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最終更新日:2018.07.20 公開日:2018.07.20

キャビンスクーターの傑作! メッサーシュミット「KR175」

戦後のドイツを中心に、欧州で流行したバブルカー。 キャビンスクーター、マイクロカーなどと呼ばれたそれらの中でも人気を博した1台がメッサーシュミット「KR」シリーズ。 ベーシックモデルの「KR175」を取り上げる。

メッサーシュミット「KR175」1954(昭和29)年式。エンジンサウンドはスクーターのそれに近かった。MEGA WEBにて開催されたヒストリックカー同乗イベントにて撮影。

 第2次大戦における敗戦国として、不安定な経済状態が他国よりも長く続いた西ドイツ(当時)。そこで誕生した傑作キャビンスクーターが、メッサーシュミットの「KR」シリーズだ。「KR175」、その排気量アップ版の「KR200」、そのオープンカー版「KR201」の3モデルがあり、今回紹介するのは「KR175」だ。この「KR」シリーズは、バブルカーの傑作であったBMW「イセッタ」(記事はこちら)と共に、西ドイツ(当時)の戦後の混乱期を支えた。

 一見するとクルマだが、キャビンを持ったスクーターであるキャビンスクーター。その誕生理由は、第2次大戦で欧州は戦勝国も敗戦国も等しく大きな被害を受け、経済的に混乱が続いたことにある。

 一般市民にとってクルマはほしくても経済的に手を出せず、かといって手が届くスクーターは荒天時に弱いという短所があった。そうした中で誕生してきたのが、スクーターにキャビンを装備させてしまうという「KR」シリーズに代表されるキャビンスクーターだったのである。

「KR175」を真正面から。2人乗りだが、シートがタンデムのため、横幅はかなり細身だ。全幅は1220mm、前輪のトレッドは1080mmとなっている。

「KR175」を横から。後ろは1輪であり、今風にいえばリバーストライクということになる。側面の窓はスライド式。ただし、前席側を全開にすると後席側がふさがり、逆に後席側を全開にすると前席がふさがってしまうので、半分ずつになるよう調節する必要がある。

「KR175」を後方から。エキゾーストパイプは右側にある。またリアには荷物をくくりつけるためのキャリアーが備えられている。

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「KR175」は戦闘機の余剰パーツを使って開発した!?

その独特の風貌は戦闘機譲り!?

一般的なクルマとは異なり、車体上部はキャノピーとなっており、乗降はそれを跳ね上げて行う。キャノピーだけを見ると、まるで第2次大戦の戦闘機のようだ。

 メッサーシュミット社は、第2次大戦当時、ドイツ空軍の戦闘機「メッサーシュミット Bf109」シリーズを生産したことなどで知られた航空機メーカーの流れを汲む。戦後、日本において後のスバルにつながる中島飛行機が解体された上に航空機の生産が禁止されて車両開発に転換していったように、メッサーシュミットも航空機の生産が禁止されたことで、メーカーとして方向転換をせざるを得なくなる。

 そうした中で、メッサーシュミットの元技師であったフリッツ・フェントにより考案され、メッサーシュミットが生産、1953(昭和28)年から発売したのが「KR175」だ(1952年説もある)。「KR175」は、もともと傷痍退役軍人のためというコンセプトで開発されたのだという。

 ”KR”とはドイツ語でキャビンスクーターを意味する「Kabinen Roller(カビネン・ロッラー)」の略で、”175″はエンジンの排気量を意味する。正確には174ccの空冷2ストロークの単気筒エンジンで、5250回転で9馬力を発生した。エンジンは駆動輪である後1輪の直前に配置されている。

エンジンは、後1輪の前方、後席シートの下方にマウントされている。

後部は跳ね上げられることが可能で、そこにはスペアタイヤがある。その前方にある黒い円筒形の物体は燃料タンク。

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バブルカーではなくキャビンスクーターであるポイントは?

「KR」シリーズのスクーターらしい特徴は?

