自動車燃費ランキング2019:普通・小型車編
国土交通省が毎年発表している燃費ランキングベスト10。まずは普通・小型車編を、各車に搭載される燃費技術の解説とともにお届けする。なお2019年は、日本独自の試験方法であるJC08モードによる燃費値比較の最終年。はたして、ランキングの顔ぶれは?
国土交通省は毎年3月に、前年12月31日時点で発売されている車種を対象とした燃費性能値をランキングにして公表している。メーカーには燃費性能の優れたクルマの開発を促すと同時に、ユーザーには省エネルギーへの関心を高めてもらい、燃費に優れた車種の購入を促すことが目的だ。
なお”燃費性能の評価”とは、「自動車の燃費性能の評価及び公表に関する実施要領(平成16年度国土交通省告示第61号)」に基づく評価のことである。燃費とは1Lの燃料でクルマが走行する距離のことだが、具体的には型式指定審査において取得する国土交通省審査値のことだ。つまり、カタログに記載されているJC08モードの燃費値のことで、単位は「km/L」。この数値が大きければ大きいほど、燃費性能に優れる(低燃費な)クルマということになる。
2019年は燃費試験法「JC08モード」の最終年
2019年の燃費ランキングの大きなトピックは、2011年以来採用されてきた日本独自の試験方法であるJC08モードの最終年となることだ。2020年からは国際的な試験方法のWLTCモードによるランキングに切り替わる。
WLTCとは、「Worldwide-harmonized Light vehicles Test Cycle」の略で、「世界統一試験サイクル」と訳される。混同しやすい用語としてWLTPがあるが、こちらは「Worldwide harmonized Light vehicles Test Procedure」の略で、「乗用車等の国際調和排出ガス・燃費試験法」のこと。WLTPとは試験方法全体のことであり、その中に含まれる試験サイクルがWLTCである。WLTPは、国ごとに実施されている燃費試験を1回で済ませられるようにして、メーカーにかかっている負担を減らすことを目的として提唱された。そして、2014年3月に開催された、国連欧州経済委員会(UN-ECE)の第162回自動車基準調和世界フォーラム(WP29)にて採択され、日本では2020年から実施することとなったのである。
WLTCモードの特徴は、複数の速度条件の試験で燃費値を測定し、それぞれを平均的な使用時間配分で構成することで燃費値を算出すること。複数の速度条件とは、市街地(低速)、郊外(中速)、高速道路(高速)の3種類だ。それぞれの値も公表されるので、市街地のストップ&ゴーの低速走行で燃費がいいとか、高速道路の高速クルージング走行に強いとかそのクルマの得意な速度域もわかるのだ。日本ではこの3種類の試験を行うが、オプションとして独アウトバーンのような超高速域を扱う4種類目の速度条件もあり、国によっては4種類で行われる。
またWLTCモードの燃費値は、JC08モードよりも実際の値に近いといわれており、どのクルマも総じて、WLTCモードの方がJC08モードよりも値が低く測定されるようだ。ただし落ち込み方は車種によって異なり、JC08モードとは順位が変動する可能性もあり得る。
2019年のランキングはトヨタが独占に近い形に
またランキングの顔ぶれについては、2019年は10車種中の7車種がトヨタ車という結果となった。国土交通省は2001年発売の車種からWebサイト上で毎年燃費ランキングを発表しているが(※2)、ベスト10で7車種が同一メーカーとなるのは今回が初となる。
理由のひとつは、「プリウス」と「アクア」の盤石の1-2位が維持されている上に、コンパクトカー「ヴィッツ」も健在。それらに加えて大躍進の原動力となったのが「カローラ」だ。2019年に「カローラ」は全車種フルモデルチェンジして12代目となったが、実は11代目もそのまま継続して販売されている。それは、12代目が11代目よりも全幅が増して3ナンバーになったこと、排気量も1496ccから1797ccに増えて自動車税が1ランク上がったことから、特に営業用途の顧客のニーズが11代目に集まっているためである。そして、それぞれのセダンとステーションワゴンが2車種ずつ、つまり「カローラ」だけで4車種もランクインし、トヨタ車が7車種を占めるという結果となったのだ。
以下がランキングだ。項目は、順位の後ろのカッコ内が前年順位で、続いてJC08モード燃費値、車種名(型式)、メーカー名の順だ。なお、ベスト10の車種はすべてハイブリッド車である。各車の燃費性能並びに燃費に関する技術の解説は次ページから掲載した。
1位(1位):39.0km/L プリウス(DAA-ZVW51)トヨタ 1797㏄
2位(2位):38.0km/L アクア(DAA-NHP10)トヨタ 1496㏄
3位(3位):37.2km/L ノート(DAA-HE12)日産 1198㏄
3位(4位):37.2km/L フィット(DAA-GP5)ホンダ 1496cc
