クルマのある暮らしをもっと豊かに、もっと楽しく

Series

最終更新日:2023.06.14 公開日:2020.09.11

『イタリア発 大矢アキオの今日もクルマでアンディアーモ!』第8回 とびきりのイタリアをスクロール ! 中部トスカーナ(ヴァーチャル)紀行

気分はもう完全に海外旅行!? イタリア在住のコラムニスト、大矢アキオがヨーロッパのクルマ事情についてアレコレ語る連載の第8回目は、Googleのストリートビューを使って、とっておきのイタリア・ヴァーチャル・トリップをご紹介。

文と写真・大矢アキオ(Akio Lorenzo OYA)

記事の画像ギャラリーを見る

イタリア”通”な人気の4スポットを紹介!

かつてイタリアで、夏のヴァカンツェ(ヴァカンス)といえば7月末から8月末が定番だった。仕事の最終日、工場で家族が正門前に車で待機し、夕方の退社時刻に夫を乗せてそのまま旅立った……というのは、高齢のイタリア人からよく聞く昔話である。いっぽう今日では、働き方の多様化と温暖化による気温上昇を背景に、敢えて9月に夏休みをとる人も少なくない。

今回はイタリア人の国内旅行地としても人気がある中部トスカーナ州を、Googleストリートビューで読者の皆さんと巡ってみたい。といっても、フィレンツェやピサといった定番観光地はお引取り願った。代わりに、アルプスの向こうの国々から来る”通”な旅人にさえ人気の4スポットを選んだ。

1. シエナ – Siena
その街は国家だった!

最初に皆さんが降り立つのは、筆者が23年にわたって生活している街シエナである。フィレンツェから南に約60km、人口約5万3,000人の県都だ。歴史的旧市街には、15世紀末に完成した市壁の外に車を置いて入ることになる。

今回ストリートビューで降りるスポットとして選んだのは「世界一美しい広場」といわけるカンポ広場だ。毎年7月と8月には、ここに土を敷き、競馬「パリオ」が開催される。3万人の人々が見守る、イタリアを代表する行事のひとつだ。

塔を備えた建物は市役所。だがそれは、13世紀末から14世紀初頭にシエナ政府の庁舎として建てられたものだ。1555年にフィレンツェによって陥落するまで、シエナは独立した都市国家だったのである。

カンポ広場とともに、シエナで有名なものといえば大聖堂。今も多くの巡礼者がローマの前に立ち寄る。

2. ヴィンチ村 – Vinci
天才が生まれた村

フィレンツェの西約40kmにある小さな村は、2019年に没後500年を祝ったレオナルド・ダ・ヴィンチ(1452-1519)の生誕地である。イタリア語でda は『○○の出身』を示す。つまり彼の名は、つまりヴィンチ村で生まれたレオナルドという意味だ。

レオナルドの父はフィレンツェ政府の公証人、母は農家の娘だったとされている。身分の違いを考え、家風を重んじた父方の祖父は、母とレオナルドだけをこの村の納屋に住まわせた。今日の人口は1万4,000人。のちにヨーロッパ史に輝く天才ゆかりの地とは思えぬ静寂に包まれている。

今日博物館になっている塔に登り、ヴィンチ村をのぞむ。

3. ピティリアーノ – Pitigliano
岩の町に秘められた歴史

凝灰岩が隆起した台地に建つ町を、絶景ポイントからご覧いただこう。壮観な町に秘められた歴史にも、奥深いものがある。16世紀中盤、ローマを追われて北上してきたユダヤ系住民たちを地元貴族が保護したのがきっかけで、町は栄える。

しかし17世紀、フィレンツェの支配下に入ると、ユダヤ人たちには強制移住区が設けられ、その後長く彼らにとって悲劇の時代が続いた。ここでは、20世紀中盤まで実際に彼らが住んでいた居住区跡は現在見学できるようになっている。ユダヤの戒律の基づいた食品も販売されている。

併設のシナゴーグ(ユダヤ教会)には、帽子「キッパ」を貸してくれるので、それを着用して見学する。かつて”小さなエルサレム”と呼ばれた村の面影は、今も偲ぶことができる。

あたかも岩と一体化したような町、ピティリアーノ

4. ジーリオ島 – Isola del Giglio
小さな島の夏

本土から約1時間。その面積24平方kmは、小笠原諸島の父島とほぼ同規模である。ハイシーズンは車の混雑を避けるため、島の宿に最低5日以上宿泊する人のみ、フェリーに車を載せることが許される。16世紀、北アフリカの海賊の襲撃により、島民の大半が命を落とし、また奴隷として島から連れ出された。しかし、フィレンツェのメディチ家がブドウ栽培の移民を送り込んだことで、島は復興を遂げた。

読者の皆さんに降りていただくのは、船が着く港ジーリオ・ポルトだ。ここが突如世界の注目を浴びたのは、2012年のクルーズ船座礁事故だった。ストリートビューには偶然にも、同船の解体現場が僅かに映っている。

いっぽうで幸運なことに、画像は9月に撮影されている。グッズを壁に陳列する土産物店の店員、外の椅子で涼むおばさん、そしてサンダルで歩く少女……といった、まだまだ終わらぬ夏の風景を充分に楽しめる。小さなバールからは、店内に籠りきらないエスプレッソの香りが漂って溢れているに違いない。

本土からの船が着くジーリオ・ポルトを見下ろす。

ジーリオ・ポルトから南へ約1.5kmにあるカンネッラ海岸。

 今回紹介した街や村に何日か滞在していて面白いのは、その規模からして「同じ人に何度でも会う確率が高い」ことである。とくにジーリオでは、島内に僅か3村であることから、どこに行っても同じ人と会うばかりか、同じ車と何度もすれ違ってしまったりする。それは、かつて大都市東京から移り住んだ筆者にとって、極めて新鮮な体験だった。

観光客同士だけではない。住む人たちとも頻繁に顔を合わせる。やがてどちらからともなく「チャオ」と挨拶を交わすようになり、気がつけば自分も住民であるかのような錯覚におそわれる。さらに、多くの住民は長年同じ場所の、同じ店で働いている。そのため、あなたが何年か後にふたたび旅をしても、また同じ顔が迎えてくれるのだ。なんと人間的なスケール!

同じイタリアでもローマやミラノでは得られない触れ合いを想像しながら、しばしGoogleストリートビューでの旅をお楽しみいただきたい。

記事の画像ギャラリーを見る

この記事をシェア

  

Campaign

応募はこちら!(12月1日まで)
応募はこちら!(12月1日まで)