キャビンスクーターといわれる理由のひとつが、このハンドルバー型のステアリング。右側の黒いレバーのうち、前方がシフトノブで、後方はサイドブレーキ。

 スクーターらしい特徴としては、前2輪・後1輪構成のリバーストライク型である点や、ハンドルバー型ステアリングを採用している点、タンデムでの2人乗りの構成などだ。

 ただしタンデムシートについては、戦闘機の名残とする見方もある。跳ね上げ式のキャノピー型のキャビン形状も戦闘機譲りの形状をしており、「KR」シリーズのボディは上半分だけ見ると、まるで第2次大戦当時の戦闘機のようだ。

車内の様子。タンデムシートの後席は狭そうだが、身長180cmオーバーの大柄な記者でも乗り込むこともできた。

 また、このキャノピーを含めた細身のボディは空力的には優れていたようで、古い資料によっては最高速度は時速112kmという数値も確認できた。ただし別の資料では、191ccに排気量アップして1955(昭和30)年に登場した「KR200」の方が遅く、時速97kmとなっていた。

「KR175」を右斜め後方から。ウィンカーが赤、ブレーキランプがオレンジとなっている。しかし、前方のウィンカーはオレンジ。ナンバープレートはMEGA WEBオリジナルで、輸入車(外国産)のためのデザインとなっていて、”D”はドイツ製、”29″は昭和29年式、”53″は1953年に発売開始、”54″は1954(昭和29)年式を表す。

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「KR」シリーズの最後は?

キャビンスクーター・バブルカーの終焉

キャノピーを跳ね上げた状態での「KR175」。キャノピーの多くが布製であることがわかる。

 1956(昭和31)年9月には第2次中東戦争(スエズ戦争)が起きたことで、欧州ではガソリン配給制が実施され、その結果として燃費が最重視されるようになる。それが欧州全土にキャビンスクーターやバブルカー、マイクロカーの大流行を呼び起こした。

 しかし、経済の復興と共にガソリンの供給問題も落ち着きを取り戻すと、一般市民はフィアット「ヌォーヴァ 500」(記事はこちら)や英BMCのモーリス「ミニ・マイナー」/オースチン「セブン」といった、コンパクトでいて居住性があり、燃費もいいクルマを求めるようになっていく。そして、キャビンスクーターやバブルカーは1960年代前半で廃れてしまう。「KR」シリーズは累計で約4万台が生産されたが、1964(昭和39)年をもって生産を終了となった。それと同時に、メッサーシュミットは自動車生産事業から撤退した。

 ちなみに「KR」シリーズは、映画「未来世紀ブラジル」で主人公が利用していたことなども手伝い、世界的に現在でも愛好家が多い(関連記事はこちら)。当時、日本でも正規に輸入されていたこともあって、今でも大事に所有しているオーナーは存在する。

 また、別記事『【動画あり】2大バブルカーが激突!? BMW「イセッタ300」vsメッサー「KR175」。同乗試乗してみた結果は?』では、「KR175」と「イセッタ300」に同乗試乗した動画も用意。ぜひご覧いただきたい。

キャノピーを跳ね上げた状態での「KR175」を後方から。キャノピーを閉めるときは、頭部に注意が必要。

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最後は「KR175」のスペックを掲載

「KR175」スペック

メッサーシュミットのエンブレムとロゴ。メッサーシュミットは合併をしたり、吸収されたりするなどした結果、その流れを汲む企業は現在でも存在するが、社名自体はもう残っていない。

【スペック】
全長×全幅×全高:2820×1220×1200mm
ホイールベース:2030mm
前輪トレッド:1080mm
車重:未確認(「KR200」は150kg、250kg説あり)

【エンジン】
種類:空冷2ストローク単気筒
排気量:174cc
最高出力:9ps/5250rpm
最大トルク:未確認(「KR200」は1.53kg-m)
ミッション:未確認(「KR200」は4速)

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