【2017/10/21~12/10】 「ディエゴ・リベラ展」にみる 色鮮やかなメキシコの夢
この記事をシェア
◆メキシコの伝統的な主食であるトルティージャを作る様子を描いたもので、メキシコ的な主題を扱ったリベラの代表作のひとつ。◆ディエゴ・リベラ《とうもろこしをひく女》1924年 / メキシコ国立美術館蔵 / Museo Nacional de Arte, INBA, Mexico City / (c)2017 Banco de Mexico Diego Rivera Frida Kahlo Museums Trust, Mexico, D.F. / Reproduction Authorized by INSTITUTO NACIONAL DE BELLAS ARTES Y LITERATURA 2017.
メキシコを代表する美術家ディエゴ・リベラと同時代の作家の作品を紹介する、埼玉県立近代美術館 開館35周年記念展「ディエゴ・リベラの時代 メキシコの夢とともに」が、12月10日(日)まで開催中である。
フリーダ・カーロの夫だった国民的画家ディエゴ・リベラとは?
メキシコ美術というと日本ではフリーダ・カーロを思い浮かべる人が多いのではないだろうか。ディエゴ・リベラ(1886-1957)は、そのフリーダ・カーロの伴侶であり、本国メキシコでは国民的な画家として愛され、メキシコ紙幣の肖像にも登場しているほどである。
◆メキシコのアトリエで作品の制作をするリベラ(年代不詳)◆(c) picture-alliance / dpa
◆フリーダ・カーロがリベラとの結婚15周年を記念して制作し、リベラに贈った小品。合体した夫婦の肖像画、首にからみつくとげとげしい枝や貝殻といったモチーフは、リベラとの複雑な関係に葛藤するカーロの心中が伝わってくるようだ。カーロとリベラは、離婚し2度目の結婚をしている。◆フリーダ・カーロ《ディエゴとフリーダ 1929-1944(ディエゴと私Ⅱ)》1944年 / ディエゴ・リベラ生家美術館蔵 / Museo Casa Diego Rivera, Marte R. Gomez Collection, INBA, Guanajuato / (c)2017 Banco de Mexico Diego Rivera Frida Kahlo Museums Trust, Mexico, D.F. / Reproduction Authorized by INSTITUTO NACIONAL DE BELLAS ARTES Y LITERATURA 2017.
ヨーロッパ留学とキュビスムの影響
幼い頃から画才に恵まれていたリベラは、1907年ヨーロッパに留学し、《銃を持つ水兵(昼食とる船乗り)》のようなキュビスムなどの画風を試み、ピカソとも交流している。
◆各モチーフが幾何学的に分割、再構成されている1910年代のキュビスム期の作品。食卓のテーブル部分だけ実物と見まがう木目が描かれており、見る者を一瞬戸惑わせるような仕掛けも施されている。◆ディエゴ・リベラ《銃を持つ水兵(昼食とる船乗り)》1914年 / ディエゴ・リベラ生家美術館蔵 / Museo Casa Diego Rivera, Marte R. Gomez Collection, INBA, Guanajuato / (c)2017 Banco de Mexico Diego Rivera Frida Kahlo Museums Trust, Mexico, D.F. / Reproduction Authorized by INSTITUTO NACIONAL DE BELLAS ARTES Y LITERATURA 2017.
