進化し続けるJNCAP。予防と衝突の安全性能評価が2020年度に統合
1995年から始まった、国土交通省と独立行政法人 自動車事故対策機構(NASVA)によるJNCAP(自動車アセスメント)。常に進化し続けており、2020年度以降も新たな評価試験が追加されたり、評価方法が変更されたりする。ここでは、そんな近い将来のJNCAPの新たな姿について、シリーズで解説する。まずは、これまで個別に行われていた予防と衝突の両安全性能評価を一本化する計画から取り上げる。
JNCAP(Japan New Car Assessment Program)は新車を対象とした、クルマの安全性能評価試験のことだ。JNCAPの試験は、安全性能を含めたクルマの基準を定めている保安基準よりも、さらに厳しい条件で実施されている、つまり、路上を走るクルマは保安基準で定められた安全性能は満たしているのだが、JNCAPではさらに高いレベルでの安全性能の差を評価しているのである。
現在、JNCAPの結果は年に2回発表される(予防安全性能評価は原則随時)。前期は10~12月頃に、そして後期は翌年5月末頃だ。試験車種は、その年度の販売台数の多い車種から選定されるほか、メーカーから依頼される車種の試験も実施する。試験用の車両は、試験対策が施されないよう、基本的にユーザーが購入するのと同様に抜き打ちでディーラーで購入される。
このように全車同一条件で試験を行えるよう、さまざまな工夫をして実施されているJNCAPだが、その目的は、ユーザーにより安全性能の高いクルマの選択をしてもらうことと、自動車メーカーにより安全性能の高いクルマの開発を促すことである。実際、この25年でクルマの安全性能は格段に向上しており、JNCAPが果たした役割は大きかったといえる。今後、さらなる運転支援車の普及や、自動運転車の時代を迎えるにあたり、JNCAPの評価はよりクルマのあり方に大きな影響を与えることになりそうだ。
クルマの安全性を進化させる一方で、JNCAP自身も常に進化し続けている。JNCAPの2020年度から2023年度までの比較的近い将来のロードマップについては、学識経験者やジャーナリスト、ユーザー代表者などが委員を務める「自動車アセスメント評価検討会」の公開資料で確認することが可能だ。ここでは、2019年7月の「令和元年度第1回自動車アセスメント評価検討会」の公開資料をもとに、予防と安全の両安全性能評価の統合について解説する。
予防と安全、ふたつの安全性能評価が遂に一本化!
JNCAPの評価試験は、これまで大きく2種類に分けて実施されてきた。1995年から実施している、実際にクルマを衝突させるクラッシュテストにより、乗員の保護性能と歩行者に対する加害性を評価する「衝突安全性能試験」。もうひとつが、2014年から実施している、衝突被害軽減ブレーキなどの事故を未然に防ぐ機能を評価する「予防安全性能評価試験」だ。
2020年度に計画されている最も大きな変更点が、この予防と衝突の両安全性能評価試験を統合した評価の導入だろう。2019年度までは、それぞれの評価が別々に発表されていたが、2020年度からは両方を統合した評価が発表され、ユーザーにはより分かりやすくなると期待できる。一方、メーカにとっては、統合された評価でよい成績を収めるには、予防と衝突の両方で高得点をとる必要があり、より高度な安全技術の開発が必要になる。
30年におよぶ予防安全技術のプロジェクト
もともと予防安全技術は、交通事故を低減させることを目標に、国交省(開始当初は運輸省)が中心となって1991年から30年がかりの国家プロジェクトとして取り組んでいる「ASV(※2)推進計画」から誕生してきたものだ。現在も実施されており、2016~2020年度は第6期となっている。
現在、ASV推進計画から実用化して普及している技術の中で、交通事故低減に最も効果がみられるのが衝突被害軽減ブレーキである。同技術は21世紀に入ってから市販車に搭載されるようになり、2010年代を迎えるとその搭載車種数も増えた。
ただし、衝突被害軽減ブレーキを初めとする予防安全技術はシステムとして高価であることから、2010年代前半ぐらいまではミドルクラス以上の限られた車種にのみ装備されるに留まっていた。コンパクトカーや軽自動車といった普及価格帯の車種への装備は、車両価格が跳ね上がってしまうことから、なかなか普及しなかったのである。
事故のさらなる削減には予防安全技術の普及が不可欠
JNCAPなどによりクルマの衝突安全性能が向上したこともあり、年間の交通事故死者数は1990年代からは減少傾向となっている。しかし2010年代に入ると、毎年減少してはいるものの、減少数は数百人に鈍化してしまった。
