気自動車のレース、フォーミュラEも新型コロナウイルス感染拡大の影響でレースが開催できずにいた。『フォーミュラEレース・アット・ホーム・チャレンジ』は、その代替案として行われ、実際にレース参戦しているレーシングドライバーたちが出場し、オンラインでレースを繰り広げていた。
問題が起こったのは第5戦。3位に入ったダニエル・アプト選手(アウディ)だったが、なんと自身でマシンを操縦しておらず、プロのeスポーツプレイヤーが替え玉としてマシンをコントロールしていたことが発覚したのだ。
この不正行為によりアプト選手は、第5戦の失格および、これまでのフォーミュラEレース・アット・ホーム・チャレンジで獲得したポイントの剥奪、慈善団体に対して1万ユーロ(約117万円)の寄付をすることが義務付けらることに。そしてアウディは、この処分に加えアプト選手に対してフォーミュラEのドライバーとしての資格を停止するという厳しい処分を発表した(現在はレースに復帰している)。
本人はたががゲーム、お遊びという認識だったのかもしれない。だがアウディは違った。Eスポーツを純然たるレースとして、モータースポーツ活動として位置づけていた。またワークスドライバーが担う役割としては許されざる行為だった、ということだろう。この事件はレーシングドライバーの間でも、ゲームなのかスポーツなのか、ちょっとした論争に発展することになった。
モータースポーツをテーマにしたeスポーツは、他の競技と違って、ステアリグにペダル、フルバケットシートが備わるなどかなり実車に近い。その結果、プレイする方も、見る側も白熱してしまう。そこでは実際のレースと変わらぬ見応えあるバトルが展開されている。
もしGフォースなど車の挙動をリアルに感じ取れるようになったら、ハミルトン選手も参加してくれるのだろうか。世界一速いドライバーは誰だ。今後もeスポーツの進化に注目せずにはいられない。