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クルマ最終更新日:2017.10.27 公開日:2017.10.27

マニア垂涎! シトロエン往年の名車「2CV(ドゥーシボー)」

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「2CV タイプAZL」。最初に登場した「タイプA」の排気量アップ版「タイプAZ」のデラックス仕様として1956年に発表されたのが「タイプAZL」である。「AUTOMOBILE COUNCIL 2017」のシトロエン専門ショップ・アウトニーズにて撮影。

 シトロエンは、アンドレ・シトロエンによって1919年にフランスで創業した自動車メーカー。現在では同じくフランスの自動車メーカーであるプジョーと合併し、グループPSA(旧社名PSA・プジョーシトロエン)という企業となり、その傘下の1ブランドとして独自性を残して存在している。

 シトロエンはその100年近い歴史の中で、先進的な技術を開発するなどして評価されてきた一方で、経営は必ずしも順調ではなかった。

 1930年代に経営に行き詰まると、タイヤメーカーのミシュラン傘下に入ることになった。そんな時代に副社長に抜擢され、後に3代目社長となるピエール-ジュール・オギュスト・ヴィタル・ブーランジュが開発を主導したのが、今回紹介する「2CV」シリーズだ。

 日本では「ツーシーブイ」と英語読みをする人も少なくないが、「ドゥーシボー」や「ドゥセボー」などとフランス語風に呼んでいるファンも多い。ただし、発音的には「ドゥシュヴォー」が一番近いそうである。

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シトロエン「2CV」シリーズは戦前から開発が始まり、1949年に販売開始。製造は安全基準の関係で生産ができなくなる1990年まで世界中で行われ、41年間で700万台弱が生産された。

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「2CV」が開発された理由とは?

「2CV」の開発コンセプトに迫る!

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安価でありながら頑健で、なおかつ乗り心地はソフトという高い水準を求めて「2CV」の開発は進められた。

 「2CV」は一説によれば、副社長ブーランジュが1935年に休暇で農村を訪れた際、車の発明から40年以上が経過しているにもかかわらず、手押し車を使う農夫たちを見て、まったくクルマの普及が進んでいないことを痛感。クルマがなければ生活していけないような地域の人々のため、小型で安価なクルマを開発する決意をしたという。

 そして彼が休暇から戻った後に、チーフ・エンジニアに伝えた言葉が、有名な「”こうもり傘に4輪をつけたもの”を作れ」というものであった。これは「シンプルに作れ」という意味で、非常に質素で、質実剛健を体現したような人物だったブーランジュならではの言葉だったのである。

 ブーランジュは、さらにいくつかの条件を加えて開発させた。

 まず、2人の大人と50kgのジャガイモを積んで、最高速度は時速60km、燃費は20km/Lがひとつ。キャビンのスペースに関しては、大柄なブーランジュがトレードマークのシルクハットを被ったまま乗り込んでも大丈夫なほどのヘッドクリアランスを要求した。これは、当時のシトロエンで有名なブーランジュの「ハット・テスト」といわれた。

 そして、農夫など地方の人々が使用することから、農道のような未舗装の悪路でもカゴに入れたタマゴが割れない快適な乗り心地を実現することも求められた。

 さらに、女性でも楽に運転できるような簡潔な構造と操作系でなければならないことも加えられたのである。

 その上、当時の農夫たちでも購入できるような従来よりも大幅な低価格にすることも命じたというわけだ。

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第2次大戦を挟んでも開発は続けられた!

プロジェクト「TPV」がスタート

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「2CV」を横から。ドアハンドルの位置からわかるかと思うが、前席のドアは後方にヒンジがある。エンジンはフロントに搭載され、前輪駆動。

 ブーランジュが掲げた条件をクリアすべく、フランス語で”超小型車”を意味する「Toute Pettie Voiture」の頭文字を取って「TPV」と名付けられたプロジェクトがスタート。

 しかし、第2次大戦が勃発したため、開発計画は大きく変更を余儀なくされてしまう。しかも、1939年時点で数100台のプロトタイプを完成させていたにもかかわらず、ドイツへの情報漏洩を警戒してそれらは1台を残してすべて破棄されてしまう。

 フランスがドイツによる侵略を受けるなど、国家存亡の危急である第2次大戦下でも開発は続けられ、新たな技術も誕生した。その代表例が、スプリングを左右のサイドシル下に前後方向に配置し、前後から引っ張り合う「関連懸架」と呼ばれる方式の新型サスペンション機構。これが、「悪路でもタマゴが割れない」乗り心地に大きく貢献した。

 このように、戦争によって当初のスケジュールからは大きく変更せざるを得なくなるが、結果として開発期間が延長されたことで、プロジェクト「TPV」はより進化していったのである。

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リアビュー。後方用のウィンカーがテールランプのそばになく、後部ドアのすぐ後ろ、車体上部に設置されている。

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「2CV」が実際に発表されて人々の反応は!?

