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最終更新日:2023.06.16 公開日:2020.09.01

9月1日は防災の日。首都直下地震に備えた「八方向作戦」とは?

9月1日は防災の日だ。首都圏では、今後30年以内にマグニチュード7クラスの直下地震が、約70%の確率で発生するといわれる。国土交通省では、警視庁や東京消防庁などと連携し、迅速な救助活動などを行うための「八方向作戦」を準備しているが、はたしてどのような作戦なのか。

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道路啓開のイメージ。出典:東京国道事務所ホームページ

 9月1日が防災の日として、閣議決定されたのは1960年のこと。1923年9月1日に発生した関東大震災が甚大な被害をもたらしたこと、また1959年9月26日の伊勢湾台風によって戦後最大といわれる大きな被害が出たことが契機となり、自然災害に対して意識を高める日として、防災の日は設けられることとなった。

そもそも日本列島は、数千万年前の誕生時から地震多発地帯であることが宿命付けられている。日本列島はふたつのプレートの上にあり、また近海には別のプレートがふたつ存在する。つまり、4つのプレートがせめぎ合う中に位置しており、地震や火山とは切っても切り離せない関係だ。そして今、発生が確実視され、警戒されている大地震のひとつが「首都直下地震」である。

首都直下地震は、マグニチュード7クラスの地震として、今後30年以内に約70%の確率で発生すると予測されている。はたして、どれだけの被害をもたらすのか。2013年12月に、中央防災会議首都直下地震対策検討ワーキンググループが発表した「首都直下地震の被害想定と対策について(最終報告)」が興味深い。そこには、震源地を幾通りも変えてシミュレーションした震度推定分布図が掲載されている。画像1は、震源地を首都圏南寄りと想定したシミュレーション結果で、黄色が震度6弱のエリアで、オレンジ色が6強、湾岸部など一部には7を示す赤も見えている。

最大の被害想定は、死者が約2万3000人、全壊・焼失家屋が約61万棟、要救助者が約7万2000人、被害額が約95兆円。甚大な被害が想定されている。

画像1。首都直下地震の震度推定分布図。出典:中央防災会議首都直下地震対策検討ワーキンググループ「首都直下地震の被害想定と対策について(最終報告)」

 それでは、この首都直下地震に対して、どのような備えが行われているのだろうか。

首都直下地震発生後、最も重要になるのは、救助活動、緊急物資のための通行や輸送を確保することである。そこで、発災後の道路交通の回復を目的に、関係各機関が連携して2016年6月に策定したのが、「首都直下地震道路啓開計画(改訂版)」、通称「八方向作戦」である。「道路啓開」とは、道路が通行できるよう切り開くことを意味する。

緊急車両が都心部へ48時間以内に駆けつけるための「八方向作戦」

画像3。道路啓開「八方向作戦」のイメージ。出典:首都直下地震道路啓開計画(改訂版)

 八方向作戦は、発災後の状況に合わせて都心へ確実にアプローチできるよう、8方面からのルートを個別に設定するものだ。具体的には、各方面からの高速道路(NEXCO東日本、同中日本、首都高)と、それと並走する国道などを組み合わせて設定されている。確保される車線数は、郊外から都心へ向かう1車線と、都心から郊外へ向かう1車線の合計2車線。人命救助の “72時間の壁” を意識して、発災後48時間以内に各方向最低1ルートを確保することが目標とされている。八方向とは、以下の通りだ(北から時計回り)。

●E4東北道方面
●E6常磐道方面
●E14京葉道路方面
●CA1東京湾アクアライン方面
●首都高・K1横羽線方面
●E1東名高速方面
●E20中央道方面
●E17関越道方面

なお八方向作戦に関わる数多くの訓練も実施されている(画像4)。国土交通省や関連機関、民間企業などが協力し、道路啓開や段差解消、緊急物資輸送、渡河橋設置などの訓練が行われ、非常事態に備えている。

画像4。道路啓開など、首都直下地震に備えた各種訓練の様子。出典:関東地方整備局ホームページ

大地震発生時には渋滞を防ぐために大規模な交通規制を実施

画像5。公益財団法人 日本道路交通情報センターが運営する「道路交通情報Now!!」における、2011年3月11日19時40分時点の東京都心部の一般道路の交通状況(赤が渋滞を示す)。数多くの幹線道路で大渋滞が発生した。画像提供:公益財団法人 日本道路交通情報センター

 八方向作戦を成功させるための重要な要素のひとつが、渋滞抑制である。首都直下地震のような緊急事態の際には、鉄道やバスなどの公共交通が全面的にストップする可能性が高いため、多くの人がクルマを使用する可能性がある。

たとえば、東日本大震災が起きた2011年3月11日の夜は、画像5にあるように、都内の多くの幹線道路が大渋滞となってしまった。地震の影響で公共交通が全面的にストップしたたため、多くの人がマイカーなどでの移動を試み、その結果、各道路の交通容量(※1)に対して交通需要(※2)が大幅に超えてしまい、大渋滞となったのである。さらに、クルマの増加に加えて、徒歩で帰宅を試みた人々が、路上にあふれてしまったことも大きな要因だったといわれる。

このような状態では、迅速な救助活動や緊急物資の輸送はおぼつかない。そのため、東京では震度6以上の地震が発生した場合、2段階の交通規制を行うことが決められている。

※1 交通容量:その道路において、一定時間あたりに通行可能なクルマの台数のこと。
※2 交通需要:一定時間にその道路を通行しようとするクルマの総数のこと。

第1段階の「第一次交通規制」で行われる4つの規制

交通規制図。出典:関東地方整備局ホームページ

 第1段階の「第一次交通規制」は、道路交通法に基づいて実施される交通規制だ。道路における危険を防止するとともに、緊急車両の円滑な通行を確保することを目的としている。第一次交通規制では以下の4つの規制が実施される。

