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最終更新日:2018.07.04 公開日:2018.07.04

ガソリンベーパー問題の最前線を特集。(3/4)

なんちゃってエジソン」で、体当たりの実験や地道な調査をこなしてきたあのライター横内が帰ってきた! 

今度は、かっこいいジャーナリストを目指して、社会問題や世の中の気になる新たな動きに、取材で切り込んでいきます。


世界初「ガソリンベーパー液化回収装置」を開発した株式会社タツノのショールーム。工場と研究・開発施設に併設されているショールームで、さまざまな給油機が展示されている(写真提供:株式会社タツノ)

ガソリンベーパーの何がそんなに問題なのか? そして、具体的な対策とは? ガソリンベーパー問題の最新情報を4部にわたって掲載。すべてをつまびらかにしたいと思います! この3部では、ガソリンベーパーを液化回収する給油機を世界で初めて開発した日本のメーカーを取材しました。

ヨーロッパ製のガソリンベーパー回収給油機を超える製品を研究・開発。

 ガソリンベーパー対策に神奈川県が力を入れるようになったきっかけの一つに、同じ神奈川県に工場兼研究・開発施設がある給油機メーカーの存在があります。株式会社タツノという創業1911年(明治44年)の老舗企業で、2007年に世界で初めてガソリンベーパーの液化回収技術を備えた「エコステージ」を発表しました。その「エコステージ」の開発責任者が、今回取材に対応してくれた取締役研究開発本部長の羽山文貴さん。横浜工場内に併設されているショールームでお話を伺いました。

「エコステージ」開発責任者の株式会社タツノの取締役研究開発本部長 の羽山文貴さん

 「ヨーロッパでは給油機でガソリンベーパーを回収する仕組みがすでに普及していました。ヨーロッパの回収方法は、給油時にベーパーを拡散させないよう、給油ノズルから周辺の空気も一緒に吸引し、気体のまま地下タンクに戻します。そのため地下タンクの中には空気が溜まっていき、どこかでこれを排出しなくてはなりません。この排出の際に空気と一緒に地下タンクの中に溜まっているガソリンベーパーも少なからず大気中に拡散されてしまうという問題点がありました。気体での回収には限界があると感じていたわけです」(羽山さん)

 国際的なガソリンベーパー対策をみると、2つの方法がとられています。まずは、アメリカで既に普及している、車側でガソリンベーパーを回収する「ORVR車」です。これは、車体内に大型のベーパー回収容器(キャニスタ)を備え、給油時、駐車時、走行時の場面でガソリンベーパーを回収する仕組みです。回収したガソリンベーパーは、燃料として再利用されます。

 そしてヨーロッパでは、羽山さんの解説にあるように、ガソリンスタンドの給油機側で回収する仕組みです。

 「日本でも環境問題への意識が高まり、同時にガソリンベーパーへの対策が改めてクローズアップされてきました。そこでタツノは、ヨーロッパでの回収方法の問題点を克服する製品開発をスタートさせました。ガソリンベーパーの回収は、給油する際に使用するノズルから吸引も同時に行う仕組みです。これは、ヨーロッパも日本も同じ。問題はタンク内にたまったガスを回収後にどうするかでした。この扱いが大きな課題だったんです」(羽山さん)

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ガソリンベーパー、どうやって回収してるの?