壁画と画風の確立
1921年に帰国すると、リベラは革命後のメキシコ社会や先住民の伝統に目を向け、その思想や歴史を公共の空間に描く「メキシコ壁画運動」に携わった。西洋のモダニスムを吸収しつつ、古典主義的な表現、プリミティブな要素、壁画に適した空間構成などを巧みに融合し、彼は独自の画風を築いていった。
展示室内には、メキシコシティの公教育省や国立宮殿など、彼の有名な壁画映像を椅子に座ってじっくり鑑賞できるスペースも準備されている。
メキシコ独特の題材の作品
リベラは冒頭に紹介した《とうもろこしをひく女》のようなメキシコ固有の題材を採り入れた風俗画や肖像画においても、優れた作品を数多く残している。人物描写に秀でていたリベラには、モデルの風貌や容姿を的確かつ魅力的に捉える技量があった。
◆リベラの人物描写の画才がいかんなく発揮された作品。リベラは人物を描く際、しばしばアトリエで演出を加え、画面に加える小道具にも関心を払った。裸婦を描くのこの作品では、大きな葉を茂らせ、黄金色の花を咲かせてヒマワリを登場させている。構図においては、対角線を意識し、ヒマワリを束ねながらひざまづく裸婦を斜め後ろから捉えて、画面に動きを作りだしている。◆ディエゴ・リベラ《裸婦とひまわり》1946年 / ベラクルス州立美術館蔵 / Museo de Arte del Estado de Veracruz / (c)2017 Banco de Mexico Diego Rivera Frida Kahlo Museums Trust, Mexico, D.F. / Reproduction Authorized by INSTITUTO NACIONAL DE BELLAS ARTES Y LITERATURA 2017.
寓意や物語的な絵画
また、画面の細部に寓意を込めたり、擬人化したモチーフを描いたりしながら、物語を感じさせる絵画をしばしば手掛けた。例えば、《聖アントニウスの誘惑》はもともと宗教的な画題だが、メキシコ南部のオアハカで開かれる大根を使った人形祭りからヒントを得て描かれている。そこに重層的で広がりのある意味を読み取ることができる。
ディエゴ・リベラ《聖アントニウスの誘惑》1947年 / メキシコ国立美術館蔵 / Museo Nacional de Arte, INBA, Mexico City / (c)2017 Banco de Mexico Diego Rivera Frida Kahlo Museums Trust, Mexico, D.F. / Reproduction Authorized by INSTITUTO NACIONAL DE BELLAS ARTES Y LITERATURA 2017.
展示の見どころ
マヤ、アステカ文明などの歴史を持つメキシコは、スペイン統治後も、西洋とは異質な社会的、文化的風土が醸成され、大胆な構図の切り取り方や土着的なモチーフと色彩など欧州にはない固有の芸術を生み出してきた。
展示の主人公・リベラの初期から晩年にいたる作品(油彩画、素描、版画など)約30点が会しただけでなく、展覧会ではリベラの師でありメキシコ近代絵画を拓いたべラスコ、同時代のメキシコのさまざまな美術の動向、リベラと関わりのあったレオナール・フジタや北川民次ら日本人画家も紹介されている。
絵画や版画の他、写真、書籍も含む約全150点の作品とともに、来館者はメキシコの近代美術が掲げた夢を感じ取るだろう。
デザインチェアで思索に耽る展示後の贅沢な時間
北浦和駅から徒歩3分の静かな公園に佇む埼玉県立近代美術館は、建築家 黒川紀章が初めて手がけた美術館建築であることも見どころのひとつだ。館内のいたるところにはデザインチェアが配してあり、観覧後に思索に耽ったり対話を楽しむことができる。
(c)埼玉県立近代美術館
- ディエゴ・リベラの時代 メキシコの夢とともに
- 【会期】
- 2017年10月21日(土)~2017年12月10日(日)
- 【開館時間】
- 10:00~17:30(展示室への入場は17:00まで)
- 【休館日】
- 月曜日
- 【会場】
- 埼玉県立近代美術館(さいたま市浦和区常磐9-30-1)
- 【アクセス】
- ・京浜東北線北浦和駅駅西口から徒歩3分
- ・当館に専用駐車場はありませんが、提携駐車場「三井のリパーク埼玉県立近代美術館東」では駐車料金の割引があります
- 【公式サイト】
- http://www.pref.spec.ed.jp/momas/
展示「ディエゴ・リベラの時代 メキシコの夢とともに」の招待券プレゼント企画は終了しました。たくさんのご応募ありがとうございました! 賞品は抽選の上、11月27日に発送しました。
2017年11月20日(JAFメディアワークス IT Media部 荒井 剛)