タクシーがフェンダーミラーを採用する理由。ドアミラーとの違いは?
現在、国内で販売される乗用車のほとんどがドアミラーを採用するなか、タクシーの多くがフェンダーミラーを採用している。タクシーはなぜフェンダーミラーを採用するのだろうか。そのメリットやデメリットを調査すると、操作性や乗客に対する配慮が理由だとわかった。
多くのタクシーがフェンダーミラーを採用。
運転中の安全確認に欠かせないサイドミラーには、車両の前席ドア外側に設置された「ドアミラー」とボンネット前方のフェンダー部に設置された「フェンダーミラー」がある。
現在、国内で販売されている乗用車のほとんどがドアミラーを採用していて、フェンダーミラーの設置された乗用車を目にする機会は少なくなった。しかし、タクシー車両においては話が違い、街で見かけるタクシーはフェンダーミラーを採用している方が多い。2017年に発売されたタクシー用車両「トヨタ・JPN TAXI(ジャパンタクシー)」も新型車でありながら標準でフェンダーミラーを採用しているほどだ。
タクシー事業大手の大和自動車交通株式会社によると、同社の保有するタクシー約700台のうち、7割ほどの車両がJPN TAXI。クラウンなどの従来車両と合わせると約9割の車両がフェンダーミラーを採用しているという。ちなみにドアミラーを採用している車両はプリウスやアルファードなど、一般車をベースにしたごく一部の車両のみだという。
タクシーがフェンダーミラーを採用する理由
ドアミラーが主流の現在において、タクシーがフェンダーミラーを採用し続ける理由はなんなのだろう。大和自動車交通によると、以下の3つの理由が考えられるという。
1つ目は、フェンダーミラーはドアミラーよりも前方にあるため目線の移動が少なくて済むこと。
ドアミラーはドライバーのほぼ真横に設置されているため、助手席側のミラーを見るときには首を動かす必要がある。しかし、フェンダーミラーはドライバーの視界に入っているため、視線を少し動かすだけでミラーを見ることができる。
2つ目は、後席の乗客への配慮。
前述の通り、助手席側のドアミラーを確認するためには首を動かす必要がある。これを後席側から見ると、ドライバーが後席をチラチラと確認しているように見えるため、乗客が不快な思いをする場合がある。フェンダーミラーならば、視線を気にせずリラックスできるとの配慮もあるという。
3つ目は、ドアミラーよりも車幅が狭くなること、車両感覚がつかみやすいこと。
フェンダーミラーの種類や取り付け状況にもよるが、多くの場合はドアミラーよりも若干車幅を抑えることができる。そのうえ、フェンダーミラーに慣れると車幅がつかみやすくなり、狭い路地などでの運転にも役立つという。
タクシーはドライバーの対角線上にある後席左側のドアから乗客を乗せる。フェンダーミラーの方が乗客の立ち位置に合わせて路肩に寄せやすいのだとか。
フェンダーミラーのデメリットは?
操作性ではフェンダーミラーにメリットがあるのに、なぜ一般の乗用車ではドアミラーが普及したのだろうか。一般的にはフェンダーミラーには以下のようなデメリットがあるといわれている。
【フェンダーミラーのデメリット】
・ボンネット上に飛び出す形状になるため、クルマのデザインに影響がある。
・ドアミラーよりも遠いため、ミラーに映った鏡像が小さく見える。
・ミラーの角度変更や水滴などの拭き取りに手間がかかる。
かつて日本では、道路運送車両の保安基準でボンネットを有する車両にはフェンダーミラーの取り付けが義務付けられていた。しかし、外国車の多くがドアミラーを採用していたため、輸出入の際に、サイドミラーの付け替えをせねばならなかった。そのコストや効率面が輸出入の際の非関税障壁となっており、国内外のメーカーがら声が上がったことで、1983年3月に規制緩和されたといわれる。
ドアミラーが普及したのは、実用上の課題からというよりは、輸出入に関する政治やビジネス上の理由と、外観デザイン上、メーカーもユーザーもドアミラーを好んだことが要因と推察できる。
そのような中で、タクシー車両の多くが今でもフェンダーミラーを採用するのは、操作性や乗客に対する配慮を優先した結果であるといえそうだ。ちなみに、近年ではカメラモニタリングシステム(CMS)などの新技術も市場に出てきているため、操作性や利便性ではこちらの方に軍配が上がりそうだ。もしCMSが導入しやすい価格帯になってくれば、タクシーからフェンダーミラーが消える日も来るかもしれない。