1948年、発表された「2CV」の評価は?

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「2CV」の真後ろからのビュー。給油口は右のリアフェンダーに設けられている。

 戦争が終結した3年後の1948年にプロジェクト「TPV」は完成を見て、セダンタイプの通称「タイプA」が誕生。フランスの芸術系の展示会である「ル・サロン(サロン・ド・パリ)」において、「2CV」の名が与えられて発表された。なお、「2CV」は「2馬力」を意味する。

 実際に2馬力しかなかったかというとそんなことはなく、「2CV」のフロントに搭載された、排気量375ccの空冷フラット・ツイン(2気筒)エンジンは、最高出力9馬力をマークした。

 9馬力と聞くと現在では信じられないほど非力だが、ボディは3780×1480×1600mmというサイズながら、重量はわずか495kgしかなく、そのため最高速度は時速65kmをマークした。燃費も22.2km/Lと、開発時の条件をクリアしている。

 また乗り心地に関しては、サスペンションはフロントがリーディング・アーム方式、リアがトレーリング・アーム方式を採用し、スプリングの配置を新開発の関連懸架方式としたことなどにより、実際に”タマゴの割れない”ほどの非常に柔らかな乗り心地を実現した。

 副社長ブーランジュの厳しい条件を達成した「2CV」だったが、発表後に待っていた評価は必ずしもいいものだけではなかった。マスコミや上流階級にはあまりデザイン的に評価されず、量産性や経済性、軽量化を優先した作りは、「ブリキ小屋」や「缶詰」などと揶揄されたのである…。

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リアゲートを開けると、そこはラゲッジスペース。なお、次ページで紹介するが、ここに後輪駆動用の2基目のエンジンを搭載して4WD車としたレアな「2CV」のバリエーション、「4×4」(通称:サハラ)も存在する。

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超レアな「2CV」の4WD車「4×4 サハラ」も紹介!

売れに売れた「2CV」はバリエーションが増加

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AUTOMOBILE COUNCIL 2017のカーグラフィックブースで、「CG CLUB Selection for AUTOMOBILE COUNCIL」として展示された「2CV 4×4」、通称「サハラ」。バンパーやボンネット上のスペアタイヤ、助手席側ドアの燃料給油口、リアフェンダーの切り欠きなどが異なる。

 発表直後はマスコミや上流階級などからは否定的に見られた「2CV」だったが、実際に1949年に発売がスタートすると、徐々に販売台数が伸びていく。主なターゲットである農民たちは外見のことを気にせず、価格と機能性、そして経済性を大いに評価。そこから徐々に都市部の人々にも人気が波及し、フランス全土の人々に受け入れられていったのである。

 そして文字通り国民車として普及したため、全盛時はパリの街中ではどこで写真撮影しても「必ず数台が映り込む」といわれるほど売れたのである。

 販売台数が伸びていった結果の常として、バリエーションが増やされることになった。まず、1950年にバン仕様の「タイプAU」が発表。最大積載量は250kgだった。1954年に発表されたのが、排気量425ccのエンジンを搭載した「タイプAZ」が登場。12馬力となり、最高速度は時速70kmまでアップした。

 そして1956年の年末になって「タイプAZ」のデラックス版で、今回紹介している「タイプAZL」が登場したというわけだ。「タイプAZL」は、基本的な性能は変わらないのだが、各所が豪華仕様となっている。

 さらにバリエーションは増えていった。「2CV」は世界中で生産されたため、地域ごとのオリジナルモデルも存在した。そうした中でもレア中のレアとされる1台が、このページで紹介している4WD車の「4×4」、通称「サハラ」だ。

 最高出力が低いことから、現在のようにひとつのエンジンからの出力を前後輪に振り分けられないため、リアに2基目の425cc空冷フラット・ツインエンジンを追加することで4WD化を実現した。前後のエンジンを同期させた上でそれぞれ前後輪を担当したのである。アルジェリア油田開発用に少数が開発され、現存する走行可能な同車は世界で30台ほどしかないといわれている。

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「タイプ4×4 サハラ」のリアビュー。空冷エンジンのため、ファンが設けられている。また、ウィンカーがテールランプと並ぶ形に変更されている。

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「2CV タイプAZL」のスペック!

「2CV タイプAZL」のスペック

【スペック】
全長×全幅×全高:3780×1480×1600mm
ホイールベース:2400mm
トレッド(前/後):1260/1260mm
車重:495kg
サスペンション(前/後):(前)リーディング・アーム方式/(後)トレーリング・アーム方式

【エンジン】
種類:空冷水平対向2気筒OHV
排気量:425cc
最高出力:12HP/3500rpm
最大トルク:2.4kg・m/2500rpm

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「タイプAZL」のコックピット。シートも簡便で構造を採用して軽量化を図っているが、乗り心地も考慮されている。

2017年10月27日(JAFメディアワークス IT Media部 日高 保)

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