クルマのある暮らしをもっと豊かに、もっと楽しく

クルマ最終更新日:2017.08.04 公開日:2017.08.04

SF映画「未来世紀ブラジル」と メッサーシュミットとの 素敵な関係

00_messer_00.jpg

© picture-alliance/ dpa / Armin Weigel

 「Messerschmitt(メッサーシュミット)」は、イセッタに並ぶ、戦後ヨーロッパで生産された最小機能の超小型自動車、バブルカーの代名詞たるクルマである。

航空機メーカーが作り出したバブルカー

 メッサーシュミットは、もともと航空機メーカーの独メッサーシュミット社が、戦後に戦闘機の製造を禁止され、バブルカーの製造に乗り出して生まれたもので、1952年に3輪車「KR175」、1955年に「KR200」が販売された。

00_messer_02.jpg

バブルカーの代名詞、メッサーシュミット(手前)とイセッタ。© picture alliance / Geisler-Fotopress

 カプセル状のウィンドウを持ち上げて乗降するキャビン、前後に連なる2人乗りのシート、空気抵抗を最小限に抑えるよう設計されたボディは、航空機の製造技術が取り入れられた従来にはない斬新なデザインになっている。

00_messer_03.jpg

© picture alliance

ブラックユーモアの傑作SF映画「未来世紀ブラジル」

 読者のみなさんは、イギリスのナンセンス・コメディグループ「モンティ・パイソン」の一員であるテリー・ギリアムが監督したカルト的SF映画「未来世紀ブラジル」をご存知だろうか。

→ 次ページ:
未来世紀ブラジル vs メッサーシュミット

 情報統制された20世紀の架空国家ブラジルには、政府に反抗するテロが横行している。情報局に勤める主人公サムは、夜な夜な美女の夢を見る。サラリーマンとしての凡庸な現実と、美女を悪から救いだす英雄願望的なサムの夢が、映画では交差して展開する。ある日、夢に出てくる美女ジルに出会うことで、サムの人生は思わぬ方向に流されていく……。

00_messer_04.jpg

映画のワンシーンから。主人公のサム(ジョナサン・プライス)は、夢に現れるジル(キム・グライスト)に現実でも遭遇する。© picture alliance / United Archives

 この映画のテーマは、「統制された社会の狂気とそこから逃げ出したいという欲求である」と監督自身が語っているが、未来世紀ブラジルはなんといってもストーリーを驚愕するほどに強烈に訴えかけるビジュアルイメージが素晴らしい。
 ハイテクと懐古趣味、美と醜悪さが渾然一体となった不思議な未来都市が、乗り物、家電、オフィス機器、衣装、建築などのディテールを通して描かれ、全体主義による暴力を強烈に風刺している。
 未来世紀ブラジルのビジュアルは後世の多くのクリエーターを刺激し、彼らの作品にその影響を見てとることができる。

00_messer_05.jpg

整形手術で若返りすることに余念がない富裕層のサムの母親。悪夢のような未来社会の狂気が強烈なビジュアルイメージとなって連鎖される。© picture alliance

 映画が公開された1985年は、3年前に「ブレードランナー」が大ヒットし、近未来を汚れて退廃した都市風景で描くことで、それまでのSF映画のクリーンなイメージを払拭した。その影響が未来世紀ブラジルにも見られる。
 ブレードランナーが未来社会からの逃亡を愛の力で成し遂げたポジティブなエンディングによる「陽」だとすれば、未来世紀ブラジルは絶望的なエンディングが待ち受けるブラックユーモアに徹した「陰」の存在である。

映画の中に登場する奇妙な乗り物たち

 映画の中には印象深い乗り物が登場するが、1つにはジルが操る戦車のようないかついトレーラーがある。つなぎを着た男勝りの美女ジルが大型トレーラーを運転するシーンは、ビョークのプロモーションビデオ「Army of me」の中にそのオマージュたる影響を見ることができる(と記者は確信する)。

ビョーク「Army of Me」。リンク先=YouTube

 また、労働者が通勤のために使用する乗り物は、高層ビル化した住居ブロックの間をつなぐ自動運転車と電車が一体となったような不思議な乗り物である。

→ 次ページ:
みんなに愛されるクルマ

 サムが仕事で顧客を訪れる時の乗り物としてメッサーシュミットが登場する。50年代当時の最新のデザインに、時間が経過しノスタルジックさが加味されたメッサーシュミットと未来世紀ブラジル、これ以上にマッチした組み合わせはないのではないだろうか。

未来世紀ブラジル・トレーラー。リンク先=YouTube

 左右に大型車がそびえる間を、車体の低い宇宙船のようなメッサーシュミットに乗ったサムが颯爽として駆け抜けるシーンは、強烈に脳裏に焼きついている。カーラジオから流れる、陽気なサンバの音楽、サムの人のよさ、メッサーシュミットの流線型のラインの美しさなど、ポジティブな物体が、腐食した社会を掻き分けるように快走していくのである。

00_messer_06.jpg

ドイツで販売された「KR200」の当時のポスター。© picture alliance / dpa

 メッサーシュミットKR200は、1955年の12月までの僅か10か月の間に1万5840台を販売するヒットモデルとなり、1964年に生産終了となるまでに約4万台が製造されたといわれている。
 その後、メッサーシュミット社は自動車の生産を行っておらず、戦闘機を製造するメーカーによる幻のクルマとして、今もなお世界中の熱狂的なファンに愛されている。

00_messer_07.jpg

好奇心旺盛のドイツの子供に囲まれるメッサーシュミット。© picture alliance / dpa

2017年8月04日(JAFメディアワークス IT Media部 荒井 剛)

この記事をシェア

  

応募する

応募はこちら!(4月30日まで)
応募はこちら!(4月30日まで)