あおり運転について。あおらない、あおられない運転。菰田潔の、モノ申したい話
最近、あおり運転が社会の関心を集めている。あおり行為をして危険を誘発するドライバーが悪いことは言うまでもない。その前提に立ったうえでこの問題について解説する。
無自覚のあおり運転が多すぎる
当たり前だが、あおる側とあおられる側がいる。ここで問題なのが、あおる側に、自分が今あおっているという自覚がない場合だ。
先日あるドライバーの助手席に乗ったときのことだ。私が「この車間距離だと、前の車のドライバーはあおられていると感じるよ」と伝えると、「菰田さん、こんなに車間が空いているんだから、そんなこと相手は思いませんよ」と返してきた。私から見れば、明らかに接近していたのでそう伝えたのだが、このように人によって距離の感覚はまったく異なるのだ。
では、どうすればあおられたと感じさせない距離を保って走ることができるのか。これは、「2秒の距離」を常に意識することだ。前の車が通過した場所から「ゼロ、イチ、ニ」と数え、数え終わった後にその場所を自車が通過すれば、2秒以上車間が取れているということになる。
この距離を保つことで、前を走る車のドライバーがバックミラーを見たときに、後続車が接近していると感じさせずに済む。同時に先行車に何かあった場合でも自分が危険なく対処できる距離でもある。これは私が以前、動画で解説しているので、そちらも参照いただきたい。
意図的にあおる悪質ドライバーの存在
こうした無自覚のあおり運転のほかに、意図的に先行車をあおるドライバーも存在する。
普通のドライバーなら、前の車がゆっくり走っている場合、高齢者とか初心者とか、あるいは同乗者が急激な加速や減速をしてはいけない状態だとか、道が分からないだとかで、ゆっくりしか走れないドライバーなんだ、ということに思いが至っている。
だが意図的にあおるドライバーには、こうした想像力がない。他人に対して自分の意見や考え、感覚を押し通したいだけの人が必ずいるものだ。こういった人は、重さ何トンもある物体を時速100km/hで動かしている、という自分自身への想像力も欠いている。これは何もドライバーに限ったことではない。社会には一定数そうしたやっかいな人間がいるものである。
あおられたと感じた場合どうするか
「車間が近いな」「あおられているな」と思ったら
車線を移って先に行かせるが勝ち
先述した無自覚、意図的に関わらず、急速に接近してくる車が来た場合は、速やかに隣の車線に移って前に行かせればいいだけのことだ。車間が近いことを後続車に伝えるのは至難の技である。というより不可能だ。意図的にあおってくるドライバーが来ても、道を譲りその後は無視して相手にしないことがベストだ。
あおり返したり、抜き返したりしないこと
日本人は仇討ちのメンタリティというか、こと運転に関しては、やられたらやりかえせ精神のドライバーを頻繁に見かける。道を譲るところまではいいのだが、その後あおり返すのだ。これでは互いにエスカレートするだけで、自らトラブルの種を蒔きに行っているようなものだ。普段は危ないと分かっていることに近づかないようにしていても、こと運転になるとついカッとしてしまう人が多いのは実に不思議だ。
ついカッとなってしまう場合どうすればよいか。
怒りの感情は、運転時にもっとも抱いて欲しくない感情である。では、理屈では分かっていても、つい怒ってしまう人はどうしたらよいのか。私はアンガーマネジメントをおすすめすることにしている。これは、郵便局員など、多数の顧客と直接相対する職業の人が実践する、欧米などでよく見られる感情のコントロール術だ。無用なトラブルを回避するために、たとえ理不尽な要求をされても怒らずにいるための訓練をするそうだ。怒りの感情は短時間で半減する。この時間は5~6秒といわれている。つまり、ドライバーも腹が立つことがあっても、まずは5~6秒待ってみればいい。5~6秒待つだけで「まいっか」という気持ちになれ、無用な危険やトラブルを招かなければ儲けものではないか。運転中はとかく感情のコントロールが非常に大事なのだ。
最近、あおられるほうも悪い説があるが・・・
あおられるほうにも原因があるという主張も最近は耳にすることが多くなった。これには理由がある。例えば、高速道路右側の追い越し車線をずっと走り続ける人。これは交通規則上でも違反行為だ。走ってはいけない場所やタイミングで走っているから、自然、後続の”あおりたくない”ドライバーも接近してしまい、結果あおられたと感じる、という理屈だ。自分は制限速度を守っているから100%正しいと思っても、違反ということを知らないだけでまったく正しくないということになってしまう。あおられたら避けるという行為の納得性を高めるためにも、高速道路の追い越し車線を走り続けることはいけないことだと知っておいたほうがいい。
無理に他車の鼻先に入れば、当然車間は詰まる=あおり運転と感じる。この状況を作り出したのは誰だろうか。
また、後続車との車間距離が詰まる行為、つまり何もないところで頻繁にブレーキを踏んだり、右左折前のウインカーを出すのが遅かったり、他車の前に強引に車線変更したりといった行為も、後続車の怒りを助長する。そういう運転をしたつもりがないドライバーでも、自分がそうされたらどうなるかを今一度想像してみて欲しい。
もちろん、冒頭に述べたとおり、あおり運転は正当化できるものではない。特に意図的にあおり行為をする、他人に思いが至らないややこしい性格のドライバーには何を言っても無駄なのだ。あおられた挙句にトラブルに巻き込まれる事態など、あまりにも無情ではないか。そうならないためにも、これを読んでくださっている良識ある読者の皆さんは、先を譲るだけの度量を持って運転しようではないか。
2018年7月24日(モータージャーナリスト 菰田潔)
菰田潔(こもだきよし):モータージャーナリスト。1950年生まれ。 タイヤテストドライバーなどを経て、1984年から現職。日本自動車ジャーナリスト協会会長 / 一般社団法人 日本自動車連盟(JAF)交通安全・環境委員会 委員 / 警察庁 運転免許課懇談会委員 / 国土交通省 道路局環境安全課 検討会 委員 / BMW Driving Experienceチーフインストラクター / 運送会社など企業向けの実践的なエコドライブ講習、安全運転講習、教習所の教官の教育なども行う。