10艇の消防艇が守る! 東京湾も隅田川も東京消防庁にお任せ
東京消防庁はそれぞれ用途やサイズの異なる10艇の消防艇を配備しており、船舶や港湾部の火災、水難事故などに備えている。日本最強の装備を誇る東京消防庁の、河川と海を守る水上装備を取り上げる。
東京は水の街だ。世界有数の過密な海上交通の東京湾と、そこへ注ぐ隅田川などの1級河川も数多くの船舶が行き交っている。そうした船舶の火災や水難事故に加え、沿岸地区のコンビナートなどの大規模火災から人々を守るべく備えているのが、東京消防庁の水上消防だ。
東京消防庁は第一方面に所属する臨港消防署を中心に、高輪消防署港南出張所、日本橋消防署浜松出張所に用途とサイズの異なる10艇の消防艇を配備している。さらに、機動力を活かして情報収集や救助活動を行う水上オートバイの「風神」と「雷神」、水難事故での行方不明者の探索などに使用される水中探査ロボット「ウォーターサーチ」なども擁する。
【臨港消防署配備艇】
大型化学消防艇・第4代「みやこどり」
大型消防救助艇「おおえど」
水難救助艇「はるみ」
化学消防艇「すみだ」
水難救助艇「しぶき」
高速指揮艇「はやて」
【高輪消防署・港南出張所配備艇】
化学消防艇「かちどき」
化学消防艇「ありあけ」
【日本橋消防署・浜松出張所配備艇】
水難消防艇「きよす」
水難消防艇「はまかぜ」
毎分7万Lの放水が可能な大型化学消防艇「みやこどり」
東京の水上消防の始まりは、1936年2月に東京市連合防護団から、警視庁消防部(当時は東京消防庁ではなく、警視庁の一部署だった)に1艇の消防艇が寄贈されたことが始まりだ。その1艇は「みやこどり」と命名され、その後、東京の水上消防の要として活躍することになる。
2013年3月に配備された現行の4代目は東京消防庁最大の消防艇であり、必要な場合は沿海区域(海岸から20海里=約37km以内の水域のこと)も航行可能な性能を持つ。
タンカー火災や、コンビナートなどの危険物を取り扱う沿岸の施設などの大規模火災に対応するため、放水砲を6基装備。放水砲は、ポンプ車30台分以上の合計6万Lの放水が可能だ(放水ポンプ自体は7万Lの放水を行える性能を有する)。
消防ヘリとの連携を考慮されて建造されており、後部には消防ヘリが着艦できるスペースが設けられている。さらに、早期の状況把握を可能とするため、消防ヘリからのTV映像受信装置も装備。
そのほか、追尾機能付き赤外線カメラも備えており、夜間の視認性が向上しているのが4代目「みやこどり」の特徴だ。
国内消防組織で初のタグボート型消防救助艇「おおえど」
2018年4月に就航したばかりの東京消防庁最新の大型消防救助艇。国内の消防組織としては初となる、タグボート型の消防艇だ。タグボートということは大型船舶を押船(おしぶね)できたりするということ。「おおえど」は最大7万トンクラスの航行不能になった船舶を安全な水域まで曳航したり、船首の向きを変える押船が可能だ(火災の発生箇所を風下側にして延焼を防ぐのは船舶火災の対応で有効)。
「おおえど」の特徴のひとつが、プロペラを円筒状ノズルに収めたコルトノズルを備えていること。これにより、通常のプロペラより30~40%推力が向上している。また、そのプロペラは360度回転する旋回式となっていて、それを2基装備。これにより、船体中央を中心とした旋回を行えるなどの高い機動力を実現した。
またバスケット付きの屈折式放水塔体を装備し、大型被災船へも消防隊員や資機材の投入を行え、また要救助者を搬送することも可能。「みやこどり」同様に、船体後部に消防ヘリの着艦を行えるスペースも備えており、消防ヘリとの連携も考慮されている。
可倒式放水塔により河川での航行も可能な化学消防艇「ありあけ」
1993年に就航した「ありあけ」は、前年就航の「かちどき」と同型の消防艇で、主にタンカー火災や沿岸の危険物施設の火災に対処するための化学消防艇だ。化学消防艇とは、放水の中に化学消火剤を混入させられる仕組みを持っている消防艇のことをいう。
最大の特徴は、全高が抑えられていること。川での船舶火災にも対応できるよう、橋の下をくぐれるようにと全高が低く抑えられているのだ。さらに、放水塔とマストも可倒式となっており、これで河川内航行も可能となっている。
ウォータージェット推進装備の高速水難消防艇「はるみ」
「はるみ」は2006年3月に配備された水難消防艇で、水難救助艇「しぶき」とペアを組んで主に水難事故における人命救助で活躍する。その一方で、2基の放水銃などを備えていることから、船舶火災にも対抗可能だ。最大の特徴は時速30ノット以上の最高速度を出すことができ、それを実現しているのが軽合金製の総トン数11tのボディと、ウォータージェット推進装置。この推進装置は、浅瀬でも航行することができる点も長所となっている。
同じ軽合金製のボディを備え、ウォータージェット推進によって時速30ノット以上の高速性を誇る水難消防艇として、「きよす」と「はまかぜ」がある。この2艇は「はるみ」よりわずかに軽量かつ小型だが、水難事故の救助活動だけでなく、放水銃による船舶火災の消火活動も行えるなど、「はるみ」とほぼ同スペックの消防艇だ。
また、「はるみ」の相方である「しぶき」と、高速指揮艇「はやて」も時速30ノット以上を出すことができる。この2艇はFRP製のボディにより総トン数が「はるみ」の半分以下の4.9トンに抑えられており、この軽量化で高速航行を実現している。
1941年5月に国際貿易港として指定された東京港を擁する東京湾は、世界屈指の海上交通過密地域として知られている。クルマのようには素早く操れない大型船舶も多いために、衝突の危険性もはらんでいる。こういう状況下でも、消防艇が配備されているからこそ、安心して東京湾を往来できることだろう。
船舶に万が一の事故があった場合、陸上に大きな被害を及ぼす恐れもある。だからこそ、東京を守るためには、東京湾や河川を行き交う船舶も守る必要があるのだ。その重責を担っているのが、東京消防庁の水上消防である。