小型ロボット「ロボホン」で安全運転支援。名大らによる実証実験がスタート。
シャープが発売する「ロボホン」は、電話・メール機能を備えた多機能モバイル型ロボット。この愛くるしいロボットを使った安全運転支援の実証実験がスタートするという。どういう実証実験なのか紹介しよう。
ドライバーエージェントシステムとは
高齢ドライバーによる交通事故が社会問題化し、運転免許の自主返納制度が誕生してから、もう20年が経つ。しかし、運転免許を返納しようにも公共交通網が行き届かず、マイカーに頼らなければ食料の買い出しや通院など、日常生活もままならないという地域も決して少なくない。
そこで高齢ドライバーの運転を手助けする運転支援機能として、名古屋大学(名大)未来社会創造機構の田中貴紘特任教授がリーダーを務める支援手法開発グループが研究開発を進めているのが、「ドライバーエージェントシステム」だ。
ドライバーエージェントシステムでは、ドライバーに対する運転中の支援として注意喚起や運転行動への示唆を行ったり、運転後に振り返り支援として運転評価などを提供したりする。その大きな特徴は、ヒューマンマシンインターフェース(HMI)として、シャープが市販しているモバイル型ロボット「ロボホン」を使う点だ。
名大、シャープ株式会社、名大 未来社会創造機構発のベンチャー企業である株式会社ポットスチルの3者は、このドライバーエージェントシステムを用いて、公道における運転行動の改善効果を検証する実証実験を行うことを8月4日に発表。公募により選出された50名の一般ドライバーに、ドライバーエージェントシステムを使用してもらい、運転行動データの収集と分析を行う。期間は8月30日から12月10日までの約3か月半の予定だ。
名大 未来社会創造機構が実験計画の策定、シャープがロボホンをドライバーエージェントシステムとして活用するためのアプリケーションの開発・配信、ポットスチルが収集したデータの分析を担当する。
特徴は小型ロボット「ロボホン」を使用すること
今回の実験で使用される小型ロボット「ロボホン」は、シャープが2016年から販売しているもの。全長19.8cm、重量約360~395gで、肩や脚の付け根など複数の関節にサーボモーターを搭載しており、二足歩行したり、踊ったりといったパフォーマンスが可能だ。デザインを手がけたのは、ロボットクリエイター兼東大特任教授の高橋智隆氏。トヨタが2018年末まで販売していた小型ロボット「KIROBO mini(キロボミニ)」や、パナソニックの乾電池のCMでグランドキャニオンを登るなどの活躍を披露した「エボルタくん」など、大きな黒目が特徴のかわいいデザインで知られている。
ロボホンは”ホン”とあるように、3G・LTEを利用した電話・メール機能を備える小型ロボットだ。カメラ、照度センサー、マイク、スピーカーなどを備え、画像認識や音声認識、家電連携、クラウドを介した会話など、各種機能を楽しめる。また、それらの機能を組み合わせたさまざまなゲームや、子ども向けの読み聞かせ機能なども用意されている。
なお、公募により選出された50名の被験者の参加条件もロボホンオーナーであることが必須だ。
なぜロボットを使うのか?
ドライバーエージェントシステムを実現するには、必ずしもロボットである必要はない。では、なぜロボットを使うのか。それは単に物珍しいとか可愛いからといった理由ではない。音声ナビのみではなしえない、ロボットだからこそ得られる効果があるからだという。
そのひとつが、「同乗者効果」が期待できるという点だ。同乗者効果とは、同乗者がいることでドライバーがより慎重な運転を心がけるようになり、事故を起こす確率が下がるというものである。同乗者の存在はあおり運転の抑止にもつながることがわかっており、安全運転の大きなファクターだ。
ロボホンはいうまでもなく機械である。それにも関わらず、同乗者効果があり得るのかというと、ドライバーにとって単なる機械以上の存在であり、ペットなどと同様に大事な存在であれば、同乗者効果が期待できるようだ。人は、単なる機械や物などに、心があるように感じてしまう一面がある。ましてロボホンは人を模したロボットであり、簡単ながら会話も可能となれば、友達や相棒、子どもなどのように感じてもおかしくないだろう。
そんなお気に入りのロボホンが、ダッシュボードに備え付けられていたらどうだろうか。「事故を起こしたらロボホンに”痛い思い”をさせる」などと感じて、自然と安全運転を心がけられるということも、十分にあり得る。急加速や急減速などの荒っぽい運転すらロボホンにダメージを与えそうで、丁寧な運転も心がけるようになるかもしれない。つまり、ロボホンが乗っているだけで、安全運転に寄与する可能性があるというのだ。
また、ロボホンのような擬人化されたHMIから運転に対する指摘をされる方が、友人や配偶者から指摘を受けるよりも受容されやすいことも狙いだという。友人や配偶者などにアドバイスされたり評価されたりする場合は、往々にして「うるさいな、わかってるよ」などと対応してしまいがちである。ところが、ロボホンのように擬人化されたHMIが相手だとそうしたイラつきも減り、アドバイスや評価をドライバーが素直に聞き入れやすいことが、田中特任教授らの実験で確かめられたという。
このように、単に物珍しいから、可愛いからといった理由からではなく、ロボットが安全運転支援を行うことにきちんとした意味があるのが、ドライバーエージェントシステムだ。高齢者ドライバーによる事故が1件でも減少するよう、今回の実証実験の結果に期待したい。