2022年08月18日 07:00 掲載

交通安全・防災 SA・PAは、実は危険な場所!|長山先生の「危険予知」よもやま話 第10回

JAF Mate誌の人気コーナー「危険予知」の監修者である大阪大学名誉教授の長山先生に聞く、危険予知のポイント。本誌では紹介できなかった事故事例から脱線ネタまで長山先生ならではの「交通安全のエッセンス」が溢れています。

話・長山泰久(大阪大学名誉教授)

SA・PAは、実は危険な場所!

編集部:今回の問題は、高速道路のサービスエリア(SA)の通路で、子供が飛び出してくるケースですが、高速道路というと、本線を走っているときや合流時などの事故のほうが多いのではないでしょうか?

長山先生の「危険予知」よもやま話 第10回|問題写真|くるくら

矢印

長山先生の「危険予知」よもやま話 第10回|結果写真|くるくら

長山先生:そうですね。平成26年に高速道路全体では1万202件の事故が起きていますが、そのうち最も多いのは車両相互事故の追突(7,366件)で、全体の約72%を占めています。追突以外で目立つのは、同じ車両相互事故の衝突・接触(1,010件 約10%)、車両単独事故(883件 約9%)になります。

編集部:3つを合わせると9割を超え、高速道路の事故のほとんどを占めますね。ということは、サービスエリア(SA)やパーキングエリア(PA)で起きる事故はかなり少なくなりますね。

長山先生:そうです。高速道路全体の事故件数が1万202件なのに対して、SAとPAの事故は213件と、わずか2%に過ぎません。

編集部:でも、死亡・重傷事故の割合は、高速道路全体と同じなのですね? SAやPAでは、高速道路の本線と比べると車の速度が低いのに、なぜ死亡・重傷事故が同じ割合で起きているのでしょう?

長山先生:高速道路の本線車道には基本的に歩行者がいませんから、事故も車両同士が多くなります。それに対して、SAやPAでは歩行者と車両が衝突する事故が少なくありません。車両同士なら人は車のボディやシートベルトで守られていますが、SA・PAの歩行者はそういった防護装置を身に着けていないため、いざ事故が起きると、死亡・重傷事故になってしまうと思われます。

編集部:なるほど。SAやPAでは、車を降りて、ついホッとしてしまいがちですが、実は危険な場所なのですね。

長山先生:そのとおりです。SA・PAが意外と危険な場所である理由として、ドライバーの心理と行動が大きな原因として挙げられます。

空きスペースを探すときが危険!

編集部:ドライバーのどんな心理が危険なのでしょうか?

長山先生:これは主に車を止めるときのことです。まず、SAやPAの駐車場に入ったら、「どこに止めるか」と考えると思います。

編集部:そうですね。できるだけ建物に近い位置を探しますね。

長山先生:多くのドライバーはそうでしょう。建物に近い位置に空いているスペースがないか、探しながら運転します。

編集部:欲張っていちばん建物に近い通路まで行くと、空きスペースがないことがあるので、私は2列目くらいの通路に狙いを付けますね。

長山先生:そうやって、空きスペースを探しながら運転するのが危険なのです。一般道路でもそうですが、何かを探しながら運転しているときには、事故を起こすリスクが高まることが事故分析から分かっています。昔ですと、公衆電話を探しながらの事故が頻繁に見られました。また、レストランやガソリンスタンドを探しながら走っていて事故を起こすケースも少なくありません。

編集部:探しながら運転することの危険は、脇見運転になってしまうことですね。

長山先生:そうです。ただ、脇見と言っても、興味のある対象をチラッと見て、すぐ視線を戻すなら危険度はそう高くはありませんが、「探しながらの運転」の場合、心が求めるものに目が向き、運転対象から目を離す時間が長くなるので、危険度が高くなります。

編集部:たしかに、混雑している駐車場などでは、空きスペースを探すことに意識が集中してしまい、今回のような手前からの人の飛び出しや、車がバックしてくるのに気づくのが遅れることもあります。

長山先生:そうですね。今回の場合、すでに用事を済ませて、出口に向かっているので、駐車スペースを探す必要はありませんし、標識で出口方向の指示があれば、進路を迷うことはありませんが、逆に迷わないぶん、速度が高くなることがあるので注意しましょう。今回のケースでは、路面に黄色く塗られた歩行者用通路があるので、そこを通過する際には特に注意が必要です。

観光バスの団体客は特に注意!