5位(-):35.0km/L カローラ(6AA-ZWE211)トヨタ 1797cc
5位(-):35.0km/L カローラ ツーリング(6AA-ZWE211W)トヨタ 1797cc
7位(5位):34.8km/L グレイス(DAA-GM4)ホンダ 1496㏄
8位(6位):34.4km/L ヴィッツ(DAA-NHP130)トヨタ 1496㏄
8位(6位):34.4km/L カローラ アクシオ(DAA-NKE165)トヨタ 1496㏄
8位(6位):34.4km/L カローラ フィールダー(DAA-NKE165G)トヨタ 1496㏄
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1位「プリウス」から車種別に解説
1位:トヨタ プリウス(DAA-ZVW51)39.0km/L
4代目「プリウス」(画像1)は、TNGA(※3)プラットフォームをトヨタ車で初採用し、2015年12月9日に登場した。エンジンは、量産車初となる最大熱効率40%を達成した直列4気筒1797ccのハイブリッドエンジン「2ZR-FXE」を搭載。そこにトヨタのハイブリッドシステム「THSII」を組み合わせ、システム全体で約20%の低損失化を実現。それらにより、最軽量の「E」グレードがデビュー当初は40.8km/Lという値を記録した。2017年には装備の変更などによる重量増により39.0km/Lまで下がったが、それでも他車の追随を許さず、2015年から5年連続の第1位となっている。
2位:トヨタ アクア(DAA-NHP10)38.0km/L
2011年12月26日に発売された「アクア」(画像2)は、翌2012年のランキングで1位を獲得。以降、3位以下になったことがない。また2017年からはプリウスとの1-2位独占を更新中だ。「アクア」は発売以来フルモデルチェンジが一度も実施されていないが、2回のマイナーチェンジにより、燃費は35.4km/Lから38.0km/Lまで向上した。最も燃費に優れるグレードは、無印のエントリーモデル。
この優れた燃費を実現したのは、徹底的な効率化だ。直列4気筒1496ccのハイブリッドエンジン「1NZ-FXE」には、膨張比率を高めたアトキンソンサイクルを採用。排気ガスを再循環させる「クールドEGRシステム」(※4)や、電動式ウォーターポンプによるベルトレス化(フリクションロス(※5)の低減と、冷却水流量の制御の緻密化)などの技術が導入された。さらに、発電および駆動用のモーターを含むハイブリッド・トランスアクスルが新設計され、小型・軽量化を実現したことも燃費値向上につながっている。
第3位:日産 ノート(DAA-HE12)37.2km/L
2代目「ノート」は2012年9月3日にデビュー。当初は25.2km/Lで、その年は第9位だったが、翌年からベスト10圏外に。しかし、2016年11月2日にハイブリッドモデル「ノート e-POWER」(画像3)が追加されたことで、燃費値は一気に37.2km/Lに。プリウスとアクアの間に割って入って第2位を獲得した(グレードは2WDの「S」)。その後、アクアに抜き返されたが、2017年以降はフィットとともに3年連続で3位となっている。
「ノート e-POWER」のハイブリッドシステムは、シリーズ型であることが特徴だ。ガソリンエンジンは発電のみを担当し、バッテリーに一度蓄電、もしくは直接モーターを駆動することで走行する方式のことをシリーズ型という。一方、エンジンが発電だけでなく直接タイヤを駆動する方式はパラレル型ハイブリッドといい、プリウスやアクアがそれにあたる。
シリーズ型のメリットは、アクセル開度に関係なく常に最も効率のいい状態で発電し続けられること。それが、37.2km/Lという優れた燃費につながっている。発電専用エンジンには、直列3気筒1198ccのガソリンエンジン「HR12DE」が、駆動用のモーターにはフロントにEV「リーフ」と同じ「EM57」が採用されている。結果、同社の2Lターボエンジン並みのトルクを獲得することに成功した。
第3位:ホンダ フィット(DAA-GP5)37.2km/L
2013年9月6日に発売された3代目「フィット」(画像4)。最も燃費に優れるグレードは、「フィット ハイブリッド」にラインナップされる、「HYBRID・S Honda SENSING」などのFFモデルだ。3代目のハイブリッド車の燃費値は36.4km/Lで、2013年に第2位を獲得。翌2014年も第2位だったが、4代目プリウス、ノート e-POWERなど、強力なライバルの登場で2015年には3位、2016年には4位となる。しかし2017年のマイナーチェンジで燃費向上が図られ、37.2km/Lとなって3位に復活。以降、3年連続でノートとともに同率第3位となっている。
