続々発表されるドイツ産EV。ベンツに続きアウディからも発表
各自動車メーカーから相次いで発表されるEV。各社のリリースだけを見ていると、いよいよ本格化してきた感のあるEV市場だが、果たして今後”EVの世”が来るのだろうか。なぜこのタイミングでEV発表を各社が急いでいるのか。モータージャーナリストの菰田潔氏がその理由を解説する。
ドイツの自動車メーカーからEVが続々登場する。ここで既報のベンツに続き、アウディからも9月18日に「e-tron」(写真上)の発表があった。これは、ベンツの「EQC」と同様SUVのEVだが、大きさはふた回りほど大きい。2つのモーターを搭載し、全輪を駆動するとともに個別のタイヤごとに回転を制御できるところは同じだ。市販車としては初の150kWの充電器で急速充電が可能、というところがウリか。
ベンツ、BMW、アウディの通称”ドイツ御三家”が参入し、いよいよ本格化してきたEV市場だが、果たして今後”EVの世”が来るのだろうか。まずは、なぜこのタイミングでEV発表を各社が急いでいるのか、その理由を解説しよう。
法規制と排ガス検査不正に揺れるドイツ自動車メーカー
一つは各メーカーに義務付けられるCO2の排出規制対策がある。2021年に全車平均でCO2の排出量を95g/km以下に抑えなければいけなくなるのだ。これを超えると莫大な”罰金”がメーカーに課せられる。内燃機関を持たないEVは当然排出量が0になる。だからEVを売るほど、この対策として効果が出るわけだ。
もう一つの理由として、VW等の排ガス検査不正によってディーゼルのイメージが非常に悪くなったこともある。今のディーゼルエンジンは、吸った空気よりも吐き出した空気のほうがきれいというほどの進化を見せているのだが、ディーゼルはインチキだと思う風潮がユーザーの間に醸成されてしまった。実はドイツ各社では、まだまだディーゼルでいけると踏んでいた。だがイメージの毀損で売れなくなったので、次の一手としてEVが浮上した。これと合わせてディーゼルへの規制がどんどん厳しくなってきて、将来その規制に合うようなディーゼルを売るには莫大なコストが必要になってきたことも、要因として挙げられる。
各社がEV化を急ぐのは、エコのためではない
これら理由に加えて、EV自体のアピールのためということもある。EVを本当に作って売る。それぐらいの技術力はあるんだ、ということをユーザーに見せておかないと、これからEVを真剣に売ろうとしている姿勢が伝わらないからだ。ドイツに限らずボルボやインフィニティ等でも作るといっているが、ボルボではほとんどがPHEVになるだろう。近々ラインナップを全車電動化するとしているメーカーが多いが、これはすべての車をEVにするという意味では決してない。モーターさえ積んでいれば電動化と謳えるのだ。つまり既存車種をPHEVにすることも含まれている。だから、トヨタなど国内メーカーではとっくにやっていることを、今やっと海外メーカーが取り組み始めただけ、という言い方もできるのだ。
閑話休題。そんな訳でEVが脚光を浴びているが、近い将来まず増えるのはPHEVのほうだと予測する。PHEVにすると充電した電気の分だけCO2排出量が減る計算になるので、一台40~50g/kmぐらいになる。現在ガソリンエンジンのコンパクトカーでも100g/km切ることがないので、メーカーにとって非常に有利になる。0になるEVほどではないが、PHEVのほうが普及しやすい。
次回は、なぜEVよりPHEVが売れるのか。その理由を解説しよう。
2018年9月20日(モータージャーナリスト 菰田潔)
菰田潔(こもだきよし):モータージャーナリスト。1950年生まれ。タイヤテストドライバーなどを経て、1984年から現職。日本自動車ジャーナリスト協会会長 / 一般社団法人 日本自動車連盟(JAF)交通安全・環境委員会 委員 / 警察庁 運転免許課懇談会委員 / 国土交通省 道路局環境安全課 検討会 委員 / BMW Driving Experienceチーフインストラクター / 運送会社など企業向けの実践的なエコドライブ講習、安全運転講習、教習所の教官の教育なども行う。