JNCAPではこうした状況を踏まえ、さらなる交通事故死者数の削減には、ミドルクラス以上で普及が進んでいた予防安全技術を、さらに普及させることが有効と判断。2014年度より衝突安全性能評価試験とは別に、衝突被害軽減ブレーキと車線逸脱警報(2017年度からは車線逸脱抑制に進展)の2機能から予防安全性能評価試験をスタートさせた。
予防安全性能評価試験は、メーカーが好成績を収めた車種について大きくアピールしたこともあって当初から注目され、その有効性がユーザーにも着実に浸透していった。開始から5年以上がたった現在では、コンパクトカーや軽自動車など、普及価格帯の車種にも予防安全技術が搭載されるようになり、中には予防安全技術を全車標準装備という軽自動車もあるほどだ。
クルマの安全性能の追求は、衝突安全性能から始まり、予防安全性能へと広がり、今は衝突と予防がどちらも安全性能には欠かせない両輪となった。そこで、今回、2つの安全性能評価を統合して行うことになったという。
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統合した安全性能評価試験の配点などについて
ふたつの安全性能評価の配点は単純に足し算できない
続いては、統合した安全性能評価の配点について解説しよう。2019年度の予防安全性能評価試験は141点満点で、衝突安全性能評価試験は100点満点。総合した安全性能評価は、それらを足して241点満点にするのかというと、もちろんそんな単純な話ではない。
予防安全と衝突安全の効果の関係は、いろいろな考え方ができる。極端にいうと、予防安全が完璧になれば、そもそも事故は起こらないわけで、衝突安全性能は関係なくなるともいえる。しかし、現状の予防安全技術は、高い効果はあるものの、完璧にはまだまだ及ばない状況のため、いざという時の衝突安全性能も非常に重要となる。
そもそもJNCAPの評価は、その機能があることで、非装備の状態に対して、死亡・重傷者数をどのくらい減少できるか、そしてそれにより社会損失額がどのくらい抑えられるかを基本に行われる。そして、今回両評価を統合するにあたっては、対車両・衝突被害軽減ブレーキの事故低減効果分析結果の50%(交通事故総合分析センターによるもの)が参照され、すべての予防安全の装置の社会損失低減額に0.5をかけることで、統合評価が行われることになった。もちろん、将来的に対車両・衝突被害軽減ブレーキ以外の技術の低減効果も見極めながら見直しの検討をしていくという。
統合した安全性能評価は100点満点となる予定
統合した安全性能評価は、100点満点に換算して発表される予定だ。100点満点とすることで、同じ年度での評価の比較などは分かりやすくなる。
ただし、JNCAPの試験内容は毎年度進化しており、換算前の実際の満点は毎年度大きくなっていく。つまり、年度が変わると、同じ100点でもその評価内容は異なってくるので、違う年度の点数を比べる際には注意が必要だ。もちろん、換算前の満点や、予防、衝突別の点数など、より詳細なデータも発表されるので、興味がある方はそちらも参考にするといいだろう。
昨年夏時点での公開資料によるものではあるが、JNCAP2020の統合した安全性能評価の詳細な配点は以下のリストの通りだ。カッコ内の点数は2019年度のもので、その隣の金額はその装置や機能が抑制できる社会損失額である。
【予防安全性能:合計43.1点・合計社会損失額3941億6800万円】
衝突被害軽減ブレーキ
●対車両:6.0点(32点)544億3400万円
●対歩行者(昼間):7.9点(25点)720億7800万円
●対歩行者(夜間※4):19.9点(55点)1817億1100万円
車線逸脱抑制装置:6.0点(16点)551億6800万円
後方視界情報提供装置:1.1点(6点)102億8600万円
ペダル踏み間違い時加速抑制装置:0.3点(2点)29億5300万円
高機能前照灯:1.9点(5点)175億4000万円
【衝突安全性能:合計52.7点・合計社会損失額2403億3600万円】
フルラップ前面衝突試験:12.2点(21点)554億5000万円
オフセット前面衝突試験:12.2点(21点)554億5000万円
側面衝突試験:7.3点(15点)334億4600万円
後面衝突頸部保護試験:0.7点(2点)31億9700万円
歩行者頭部保護試験:17.1点(32点)783億600万円
歩行者脚部保護試験:1.1点(5点)48億1400万円
シートベルトリマインダ(シートベルト着用警報):2.1点(4点)96億7200万円
【事故自動緊急警報装置:社会損失額193億1700万円】
事故自動緊急警報装置:4.2点(点数なし)