「フィット」に搭載される「SPORT HYBRID i-DCD」(※6)は、1モーターのハイブリッドシステムであることが特徴だ。コンパクトカーや小型セダンなどに搭載することを考え、小型化と低コスト化のためにシンプルな1モーター構成としたのである。しかも、エンジンを使わないEV走行を行うには2モーター方式が採用されることが多いが、SPORT HYBRID i-DCDは1モーターでエンジンのアシストとEV走行の両方を実現した。その結果、EV、ハイブリッド、エンジンの3種類から最も効率のいいドライブモードを選択することが可能に。そしてそれらを自動で切り替えるシステムを搭載することで、優れた燃費値を実現したのである。さらに2017年6月30日のビッグマイナーチェンジでは、SPORT HYBRID i-DCDに対するきめの細かいチューニングが施され、37.2km/Lまで向上した。
なお、「フィット」は2020年2月14日に4代目が登場したことから、3代目は2019年が最後となる。4代目はJC08モードで38.6km/L、WLTCモードで29.4km/Lを計測しており、2020年はより上位が狙えそうだ。
第5位:トヨタ カローラ(6AA-ZWE211)35.0km/L
12代目は、まず「カローラ スポーツ」(ハッチバック)が一足早く2018年6月26日に発売され、画像5の「カローラ」(セダン:画像5)と「カローラ ツーリング」(ステーションワゴン)は2019年9月17日に登場した。2019年のランキングは登場してモデルライフの後期もしくは末期の車種が多く、デビューしたての「カローラ」と「カローラ ツーリング」は新鮮だ。同門のプリウスやアクアには届かなかったが、第5位となった。
12代目「カローラ」の3車種はTNGAプラットフォームを採用した新世代に属する。ハイブリッドシステムには、高トルク化のためのリダクションギア(減速用ギア)を組み合わせた「THSII」を搭載。エンジンはプリウスと同じ熱効率40%を達成した直列4気筒1797ccの「2ZR-FXE」で、フロントには「1MN」モーターを備える。また燃費向上に一役買ったのが、2018年2月に発表された電気式無段変速機「Direct Shift-CVT」(※7)だ。発進用ギアを採用して、ベルト効率を悪化させることなく変速比幅を15%拡大。その結果、機械損失の低減、ワイドレンジ化、変速追従性の向上を実現し、従来比で6%の燃費向上を果たしたのである。
第5位:トヨタ カローラ ツーリング(6AA-ZWE211W)35.0km/L
「カローラ ツーリング」(画像6)は2019年9月17日に発売された12代目の1車種で、「カローラ」(セダン)をベースにしたステーションワゴンだ。一見すると「カローラ ツーリング」の方が全長がありそうに見えるが、全長も全幅もセダンと同じである。「カローラ ツーリング」も燃費が最も優れるグレードは、セダンと同じで、ハイブリッド車の2WD仕様の「S」および「G-X」だ。
ハイブリッドシステムやエンジンなどのスペックはすべてセダンと同一だが、車重は「S」が1370kgで、「G-X」が1350kg。「カローラ」の「S」と「G-X」と比較すると、それぞれ20kgずつ重いが、それにもかかわらず同じ燃費値が計測されている。それを実現できたのは、システム全体で徹底したチューニングが施された結果のようだ。ちなみにセダン、「カローラ ツーリング」ともにWLTCモードの値も発表されており、29.0km/Lだ。
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第7~10位を掲載
第7位:ホンダ グレイス(DAA-GM4)34.8km/L
2014年12月1日に発売された、5ナンバーのコンパクトなハイブリッドセダン「グレイス」(画像7)。ホンダの世界戦略におけるグローバル・コンパクトシリーズのセダンモデルとして開発され、2013年11月25日に登場。国内では初代のみで終了したが、往年の人気車種であるシティは海外では代を重ねており、その4代目としてインドで発表された。日本での発売は2014年12月1日で、シティの名は復活せず、「グレイス」と命名された。
ハイブリッドシステムは、3代目フィットと同様にSPORT HYBRID i-DCDを搭載。2WDのグレード「HYBRID DX」と「HYBRID LX」が34.4km/Lの燃費値を計測し、2014年のランキングでセダン最上位となる第3位を獲得した。また2017年7月7日のビッグマイナーチェンジにより、燃費性能が34.8km/Lと向上(グレードは2WDの「HYBRID DX」および「HYBRID LX・Honda SENSING」)。
なお「グレイス」ではなくシティの話だが、5代目が2019年11月25日に世界で最もシティの販売台数が多いタイにて世界初公開され、同国などではすでに発売中だ。ただし、現時点のラインナップにハイブリッド車はないようである。現時点で5代目に関する発表は、ほかの国や地域でも発売するということのみ。5代目が国内で2代目「グレイス」として発売されるのか、発売されるとしたら時期はいつか、またハイブリッドモデルの追加はあるのかなどは未発表だ。
第8位:トヨタ ヴィッツ(DAA-NHP130)34.4km/L
