2018年09月25日 16:49 掲載

ニュース・プラス 菰田潔の「EVを考える」その2
今後数年はPHEVとこれまでのエンジン車の時代が続く。
そう予測するワケとは?


18092151-01.jpg

各自動車メーカーから相次いで発表されるEV。各社のリリースだけを見ていると、いよいよ本格化してきた感のあるEV市場だが、果たして今後"EVの世"が来るのだろうか。しばらくはPHEVばかりが売れ、EVはさほど売れない―。という論を展開するのはモータージャーナリストの菰田潔氏。その理由とは?


 EVやPHEVは、今は数えるほどしか車種がないが、これからは間違いなく増えていく。だが、割合としてEVはそれほど増えないだろう。なぜか。現在のユーザーで、ピュアEV(100%電気だけで走る車)を必要としている、あるいは使用目的に適っている人は、都会で生活している人のごく一部。一回で走れる距離が短くて充電時間も長くかかる現状だと、「普段は近くに買い物に行くだけだけど、月に1回は遠出をする」というユーザー(恐らく多くの人がそうだろう)には受け入れられる可能性は少ない。

 実際その傾向がはっきり出ている。BMWに「i3」(写真上)というEVがある。「i3」にはピュアEVと、それにレンジエクステンダー(エンジンで発電して航続距離を延ばす装置)を搭載したモデルがあるが、圧倒的に後者が売れている。普段は数kmしか走らないユーザーであっても、いざというときに遠出のできない(できても途中で充電のために時間が奪われる)車は嫌なのだ。

 言うまでもなく車というもの自体、高額だ。「家の次に高い買い物」とも言われている。ローンを払っている車があるのに、長距離を走るときだけカーシェアを利用したりレンタカーを借りるというのはあまりに酷だ。そして、こう考えるのはプレミアム車のユーザーだけではない。多くの人がそう考えているのである。

EV人気がないのは日本だけ?環境意識の高いドイツの現状

 この感覚は日本では自然なものだろう。特に車の維持費が高く、一台所有のユーザーが多い都市部ではなおさらだ。では、今回の"EV戦争"の発端となったドイツではどうなのか。

18092551-02.jpg

 ドイツはアウトバーンに象徴されるように、交通の流れが速い場所が多い。EVは、高い速度を維持して走り続けるのが苦手だ。あっという間にバッテリーが減って、200kmも走れないことがある。だからやはりドイツでも売れていない。先日アウトバーンで見かけたのが、ポルシェの未発売モデル(写真上)の公道テストだ。EVモデルだったのだが、あのポルシェですら時速110kmでテストしていた。時速110kmというと、現地では大型トラックを除くほとんどの車に"追い抜かれる速度"だ。遅いポルシェにユーザーは納得するのだろうか。誤解のないように補足するが、EVは、最高速度は高くできるし、そこへの到達スピードも速い。だがハイスピードで巡航するのが苦手、という話だ。

 これら航続距離が短い、高速巡航が苦手、という弱点を克服しつつあるEVメーカー「テスラ」の例もあるが、しかしテスラは大量のバッテリーを搭載することで庶民的な価格ではなくなっている。また充電時間に関しては解決できておらず、ガソリンや軽油を入れるように5分でエネルギー補給を終えることも無理だ。

SUVタイプのEVが本質的に持つ、自己矛盾の数々

 今回ベンツとアウディから相次いで発表されたEVはSUVタイプだった。価格は、これまでプレミアムブランドに乗ってきた人なら手が届くあたりでデリバリーされるだろう。だが、そういう層のユーザーが、遠くまで行くことができず電源にいつも縛られる車を果たして買うのだろうか。一度の給油で1000kmの距離を、ハイスピードを維持したまま移動できるディーゼル車を選択するのではないか。そして、仮に都市部だけで乗るというのであれば、そもそもこれら大柄なSUVなど必要ないのである。

 そしてSUVで出してきたことの理由だが、「世界的に人気のジャンルだから」というだけではない。小さく、軽く作ることができなかったのだ。だからSUVなら大きく重いことに必然性を持たせられるとメーカーでは考えた。だが大きく重い車体を走らせるために、さらに電池が必要になりまた重くなる。つまりこれらSUVのピュアEVは、数々の自己矛盾をはらんでいるのだ。

PHEVの何がいい?

 だがしかし、これらがPHEVであれば、長距離を走ることができるし、ライフスタイルを見直さずとも所有できる。バッテリーがピュアEVよりも小さい車が多いため、充電時間もさほど気にしなくてもいい。価格もピュアEVに比べると手に入れやすくなるはずだ。そのうえ、EVを所有するという、ユーザーとして先端を行く満足感も得られるわけで、マーケットでは善戦すると予想できる。ちなみに、EVに限ったことではないが、マーケットで売れる台数を決定する条件はただ一つ。販売店の数である。販売店が少なければどんなにいい車を作っても台数が出ることはないからだ。この販売店で売るPHEVの数が増えるほど、純エンジン車のシェアを奪うことになる。

 現状でEVの活躍する場面はないのか。そんなことはない。例えば近距離でルートも決まっているような配送業者の車としては非常に有効だ。こうした高速巡航がなくストップアンドゴーを繰り返す市街地のみで走るという場面では、俄然精彩を放つのが現在のピュアEVだといえる。

 以上のことから、これからEVとPHEVの車種は増えていくが、現状、日欧ではPHEVのシェアが大幅に増える、という結論が成り立つのである。

 ここまで、EVの普及を妨げる要因を挙げてきた。だが一方で、将来爆発的にピュアEVが増えるタイミングが来ることも予想できる。次回はそのタイミングがいつなのか、ドイツと日本の自動車メーカーのEVに対する考え方を絡めて解説しよう。

2018年9月25日(モータージャーナリスト 菰田潔)


近影02.jpg

菰田潔(こもだきよし):モータージャーナリスト。1950年生まれ。タイヤテストドライバーなどを経て、1984年から現職。日本自動車ジャーナリスト協会会長 / 一般社団法人 日本自動車連盟(JAF)交通安全・環境委員会 委員 / 警察庁 運転免許課懇談会委員 / 国土交通省 道路局環境安全課 検討会 委員 / BMW Driving Experienceチーフインストラクター /NPO法人 JAPAN SMART DRIVER機構 理事長/ 運送会社など企業向けの実践的なエコドライブ講習、安全運転講習、教習所の教官の教育なども行う。