編集部:問題写真の真ん中を渡っているカップルや、左から渡り始めている男性に対して注意することが大切ですね。

長山先生:今回の状況では、左から渡り始めた男性に注意が向くのが自然で、この男性の動静が気になるものです。ただ、この男性のように必ずしもこのような歩行者用通路を歩くとは限りません。車から降りると、つい最短距離でトイレやレストランに向かってしまうものです。

編集部:そうですね。あのような歩行者用の通路を探して歩くことはまずないですね。ショートカットしようと、駐車車両の隙間を縫って歩いてしまいます。

長山先生:そのとおりで、特にトイレを我慢していた人などは、一目散にトイレに向かおうとします。用事を済ませた人も同じように自分の車を探して、そこに真っ直ぐ進もうとします。一般道路なら、それなりの速度で車が往来していますが、駐車場では、車の向きは基本一方通行で速度も遅いので、一般道路以上に不用意な横断が見られます。特に運転免許を持っていない人や高齢者や子供などは、車に対する注意力や危険に対する感受性が低いこともあるので、そのような人を見かけたら、特に神経を払って運転する必要がありますね。

編集部:観光バスから降りてきた団体客も危険ですよね。人と話しながら、まったく車に対して注意していないことも多いですし。

長山先生:まさにそうです。行楽気分で危険があることなどまったく頭にない人も多いですし、すでにお酒が入っている人もいます。また、集団から遅れた人が急いで追いかけてくるケースもあることを頭に入れておきましょう。いろいろ注意したい点を話しましたが、ドライバーの方には、SA・PAに入った場合、駐車車両の間から突然人が出てくることを常に考えておいてほしいものです。すなわち、それは「危険予知」の題材のひとつで、それがあなたの「危険予知の引き出し」に入っていれば、今回のような場面に遭遇したとき、右側の駐車車両越しに見える大人や子供の頭に気づくことができるのです。

編集部:今回の場面では、右側の大人には気づきましたが、手前の小さな子供のことは見落としそうになりました。

長山先生:そうですね。よく見えている大人の姿に注目しすぎると、子供の頭を見落としやすくなります。だから、一方を注目すれば、もう一方を見落としかねないことも覚えておきたい点です。また、よく見ると、左端に子供連れの親子がいるので、その子供の兄弟や友達が追いかけて出てくる可能性も考えておきましょう。

編集部:でも、いろいろ注意すべき点が多くて、1度では覚えきれませんね。

長山先生:1度で覚えようとしても無理なので、翌日にもう1度問題を見直したり、夫婦や親子、友人といっしょに見て、話し合ったりすると効果的です。そうすることで、記憶が鮮明に残るからです。学習も同じですが、1回だけでなく、何度も繰り返し聞いたりすることで、頭の中にこびりついて一生涯忘れないものです。前回、私の危険感受性を高めた「柿の木から落ちた経験」を話しましたが、「縫い針を飲んだMさん」の話も、その後の自分の考え方や行動を左右するものでした。

縫い針を飲んだMさんの話

長山先生:私が尋常小学校4年生の頃の話です。兄と同学年だった高等科の女子の一人が、裁縫の時間に縫い針を飲み込んでは出して見せる技をやったところ、負けず嫌いのMさんという女の子が、「私だってそんなことできるわ!」とやってみて、縫い針を実際に飲み込んでしまいました。

編集部:中学生くらいの女の子が縫い針を飲み込むなんて、本当の話ですか!? それで、飲んだ女の子はどうなったのですか?

長山先生:いざ、たいへんということになり、高等医専病院に運び込まれてレントゲンで針の場所を確定して手術をするのですが、今とは違ってレントゲン写真の現像に時間がかかり、写真ができ上がるまでに針は動いてしまい、写真に写った所を切っても針はそこになくて、取り出せませんでした。

編集部:何とも凄い話ですね。

長山先生:レントゲンを撮り直して再度手術しても針は取り出せなく、針は体中を動き回って、最後には心臓に突き刺さって死亡に至ってしまったのです。

編集部:"針が心臓に"ですか!? 恐ろしい話ですねー。でも、口から飲み込んだ針が胃袋を通って腸に刺さるならともかく、心臓に突き刺さるというのは不思議な話ですね?

長山先生:これはあくまでも学校中で噂として飛び回った話で、正確に事実が伝わっていたかどうかは分かりませんが、このMさんは兄と同学年の人だったので気になっていたことですし、毎日学校へ行ってもこの話で持ちきりでした。

編集部:その話で、長山少年はどう変わったのですか?

長山先生:「針というものは怖いものだ」「針が体の中に入ると次々動き回りどうにもならないぞ」と考えるようになりました。家に帰って母親や女中が裁縫などで針を使っていると、この話をして、畳の上に針が置き忘れていたりすると神経質になったものです。大人になって結婚してからも、妻が針を使っているときには注意を促したものです。

編集部:相当、針の怖さが刷り込まれたのですね。

長山先生:同じ話をいろいろな場所でいろいろな人から何回も繰り返されると、頭の中にこびりついて記憶に残ります。学校の勉強でも、予習・復習という過程を経て反復した内容は、きっちりと学び取れるものです。危険予知の問題も、1回だけで理解するのではなく、他の人と意見を交換したり、今一度問題を見直していただくと記憶が鮮明に残り、同じような場面に遭遇すると、注意すべきポイントや対処法がすぐ頭に浮かび、事故防止に役立つはずです。

『JAFMate』誌 2015年8・9月号掲載の「危険予知」を元にした
「よもやま話」です


【長山泰久(大阪大学名誉教授)】
1960年大阪大学大学院文学研究科博士課程修了後、旧西ドイツ・ハイデルブルグ大学に留学。追手門学院大学、大阪大学人間科学部教授を歴任。専門は交通心理学。91年より『JAF Mate』危険予知ページの監修を務める。

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