「アフリカタテガミヤマアラシ」|第12回アニマル”しっかり”みるみる
世界中から集まったさまざまな動物たちを、間近で見て・感じられる施設がサファリパーク。そんなサファリパークで動物たちの世話をする飼育員さんに、知っておくとちょっぴり動物通になれるポイントを、 "しっかり" ご指導いただきました。富士山の自然豊かな環境にある富士サファリパークの動物ふれあい課飼育担当の尾田さん に、「アフリカタテガミヤマアラシ」を解説してもらいました。
逆立てた毛で肉食動物に致命傷を与えることも
長く鋭いトゲのような毛(針毛)で体全体が覆われ、その毛を逆立てることで肉食動物の攻撃から身を守るヤマアラシ。げっ歯目に属する動物で、ネズミの仲間です。今回のお話は、そんなヤマアラシの中でもタテガミ状の長い毛が特徴的な「アフリカタテガミヤマアラシ」。アフリカ中北部の他、南アフリカなど、アフリカの砂漠地帯を除くさまざまな場所やイタリアなどの地中海沿岸部にも暮らしています。夜行性のため昼間は巣穴の中で過ごし、夜になると採食の為、歩き回ります(一晩で15㎞ほど移動したという調査データも)。食性は、野生のものは主に木の根や球根を食べています。前足にある丈夫な太い爪を使って掘り起こして食べます。葉を食べることもあるようです。
そんなアフリカタテガミヤマアラシは、どんな性格の動物なのでしょうか?
「ヤマアラシの中でも、警戒心が強く気性の激しい種類です。飼育中、物音を立てたりしてアフリカタテガミヤマアラシをびっくりさせてしまうだけで、毛を逆立てたまま後ろ向きになってお尻の方から向かってきます」(尾田さん※以下同)
威嚇のときには、後ろ足を踏み鳴らし、尻尾の毛を震わせて「シャラシャラ」と音を立てます。さらに身の危険を感じると攻撃を開始。毛を逆立てて後ろ向きに突進します。
「前向きで走る方が速いのですが、後ろ向きでも機敏に動きます。スピードは人間の大人が走るよりはちょっと遅いくらいでしょうか」。攻撃をじっと耐え忍んで活発には動かない動物なのかと思ったら、さにあらずですね。
しかもその毛は先が鋭くとがっており、針の先のような感じ。ゴム製の長靴やアルミ缶だと貫通してしまうほどです。野生の肉食動物にも突進していって致命傷を与えることもあるほどなので、「飼育で接する際には、木の板で身を守りながら作業することもある」そうです。
毛の長さは、体の場所によって違っており、長い毛だと40cmほど、短い毛だと10㎝ほど。成分は人間の髪の毛や爪と同じ「ケラチン」です。後頭部から尾にかけて、毛は太く鋭くなっており、中は空洞かスポンジのようなものが詰まっていて、見た目よりは軽く、外側は硬くなっています。尻尾を震わせると「シャラシャラ」という軽い音がするのはそのためです。
色は、黒(茶色っぽい黒)と白のまだら模様になっていて、生えているところによって変わります。毛を逆立てたり、音を出したり、目立つ色だったりなど、「自分は危険な存在である」ことを強くアピールしている訳ですね。
耳の形が人間に似ている!?
アフリカタテガミヤマアラシは、その鋭くとがった毛以外にも特徴がある動物です。 たとえば歯ですが、ネズミの仲間だけあって門歯(前歯のうち、まんなかにある歯)が生涯伸び続けます。そのため「歯の長さを調整するため、木など硬いものをよくかじる」そうです。
また嗅覚が優れています。あまり視力がよくないため、「お客様がエサあげ体験をするときなどは、大きな鼻息を立て匂いを嗅ぎながら近づきます」とのこと。エサなどの位置を把握するのに嗅覚を頼りにしているのですね。
アフリカタテガミヤマアラシはその鳴き声が独特です。「ブホブホ」という鼻に息をためてそのまま吐き出したような声をあげます。「人間の鼻息に似た感じ」なのだそうです。「交尾のとき、子と母が離れたときや排便などで力を入れて踏ん張るとき」に鳴き声をあげることが多いそうです。
耳の形にも特徴があります。針に隠れてちょっと分かりづらいのですが、よく見ると耳たぶもついています。「見た感じがすごく人間の耳(とくに耳たぶが)の形に似ていて面白い」そうです。
一旦ケンカが始まると止められないほどヒートアップ
アフリカタテガミヤマアラシは、つがいなど少数の個体からなる家族の群れで生活しています。野生下では、出産後、穴の中などで子育てします。妊娠期間は約4か月ほどで、1回で1~3頭ほど出産します。子育てはメスだけでなくオスも手伝います。「オスの役目は、エサを持ってきたり、寝床をつくるのを手伝ったりすること」です。
最後に「アフリカタテガミヤマアラシあるある」について伺いました。それは「一旦ケンカが始まってしまうと、止めるのが難しくなってしまうこと」だそうです。
親子や兄弟など、慣れている個体同士では互いに毛づくろいをしたりして仲良しですが、かかわりのない個体同士はすぐに争いが起こり、大ケガになることもあるそうです。 「飼育の際には、普段気が合わない同士はかち合わないように気を付けているのですが、大ゲンカに発展することがあり、そうなると人間でも止めることが難しくなるくらいの激しさです」。戦いはお互い尻を向け合っての針の刺し合い。ケンカをした場所を後で見てみると、動物舎のあちこちに針が刺さっていたりするそうです。つぶらな瞳だったり、食べものを両方の前足でささえながらハムスターのようにして食べるなど、可愛い外見や仕草とは裏腹に激しい闘争心の持ち主なのでした。