3代目「ヴィッツ」(画像8)は2010年12月22日に発売され、DBA-NSP130型がアイドリングストップ機能を武器に、同年の燃費ランキングで6位にランクインした。当時の試験方法は10・15モードからJC08モードに切り替わる過渡期。10・15モードで26.5km/L、参考値として発表されたJC08モードで21.8km/Lという値だった。
その後、次々とさらに燃費性能の優れたクルマが発表された結果、翌2011年にはベスト10圏外となってしまう。しかし、2017年1月12日に実施された2回目のビッグマイナーチェンジでハイブリッドグレードが追加されたことにより、6年ぶりにその名がランキングに復活。ハイブリッドモデルには、アクアにも搭載される直列4気筒1496ccのハイブリッドエンジン「1NZ-FXE」とリダクション機構付きシステム「THSII」などが搭載された。これにより34.4km/Lに大幅アップし、同年に6位として返り咲いたのである。
3代目は9年強という、国産車としては長いモデルライフを経て、2020年2月10日に発売開始となったヤリスにバトンタッチした。「ヴィッツ」は海外ではヤリスとして販売されており、国内でも車名をヤリスに統一したことから、ヤリスは実質的に「ヴィッツ」の4代目となる。実はこのヤリス、燃費性能が別次元といっていいレベル。グレード「HYBRID X」は、WLTCモードが36.0km/Lもあるのだ。JC08モードとWLTCモードの差は、車種によっては8~9ポイントになる場合もある。つまり、JC08モードで39.0km/Lのプリウスですら首位から陥落する可能性が大いにあるのだ。2020年代最初の燃費ランキングは注目である。
第8位:トヨタ カローラ アクシオ(DAA-NKE165)34.4km/L
通算11代目となる「カローラ アクシオ」(セダン:画像9)は、そのステーションワゴンである「カローラ フィールダー」とともに2012年5月11日に発売された。このときはハイブリッドモデルがラインナップされていなかったため、ベスト10には入ることができなかった。
ランクインしたのは、2013年8月6日にハイブリッドモデルが追加されてから。アクアやヴィッツにも搭載される直列4気筒1496ccのハイブリッドエンジン「1NZ-FXE」とリダクション機構付きハイブリッドシステム「THSII」を搭載したほか、電動ウォーターポンプとすることでベルトレス化を図るなど、アクアとほぼ同じ高効率化のための技術が導入された。結果、2WDの「HYBRID EX」が33.0km/Lの値を計測し、2013年のランキングで3位となったのである。さらに2回のビッグマイナーチェンジを経て、現在は34.4km/Lとなった。
ちなみに、本来なら12代目とバトンタッチするはずだが、既述したように11代目は主に営業用途のニーズが高く、販売が継続されている。そう遠くない時期に販売は終了することが見込まれるため、もしかしたら11代目は2019年が最後のランクインとなるかもしれない。
第8位:トヨタ カローラ フィールダー(DAA-MKE165G)34.4km/L
2012年5月11日に、通算11代目のステーションワゴンとして、「カローラ アクシオ」とともに誕生した「カローラ フィールダー」(画像10)。「カローラ フィールダー」のハイブリッドモデルも同じように2013年8月6日に追加されると、その後も2回のビッグマイナーチェンジを経て燃費値が34.4km/Lまで高められた。グレードは2WDの「HYBRID EX」だ。
11代目と12代目の「カローラ」を比較すると、トヨタの燃費技術の進展具合がよくわかる。12代目の方がボディがワイドになり、5ナンバーから3ナンバーとなったこと。エンジンの排気量も1496ccから1797ccにアップしたこと。その結果、12代目の方がセダンで190~210kg、ステーションワゴンで210~230kg重量増となったこと。この3点は燃費にとっては良い影響を及ぼさない。しかし、燃費値は12代目の方が0.6km/L優れているのだ。
国交省は車種別ランキングだけでなく、ガソリン乗用車の平均燃費値の推移も毎年発表しており、2019年は2018年と変わらず22.0km/Lだった。2009年時点では14.8km/Lだったのが、2015年には21.7km/Lまで右肩上がりで平均燃費値が向上してきたが、ここ4年ほどは頭打ちとなっている。だが、個々の車種の燃費性能が伸びていないというわけでは決してない。ベスト10に入った車種だけの平均を取ると、2015年は33.8km/Lだったのが、2019年は35.9km/L。わずかずつではあるが、着実に伸びてはいるのだ。
そして2020年の話をすると、「フィット」と「ヴィッツ」がすでにフルモデルチェンジを果たしており、「グレイス」も海外の話ではあるがフルモデルチェンジが実施されている。また、11代目「カローラ」の2車種の販売が2020年内に終了する可能性もあるだろう。その上でWLTCモードも導入されるとあって、大きく様相が変化しそうな予感がするのが2020年の燃費ランキングなのである。