埼玉県・上尾中央総合病院、心臓病専用救急車を導入
埼玉県の上尾中央総合病院が導入した心臓病専用救急車「モービルCCU」。排気量2.7Lのエンジンを備え、4速オートマ。正面の「MOBILE CCU」が鏡文字なのは、前走車のバックミラーに映ったときに読めるようにしてあるため。
全国的に、ドクターカー(医者が乗車して迎えに行く救急車)を導入している大型病院が増えてきている。今回、埼玉県上尾市の上尾中央総合病院が導入したのが、心臓病専用救急車「モービルCCU」(Mobile Coronary Care Unit:移動式心臓集中治療施設)だ。
上尾中央総合病院は、埼玉県の県央医療圏(上尾市、桶川市、北本市、鴻巣市、伊奈町)の二次救急指定病院となっており、年間に約9000件の緊急搬送を受け入れている。同地域の核となる医療支援病院として、連携医療機関を支えているのだ。
今回の「モービルCCU」は、地域の連携医療機関からの要請に迅速に対応するため、循環器系急性疾患の患者の前方搬送(他病院から同病院への搬送)を行うことを目的として導入され、8月13日から運行を開始した。同病院広報によると、8月23日までにすでに3回の出動があったという。
心臓病専用救急車「モービルCCU」が導入された理由は?
上尾中央総合病院は地域最大の病院として、医師や看護師、技師などのスタッフ、手術・検査設備、入院設備などが最も整っており、日常診療を行うクリニックや診療所・医院では対応できない患者も受け入れている。
そうした患者の搬送は、これまではかかりつけ医が自治体の救急車に患者搬送を依頼していた。しかし循環器系の疾患の場合、一分一秒を争う。そこで、専門医による初期診断ができて必要に応じて初期治療が始められるように、循環器の専門医が同乗して出動できる「モービルCCU」を導入したという。
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「モービルCCU」の性能に迫る!
「モービルCCU」はどんなクルマ?
「モービルCCU」を後方から。循環器系の各種医療装置が設置されており、専門医も同乗することから、緊急事態の際は車内での初期診療なども行える。
国内の救急車として各地の自治体で導入されているのが、トヨタ製救急車だ。その中でも高規格に準拠したのが「ハイメディック」である。「ハイメディック」は商用ワンボックスカーの「ハイエース/レジアスエース」をベースに救急車として改装した特殊車両で、「モービルCCU」はその「ハイメディック」をさらに改造している。ちなみに「ハイメディック」の消費税込みの車両価格は1105万6000円。
搬送中の患者の急変に対応するために必要なモニターや人工呼吸器、各種薬剤などを装備するためで、通常の「ハイメディック」よりも幅と高さをそれぞれ80mm拡大して車内スペースを確保した。
さらに外部充電も可能な1000Wの電源ユニットを搭載し、循環器系疾患の患者に対応するための「大動脈バルーンポンピング装置」や「経皮的心肺補助循環装置」などの機械的補助循環装置も備えた。これにより、ショック状態の患者の搬送も安全に行うことができるという。
「モービルCCU」の車内に設置されている、大動脈バルーンポンピング装置。
要請があると専門チームが「モービルCCU」に乗って出動!
複数の循環器系の専門医、看護師、各種医療装置を操作を担当する臨床工学技士、そして運転手を兼ねた事務職員がチームとして登録されており、当番制でその日ごとの担当メンバーがチームとして出動する。1チーム4名で構成され、帰りは患者とその家族1名まで最大6名が乗車で戻ってこられる。画像は訓練時の様子。
心臓病専用救急車に、循環器系疾患のための各種医療機器を搭載したからといって、車内で患者に各種処置を施すことはできない。患者への医療処置は、医者のみが行えるからである。
そこで上尾中央病院では、「モービルCCU」を導入するために専門チームを結成。同病院に所属する循環器の専門医、看護師、臨床工学技士、事務職員(運転手)がその日ごとにチームを組んで出動する。要請先の医療機関に到着後、チームは「モービルCCU」に患者を収容し、診療を引き継ぐ。
医師がいることから、循環器系疾患用の医療機器を用いた医療行為も行える。AEDよりも高圧の除細動器「DC」も搭載しており、それを使用した処置もできるのである。
「モービルCCU」の車内に設置された、除細動器やモニターなどの各種医療機器。
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「モービルCCU」の導入によるメリットは多い
患者にも地域の医療機関にもメリットのある「モービルCCU」
「モービルCCU」は救急車として、警察と消防に登録されており、サイレンを鳴らしての走行も可能。
「モービルCCU」を導入したことによる、患者や地域の医療機関へのメリットは複数ある。まずなんといっても、搬送される患者の不安を取り除けることだろう。従来通りの自治体の救急車による搬送だと、その間は循環器系の専門医はおらず、緊急事態の場合に医療行為ができないため、患者にとって不安だ。しかし、「モービルCCU」ならこれまでのかかりつけ医から上尾中央総合病院の循環器系専門医にすぐさま引き継がれるので、常に専門医に見守られていることになる。患者としては非常に安心だろう。
そして、上尾中央病院に到着してから検査や手術を始めるまでの時間を短縮できる点も大きい。「モービルCCU」の車内の医師と、上尾中央総合病院の医師、またはかかりつけ医と患者の情報を共有することで、準備時間を短縮できる。さらに、車内ではインフォームドコンセント(患者への十分な説明をした上での手術などの合意)を行える点もメリットだ。病院に到着してから行う必要がなくなり、これも病院到着後に検査や手術を始めるための準備時間の短縮につながる。
そして患者がいた連携医療機関にとっては、上尾中央総合病院から「モービルCCU」で循環器の専門医や看護師が駆けつけてくれることで、その連携医療機関の医師や看護師は最小限の中断で通常の診療に戻ることができる。ほかの患者への影響を最小限に抑えられるというわけだ。
さらに加えれば、自治体の救急車を占有しなくて済むことも大きい。連携医療機関から上尾中央総合病院までは自治体の救急車で患者を搬送していたわけだが、「モービルCCU」が迎えに行くことで、その必要性がなくなる。
ドクターカーは、専門医を初めとするスタッフを確保できなければ運用は難しく、どの病院でもできるわけではない。しかし、上尾中央総合病院のように大型の病院なら運用できるはず。導入するメリットは多いはずだ。