「アメリカグマ」|第9回アニマル”しっかり”みるみる
世界中から集まったさまざまな動物たちを、間近で見て・感じられる施設がサファリパーク。そんなサファリパークで動物たちの世話をする飼育員さんに、知っておくとちょっぴり動物通になれるポイントを、 "しっかり" ご指導いただきました。富士山の自然豊かな環境にある富士サファリパークの動物展示課飼育担当の田中さんに、「アメリカグマ」を解説してもらいました。
木登り上手の理由は、エサの確保と身を守る術
クマのぬいぐるみ「テディベア」のモデルになったといわれる、アメリカグマ(別名アメリカクロクマ)。北アメリカの森林地帯を主として、山や湿地など広い範囲に暮らしており、北アメリカでは最もなじみのあるクマです。体長は1.3m~1.8m、体重は55㎏~200kgほどで、オスの方がメスよりも一回りから二回りくらい大きい。オスもメスも単独で暮らしていて、例外的にメスは子育て期間は親子で生活しますが、子供が2歳を迎える前には子離れしてまた単独生活に戻ります。
また他の大型のクマであるヒグマやホッキョクグマと比較すると、食性がやや異なっています。ヒグマやホッキョクグマが肉食なのに対して、アメリカグマは植物食の傾向が大。 「園内でも、クマ用の固形飼料や、ゆでたイモ、ミカンやリンゴなどの果物を与えています」(※田中さん以下同)とのこと。植物食の傾向が大きくなるということは、狩りを行う必要がないので肉食のクマと比べると非好戦的で、「クマの中でも温和なことがアメリカグマの特徴の一つ」です。
ですが若い個体は活動的で始終取っ組み合ってじゃれ合うことが多いそうです。「老グマは寝ていることが多い」そうです。
またアメリカグマは木登りを得意としている動物です。これには2つの理由があると考えられています。
その一つが「木の実や果実を採って食べるため」。
もう一つの理由は「ヒグマから逃げるため」です。アメリカグマは、生息域が重なることの多い肉食のヒグマによって襲われることが多いそうです。そこで体が大きいため木登りがあまり上手くないヒグマから身を守るために、木登りをするようになったと考えられています。エサの確保と身を守る術なんですね、木登り上手は。
臭いで判別、エサのあるなし
一目見ただけでよく分かるアメリカグマの特徴、それはさまざまな毛色の個体がいることです。別名が「アメリカクロクマ」だというのに。「暮らしている地域などの違いで、黒色はもちろん、明るい茶色、暗い茶色や青っぽい色やごくまれに白いものもいます」。あまりに毛色が違っていて同じ種類のクマなの?って思ってしまうほどです。
アメリカグマはエサを嗅覚と視覚をたよりに探します。とくにその嗅覚は優れており、「園内を巡るジャングルバスではエサあげ体験ができるのですが、アメリカグマはバスがまだ結構離れたところを走っているのに立ち上がってスタンバイしています。匂いで分かるようで、エサを持っていないバスだとまったく反応しません」。エサを積んでいるとそのバスが来る方向をじっと見ているそうです。
身体的な特徴は、特に足によく現れています。後ろ足の足裏にある肉球の表面積は広く、また人間と同様にかかとまで地面につけることが可能なので立ち上がることが容易にできます。「得意な木登りをするとき、エサを食べるとき、水の中に入るときに立ち上がる姿がよく見られる」そうです。また足にはそれぞれ5本の指があります。爪の長さは比較的短めで鉤型に湾曲しており、木の幹につかまって木に登りやすくなっています。またこの爪は冬ごもりの穴掘りにも使います。
アメリカグマは、冬ごもりに備えて秋にエサをたくさん食べるそうです。園内では毎日エサを与えているため、「冬ごもり(冬眠)することはないが、動きは鈍くなります」。脂肪をたくわえるため寒さには強いのですが、「暑さには強くないので、夏は池の中で涼んでいることが多くなります」。
食べ物に関しての飽くなき執念!?
飼育担当の田中さんによれば、アメリカグマほど「喜怒哀楽がはっきりしていて、表情が豊かな動物はいない」のだそうです。例えばいつもと違う好物のリンゴがエサに入っていると喜んだ表情に、エサがあると思って近寄って行ったのにエサがないと分かるとしょぼんとした悲しい表情に明らかになるのだそうです。
最後に、アメリカグマあるあるを伺ってみました。
それは「一度執着するとなかなかあきらめないこと」。例えば草や木の実が落ちているところで、その場所からクマをどかす必要があって追い払ったとしても、「必ずその場所にすぐ戻ってきて、さっきの草や木の実はどこかと探し始めます」。動物は自然の中では執念深いぐらいじゃないと生き残ってはいけないし、その生きる力を呼び起こすのはやっぱり食べ物なんですね。