eスポーツは想像以上にガチだった! グランツーリスモSPORT in 茨城国体
去る10月、国体史上初となるeスポーツ大会が茨城で開催された。多くの自動車ファンに支持されるドライビングシミュレーター「グランツーリスモSPORT」も種目として設定された今回。一体、どんなバトルが繰り広げられたのだろうか。白熱したレースの模様をレポートする。
そもそもeスポーツって何?
「全国都道府県対抗eスポーツ選手権2019 IBARAKI」が、2019年10月5日(土)~6日(日)の2日間、つくば国際会議場を舞台に開催された。eスポーツが国体のプログラムとして加わったのは今回が初めて。ドライビングシミュレーターの「グランツーリスモSPORT」、サッカーゲームの「ウイニングイレブン2020」、そしてパズルゲーム「ぷよぷよ」の3種目で、全国代表による白熱のバトルが展開された。
既にご存じの方もいらっしゃるかと思うが、eスポーツとは「エレクトリック・スポーツ(Electronic Sports)」の略称で、ビデオゲームを使用した対戦競技のことを指す。年齢や性別、地域などに関係なく競うことができる全く新しいジャンルのスポーツだ。
eスポーツはいま世界中で高い注目を集めており、それを取り巻く環境も日々激変している。例えばグランツーリスモSPORTは、FIA公認のeスポーツ大会をワールドワイドで展開しているが、それだけでなくeスポーツのトッププレイヤーが本物のレーシングドライバーへと転じることが可能な「GTアカデミー」を開催するなど、ゲームの枠を超えた取り組みで盛り上がりを見せているのだ。
では日本におけるeスポーツの認知度はどうかというと、残念ながらまだまだ低いというのが実情だ。そのため今回の選手権は、eスポーツのPR活動という役割も兼ねて国体の文化事業プログラムのひとつとして開催されることとなった。
少々前置きが長くなってしまったが、早速、白熱したeスポーツ選手権の模様をお届けしたい。
全国選抜代表が競い合う! グランツーリスモSPORT
今回、弊編集部が注目したのはグランツーリスモSPORTの大会だ。「少年の部(6歳~18歳未満)個人戦」と「一般の部(18歳以上)チーム戦」で構成されるグランツーリスモSPORTは、まず都道府県ごとにオンライン上でタイムトライアルを実施。それぞれの部の上位20名が全国12か所で開催された都道府県代表決定戦へと進み、そこで勝ち残った上位2名が、都道府県代表として国体に参加するという流れだ。
ゲームとは思えない白熱の「少年の部」
国体の会場となったステージには、大型モニター、ステアリングコントローラとペダル、バケットシートで構成されるグランツーリスモSPORT専用のユニットが12台設置されていた。
少年の部は中高生が中心だが、なんと11歳の小学生も参加。ここでもeスポーツらしい世代を超えた戦いが繰り広げられることになった。彼らは個人戦に参戦し富士スピードウェイを5周する。プレイヤーが使用するマシンは、グランツーリスモSPORTに登場するレーシングカーのGr.3クラスに該当するものから自由に選択できるのだが、決勝では全員がランボルギーニ・ウラカンGT3を選択。なんと事実上のワンメイクレースとなる展開に。
グランツーリスモは、走行中のタイヤの劣化や燃料の消費率など車種ごとにリアルな作り込みがされているが、少年の部ではマシンの消耗条件を緩和したシンプルなルールを採用。プレイヤーたちは、今回のレギュレーションで最も有利なマシンをしっかりと検証しており、それがワンメイクという結果に繋がったようだ。
ゲームとはいえ、モニターを見つめる彼らの眼差しは、まさにレーサーそのもの。ステアリングコントローラーとペダルを丁寧に扱い、レコードラインを見事にトレースし駆け抜けていく。映像だけを見ていれば、これが少年たちによるバトルとは思えないだろう。レースが5周と短く、同スペックのマシンによるバトルとなったため、つねに接戦に。まさに白熱のバトルとなった。全国から集まった腕自慢の少年たちの中で優勝を勝ち取ったのは、愛知県代表の水野航希選手であった。
