2021年07月30日 17:50 掲載

交通安全・防災 交通安全運動は交通事故死を減らせるか?筑波大学が研究結果を発表

春と秋の恒例行事「全国交通安全運動」。筑波大学では、春の全国交通安全運動の実施月とそれ以外の月の交通事故死者数の比較分析を実施し、交通安全運動の効果について分析を行った。7月2日に発表された論文から、その内容を紹介する。

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神林 良輔

筑波大学が春の交通安全運動の効果に関しての研究成果を発表。(画像はイメージ)

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 日本では主に春と秋に行われる「交通安全運動」。こういった定期的な交通安全のキャンペーンは、日本だけでなく、古くから世界各国で行われてきた。では、キャンペーンをやると大きな効果があるかというと、必ずしも明確にはなってなかった。キャンペーンに反復性がなかったり、そもそも死亡事故自体が常にあちこちで頻発するというものではないため、効果検証が難しく、これまでその効果を確かめるための適切な研究や分析は、ほとんど行われてこなかったという。

交通安全キャンペーンの効果を筑波大学が分析

 このような背景を受け、事故予防制御学に関する研究の第一人者、筑波大学医学医療系の市川政雄教授が率いる研究チームは、日本の春の交通安全運動の効果に関する研究を実施した。

 効果検証に用いられたデータは、警察庁や公益財団法人交通事故分析センターによって公開されている、1949年1月から2019年12月までの月ごとの全国における交通事故死者数。春の交通安全運動が実施された月と、それ以外の時期における全国の1日あたりの交通事故死者数の違いを比較し、またその経年変化を分析した。

 分析に用いられたのは、(1)1949年~1964年、(2)1965年~1989年、(3)1990年~2004年、(4)2005年~2019年の4期間のデータ。それを「時系列回帰分析」という統計手法で分析したという。

 なお、今回、秋の全国交通安全運動を対象としなかったのは、の場合は一貫して9月行われてきたためだ。実施月に変動がないと、同じ9月で、交通安全運動が実施されたときと、実施されなかったときの差を比較できない。この点、春の交通安全運動は4月に実施されることが多いものの、5月や6月に実施される年もある。つまり、4月と他の月の比較だけでなく、同じ4月で実施された場合と実施されなかった場合の比較もできるというわけだ。

運動の実施月の交通事故死者数は他月より2.5%少なかった

1949年から2019年までの全期間と、4つに分けた期間別の、全国交通安全運動を実施した月の1日あたりの交通事故死者数の変化量。エラーバーは95%信頼区間。出典:筑波大学プレスリリースPDF

全期間と期間別の、全国交通安全運動を実施した月の1日における交通事故死者数の変化量。線は95%信頼区間。出典=筑波大学プレスリリース

 比較の結果、運動が実施された月は、それ以外の時期と比較して、全国の1日あたりの交通事故死者数が、-2.5%(95%信頼区間:-4.1,-0.9)変化していることが判明した。つまり、交通安全運動の実施により交通事故死者数の減少効果が認められたということだ。

 ちなみに「95%信頼区間:-4.1,-0.9」とは、全国交通安全運動の実施月に変化した1日あたりの交通事故死者数の真の値が、-4.1%から-0.9%の間である確率がおよそ95%であるという意味で、統計的に推定された値が、どの程度のばらつきがあり得るかを表している。

 4期間の交通事故死者数の変化率(95%信頼区間)は、以下の通りだった。

(1)1949年~1964年:-4.5%(95%信頼区間:-8.9 , -0.1)
(2)1965年~1989年:-2.6%(95%信頼区間:-5.0 , -0.1)
(3)1990年~2004年:-0.1%(95%信頼区間:-2.9 , 2.7)
(4)2005年~2019年:-3.5%(95%信頼区間:-7.9 , 0.9)

 最も効果があったのは(1)の期間で-4.5%。この期間は、日本の交通インフラや交通安全対策が未発達だったため、それ以降と比べて、運動の効果が大きかった可能性が示唆されたとした。最も効果が小さかったのは(3)の期間で-0.1%だった。

さらに交通事故死傷者を減らすにはほかの交通安全対策も

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 現在、日本では第11次交通基本計画の目標として、2020年に2839人だった交通事故死者数を2025年までに2000人以下とするとしている。また世界的には、国連が世界の交通死傷者数を2021年から2030年の間に半減させるという、大きな目標を掲げている。

  今回の結果から、全国交通安全運動は、実施期間中の交通死者数の減少に有効ではあるが、その効果は限定的であることも示されたとしている。このため、前述の目標を達成するには、交通安全運動などの広報や取り締まり以外の交通安全対策にも注力する必要があるといえそうだ

 市川教授によれば、「ゾーン30」(最高速度時速30km以下とするエリア規制)が重傷事故の予防に効果があるという(2020年1月に研究成果として発表)。なお今回の結果は、日本のみならず他国の交通政策にも参考になるという。

 また市川教授は、今回の研究では各月の交通事故死者数の変化のみに着目しており、長い歴史のある全国交通安全運動そのものが交通安全思想の普及に果たした役割や、運動の費用対効果までは考慮していないという。今後は、それらについても明らかにしていく予定としている。

 今回の研究結果は、「Effect of annual road safety publicity and enforcement campaign on road fatalities in Japan: a time series study from 1949 to 2019(日本における毎年の交通安全広報および取り締まりキャンペーンの交通死亡に対する効果:1949年から2019年の時系列研究)」と題した論文にまとめられ、疫学と公衆衛生を扱う国際学術誌「Journal of Epidemiology and Community Health」において2021年6月30日に公開された。

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