【鳥獣対策・ジビエ利活用展】鳥獣被害対策とジビエ利活用の取り組みに注目。
11月に東京ビッグサイトで「鳥獣対策・ジビエ利活用展」が開催された。増える鳥獣被害対策とジビエ利活用について、同展の展示から考えた。
豊かな自然に恵まれた日本では、古来から人間と野生動物が隣り合って暮らしてきた。しかし、人間の暮らしを豊かにするための山間部の道路整備や宅地造成による森林伐採は、野生動物の生活圏を減少させてしまった。それゆえに互いの境界線が曖昧になり、野生動物が住宅地などに出没するようになったのだ。
一方で、温暖化やオオカミなどの捕食者の絶滅、農村の過疎地などが原因でシカなどの増えすぎた個体数が問題ともなっている。
野生鳥獣による被害の現状。
野生鳥獣による農作物への被害総額は158億円(2018年度)にものぼる。この甚大な被害額により、農家の営農意欲減退や、耕作放棄・離農が増加し全国で深刻な問題となっている。
被害は農作物ばかりではない。増えすぎた野生鳥獣は、下層植生の消失などによる土壌流出、希少植物の食害、車両との衝突事故など、影響は広範囲に及んでいるのだ。これらの被害の拡大を防ぐため、全国で狩猟による鳥獣捕獲が行われている。
全国で取り組まれるさまざまな対策。
全国農業協同組合中央会(以下、JA全中)のブースでは、全国の中でも特に野生鳥獣による被害が大きいJA京都の農作物被害対策の事例がパネルで紹介されていた。
パネルのグラフを一見すると、被害額は年々減少しているように見えた。しかし、実際は報告をあげていない農家がいるから実際の被害規模とは乖離があるのだという。
「これは京都府を例に挙げてますが、全国で同じような乖離はありますよ」と語ってくださったのはJA全中の鬼丸副主査だ。
「そもそも、日に日に農家は減ってますから、実際に農家一軒あたりで考えたら決して減少はしていないんです」
単純に被害総額のみでは計れない背景があるようだ。
こうした状況の中、狩猟による鳥獣対策の重要性が高まっているのだが、狩猟者も減少傾向にあるのが現状である。JAでは職員も狩猟免許の取得を推奨するほか、自治体も「認定鳥獣捕獲等事業者」制度などで狩猟者の活動しやすい環境を作るなど、鳥獣対策の活性化のために環境整備に力を入れているという。
こうした取り組みの結果、京都府南丹市では2019年度の有害鳥獣捕獲状況が前年度に比べて2倍以上で推移しているという。
ジビエ普及が野生鳥獣対策のキーポイント。
そして狩猟による鳥獣対策を推奨しているJAでは、農家のジビエ食品の製品化に対するサポートも積極的に行っている。
道の駅などで販売している製品には鹿肉カレー、スープにシカの背骨を使用した韓国の鍋料理「カムジャタン」、そして食品以外ではシカ革の洗顔シートなどがある。これらの商品は、すべて捕獲した農家が考案しているそうだ。
こうしてジビエ商品を普及させ、狩猟者の生計を賄えるような環境を作り上げていくことは、野生鳥獣対策の中でも重要なキーポイントとなる。
ジビエ肉の魅力を試食で実感。
そんなジビエに対する注目度は、日本食肉消費総合センターの出展ブースの盛況ぶりからもうかがうことができた。
ジビエ肉の試食ができるとあって、ブースには長い行列ができていた。
試食メニューは「エゾ鹿肉のロース焼肉」と「ローストボア・ボアコンフィ(猪のモモ肉)」だった。試食とはいえ、筆者の両手サイズほどもある皿に数切れずつが贅沢に提供された。
エゾ鹿肉の焼肉は、肉の味わいがしっかりとしているのに臭みがなく、噛み応えも程よいものだった。そして猪のローストとコンフィは、パサパサせず柔らか、肉の旨味がたっぷりつまっていた。
実は肉料理があまり得意ではない筆者でも、肉臭さを感じることなく美味しくいただくことができた。
こうしたジビエの普及促進は、多くの人に味覚から郷土への魅力を再発見してもらうきっかけにもなるだろう。
「ジビエ利活用」は、営農者、狩猟者、ユーザーにとって、鳥獣被害対策の現実的な一対策といえそうだ。