驚いたのは、選手がオーバーテイクに成功すると、歓声が上がるほどの盛り上がりを見せるなど、観客サイドも実際のレースを見ているかのように夢中になっていたこと。モニター越しに映し出されるドライバーの表情から、ひしひしと緊張感が伝わってくる。eスポーツ、想像以上に人間味に溢れていた。
マシン選びに個性が垣間見れた! チーム戦の「一般の部」
一般の部は、18歳以上がエントリーできるが、決勝に残ったのは全員29歳未満で、20代前半が中心であった。やはりスポーツ同様に、集中力など若い選手が有利なのだろうか。一般の部は、鈴鹿サーキット10周のレースとなるが、2名1組のチーム戦となり、レース中のドライバー交代とタイヤ交換が義務となる。さらにタイヤの摩耗や燃料消費の条件も厳しくなるなど、よりリアリティを高めたレギュレーションを採用する。
ここでも研究熱心な選手たちは、レギュレーション内で最も有利な車種と思われる「ニッサンGT-R ニスモ GT3 N24 Schulze Motorsport」を積極的に選択。しかし、彼らのクルマへのこだわりの高さが感じられたのは、2チームが「アウディR8 LMS」と「フォードGT LM Spec II Test Car」を選択、ワンメイクにはならなかったところだ。
クルマ好きならGT-Rの強みはよく理解しているはずだ。しかし、敢えてアウディR8やフォードGTを選んだのは、自身の好きなマシンで勝ちたいという想いの表れにも見える。ここでも、実車さながらの世界が展開されているのだ。
レース展開はGT-Rを選んだチームが有利となったが、レース展開の面白さを提供してくれたのは、この2台であったことはいうまでもない。またタイヤのセレクトやドライバー交代のタイミングなど、チームの戦術が問われるシーンもあった。結果、一般の部では、栃木県チームの山中智瑛選手と高橋拓也選手が優勝に輝いた。
バーチャルが与えるリアルへの恩恵
レース後、何人かのドライバーに、グランツーリスモSPORTは本当にリアルなのか、日常運転の関連性を尋ねてみた。
「周囲の状況を常に把握するというレースの経験が、日常運転でも周囲の安全確認に役立っていますね」。そう語るのは、一般の部にエントリーし優勝した高橋拓也選手だ。また愛車でサーキット走行を楽しむという、ある選手は「実際の経験をゲームに活かしたり、ゲームの経験を実車で試したりするなど、自身のドライビングスキルの向上に相互に役立っています」とも話してくれた。
少年の部に参加した高校生たちには、練習量を聞いてみたところ、日常的には1回2時間を週に3回程度と意外と少ない結果に。集中を維持してプレイできるのは2時間が限度とも教えてくれた。
それだけ真剣に楽しんでいるからこそ、国体の舞台に上がれるほどの実力を得たのだろう。またグランツーリスモを始めるきっかけは、クルマ好きの父親の影響が大きいと答える少年も多く、ゲームがクルマ趣味のひとつになっていることも感じられた。
会場を訪れていたグランツーリスモの生みの親である山内一典さんは、「タイヤ1セット分の値段でレースが楽しめるのがグランツーリスモの魅力。今回、国体初参加ということもあり、レギュレーションの設定にはだいぶ悩みました。今後さらに面白いレース展開が繰り広げられるよう改善していきたいですね」と語り、プロゲーマーだけでなく幅広く気軽に参加できるeスポーツとして、グランツーリスモの魅力も訴求していきたいと話してくれた。
ゲームがどんなに進化しようとも、eスポーツはスポーツとして成立するのかが常に問われることだろう。しかし、試合前の選手のストイックな様や、ゲーム運びの心理戦はスポーツというにふさわしいものがある。競技を振り返ればなるほど、グランツーリスモからリアルレースへのステップアップが用意されていることにも納得の、超白熱バトルであった。