1.環七通り(都道318号)から都心方向への通行を禁止
都心部の交通量を削減するため、都心方向へ流入する車両の通行禁止規制が実施される。

2.環八通り(都道311号)から都心方向への車両の通行を抑制
信号抑制により、都心方向へ流入する車両の通行が抑制される。

3.「緊急自動車専用路」の指定
以下の一般道6路線と、高速道路が緊急自動車専用路として指定され、通行禁止規制が実施される。

●国道4号(日光街道など)
●国道17号(中山道、白山通り)
●国道20号(甲州街道など)
●国道246号(青山通り、玉川通り)
●都道8号・24号(目白通り、新目白通り)
●都道405号(外堀通り)

4.都内に極めて甚大な被害が生じている場合
被災状況に応じて、車両の交通規制が実施される。

第2段階の「第二次交通規制」では「緊急交通路の優先指定」などを実施

第2段階の交通規制は、災害対策基本法に基づいて行われる「第二次交通規制」だ。災害応急対策を的確かつ円滑に行うための緊急交通路を確保するためのものである。以下のことが実施、もしくは実施される可能性がある。

1.「緊急交通路」の優先指定
第一次交通規制で「緊急自動車専用路」として指定された高速道路と一般道6路線が、今度は優先的に「緊急交通路」として指定される。

2.そのほかの緊急交通路の指定
被害状況、道路交通状況、災害応急対策の進捗状況などを踏まえ、必要に応じて以下の路線も緊急交通路として指定される可能性がある。

【国道】(路線番号順)
●1号(内堀通り、永代通り、桜田通り、第二京浜、中央通り、晴海通り、日比谷通りなど)
●6号(江戸通り、言問通り、水戸街道など)
●14号(京葉道路)
●15号(第一京浜など)
●16号(東京環状、八王子街道など)
●17号バイパス(新大宮バイパス)
●20号(甲州街道、新宿通り、日野バイパスなど)
●122号(北本通りなど)
●139号(旧青梅街道)
●246号バイパス(大和厚木バイパス)
●254号(春日通り、川越街道など)
●357号(東京湾岸道路)

【都道】(名称順)
●五日市街道(7号)
●稲城大橋通りなど(9号)
●井の頭通り(7号)
●芋窪街道など(43号など)
●青梅街道(4号、5号)
●鎌倉街道など(18号など)
●川崎街道(9号、20号、41号)
●北野街道(173号)
●蔵前橋通り(315号)
●甲州街道(256号)
●小金井街道(15号、24号)
●志木街道(40号)
●新青梅街道(5号、245号、440号)
●新奥多摩街道など(29号など)
●新小金井街道(15号、40号、248号)
●新滝山街道(169号)
●滝山街道(411号)
●多摩ニュータウン通り(158号)
●中央南北線など(153号など)
●東八道路(14号)
●中原街道(2号)
●八王子武蔵村山線(59号)
●府中街道(9号、16号、17号)
●町田厚木線(51号)
●町田街道など(47号など)
●三鷹通り(121号)
●睦橋通り(7号)
●目黒通り(312号)
●吉野街道(45号、411号)

なお震度5強の地震であっても、道路交通法に基づいた第一次交通規制の一部が実施される可能性があることも覚えておこう。実施されるのは以下の2点だ。

1.環七通りから都心方向への通行禁止規制
2.環八通りから都心方向への車両の流入抑制

運転中に大地震に遭遇した際にドライバーが採るべき3つの行動

大地震発生時、ドライバーはクルマを安全に路肩に止め、周囲の安全を確かめてから徒歩で避難すること。出典:東京国道事務所ホームページ

 万が一、クルマを運転中に首都直下地震のような大地震に遭遇した場合、ドライバーはどのように行動すべきだろうか。消防庁の「防災マニュアル 震災対策啓発資料」を参考にまとめた。

1.クルマの止め方について
強い揺れを感じても、急ブレーキは禁物。徐々に速度を落とし、緊急車両が通行できるよう、路肩に停車させる。高速道路の場合は、まずハザードランプを点灯させ、高速走行している前後のクルマに注意を呼びかけてから停車させること。
2.クルマからすぐに飛び出さない
路肩に止めてエンジンを切ったからといって、すぐにクルマから出ないこと。揺れが収まるまで待って、車外に慌てて飛び出さないように注意しよう。また、カーラジオで情報を収集しておきたい。
3.クルマから離れる際の注意点
窓を閉め、ドアをロックせず、キーは差したまま、もしくはキーレスキーやスマートキーの場合は、ドアポケットなどのわかりやすい場所に入れた状態で車内に残してクルマを離れること。また、車検証を忘れずに持って行くようにしよう。このようにすぐに運転できるようにしてクルマを離れるのは、道路啓開の作業時に、警察官や消防隊員などがクルマを移動させる可能性があるからだ。なお高速道路の場合は、約1kmごとに非常口が設置されており、そこから徒歩で地上に脱出することが可能だ。

 なお、大地震が発生した直後は、緊急車両などの通行の妨げとなるため、クルマでの避難をしないようにしよう。


ひとりひとりが慌てずに行動すれば、救助活動や緊急物資の輸送などを迅速に進めることができる。非常事態に直面しても、あらかじめ採るべき行動などがわかっていれば、より冷静に対応しやすい。

また、大地震に遭遇した際にドライバーが採るべき行動は、何も首都圏のドライバーに限った話ではない。日本に住んでいる以上、いつ大地震がどこで発生するかわからないので、万が一に備えて覚えておくことが望ましい。

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