ガソリンベーパーを気体ではなく、液化して回収するという新発想。

 そんな中、技術のブレイクスルーを生みだしたのが、気体ではなく液体にして回収するという発想だったそうです。

 「よく誤解されるのですが、ヨーロッパの従来の設備でも『ガソリンベーパーの回収率』は100%だったんです。とりあえず、全部回収する。ただ回収した後の処理が問題で、空気と一緒に外に放出されてしまっていた。それを防ぐために瞬時に液化してしまう技術がポイントでした。そして、2007年に世界で初めて、ガソリンベーパーの液化回収技術を使った荷卸し用・給油用それぞれのエコステージを発表しました。
 最初の給油用エコステージは、3台の給油機を1台の液化回収装置に配管でつなぐ構造が取られていました。これには、ガソリンスタンド側の導入コストを抑える目的に加えて、液化回収装置が大きいため、限られたスペースのガソリンスタンドに複数台設置せずに済むようにとの配慮からでした。しかしながら、配管の地下埋設工事など、設置にかなりの手間が発生してしまう点がネックに。そこで、普及モデルとして開発が進められたのが、給油機1台ごとに液化回収装置「エコステージ」を内蔵した給油機でした。
 簡単に言うと液化するということは、いかに瞬時に冷却できるか。だから、冷蔵庫のように設備が大きくなればなるほど技術的には容易になります。ガソリンスタンドにある給油機に、ベーパーを圧縮して瞬時に液化できるほどの冷却装置を内蔵することが、消防法や技術的な面から見て、大変困難な課題でした」(羽山さん)

液化回収装置を備える給油機「Sunny-NX D70S」の前で解説する羽山さん。写真右下の水色に光っている部分が液化回収のための冷却装置やコンプレッサーが収まる心臓部

コンパクトに納められたこの装置でガソリンベーパーを100%吸引し、瞬時に冷却・液化し、給油機内にガソリンとして戻している。ショールームでは実際の吸引の様子や構造の一部を見ることができる

理論上の液化回収率の最大値まで、あとわずか。研究・開発を継続中!

 現在、給油用のエコステージで回収したガソリンベーパーの液化率は0.12%とのこと。理論上、最大限液化回収できたとしても0.15%とのことなので、技術的な上限まで、あと一歩の所まで迫っています。給油機より大きな荷下ろし機のエコステージでは、既に0.15%を達成しています。やはり、装置の大きさがポイントのようです。現在でも、さらなる小型化の研究が進められています。

 現在の課題は、前述の液化回収率0.15%を達成することに加え、日本独自の懸垂式ガソリンスタンド用のエコステージ対応の給油機を開発することだそうです。「懸垂式ガソリンスタンド」とは、給油用のノズルが天井からぶら下がるタイプのガソリンスタンドのこと。実は懸垂式給油機の特許を持つのもタツノなのです。世界で初めてタツノが製造したものです。

懸垂式給油機。参考写真

 「懸垂式はもともと、狭い敷地のガソリンスタンドで使用する目的で開発されたため、国土の狭い日本や韓国、台湾などで利用されています。欧米ではまず使用されていません。日本では全国平均で、5%のガソリンスタンドで懸垂式が採用されているのですが、地価の高い東京では5倍の20%のガソリンスタンドで採用されています。そのため、懸垂式の改善も無視はできないと、開発を検討しています。」(羽山さん)

 懸垂式の場合、長い距離をポンプで押し出したり、吸い戻したりする必要があり、通常の地面設置タイプとは全く液化回収装置の構造が異なるそうです。

実際にどのくらいの量のガソリンベーパーが液化回収されるのか?

 ところで、0.12%という液化回収率は、どの程度のものなのでしょうか。具体的に考えてみましょう。実際に1回の給油だと、どのくらいの量のガソリンを液化回収できるのでしょうか?「50リットルの給油」の場合で検証してみます。

 ガソリンの回収量は、給油量×液化回収率で計算できます。50リットルの給油の場合、0.12%の0.06リットル(60ミリリットル)が回収できるわけです。60ミリリットルとは、ヤクルト1本(65ミリリットル)とほぼ同じ量です。料理でおなじみの「大さじ」だと丁度4杯分に当たります。

 つまり、満タン給油50リットルの場合では、理論上60ミリリットル前後のガソリンが、液体となってガソリンスタンドのタンクに戻っています。

 従来の給油機では、満タン給油50リットルの度に、この60ミリリットル分のガソリンが大気中に拡散していたことになります。

臭わないガソリンスタンドは実際にあるの? 次回で解説します。

2018年7月4日(ライター 横内信弘)

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