あだ名は「水中メガネ」! 生誕50周年のホンダ「Z360」の魅力に迫る
ホンダ初の軽四輪乗用車「N360」のスポーティータイプ「Z360」。 発売から50年経つ現在も「水中メガネ」と呼ばれ、ファンに愛されている1台だ。 その魅力に迫る。
ホンダ「Z360」1973年式。グレードは「GSS」だ。ちなみに正式名称は「Z」である。現代では、「Z360」と通称で呼ばれることが多い。「トヨタ博物館クラシックカー・フェスティバル in 神宮外苑 2018」にて撮影。
1955年5月に通商産業省(現・経済産業省)が発表したのが、俗に「国民車構想」といわれる、”4人乗り・最高速度時速100km・価格15万円”を目標とした「国民車育成要綱」だ。その発表を受け、ホンダは念願の4輪市場への進出を本格化させるべく、軽トラック、スポーツカー、軽4輪乗用車の研究開発を開始する。
そしてホンダは初の4輪車として軽トラック「T360」を1963年8月に発売し、その2か月後には同社初の乗用スポーツカー「S500」も市場に投入。そして軽四輪の市販車は1967年3月に結実。それが「N360」だった。
ホンダ「N360」。ホンダ初の軽4輪乗用車として誕生した。画像は「N360S」。「N360」については、別記事『欠点も魅力のうちの痛快車。ホンダN360【元自動車メーカーエンジニアが選んだ 哲学が感じられる名車たち】』に詳しい。
大ヒットした「N360」がベースのスポーツタイプ「Z360」
「N360」は当時の軽自動車としては高い性能を有しており、それに対して価格は他社の軽自動車より数万円安い31万3000円で発売されたことから、瞬く間にヒット。販売台数は右肩上がりで伸び続け、生産開始43か月となる1970年9月には累計100万台を達成。軽自動車業界の勢力分布図を大きく塗り替えていったのである。
その100万台を達成した翌10月に登場したのが、「N360」にスポーティな要素を加味した「Z360」だった。ちなみに正式な車名は「Z」であり、「Z360」は愛称だ。おそらく、「N360」の系譜であること(軽自動車であること)からつけられたのだろう。
また、日産「フェアレディZ」の愛称が「Z」であることから、区別する意味合いもあったことも考えられる。さらに1990年代末になって、「Z」の名はタイプを大きく変えてSUV系軽4輪として復活。2代目の時期には軽自動車の排気量は660ccとなっていたことから、”360″がついていることで初代ということがわかりやすかった。
「Z360」は、円谷プロの特撮ヒーローロボット番組「ジャンボーグA」(1973年)に登場。主人公・立花ナオキの操る2機目の巨大ロボットとして、物語の中盤から陸戦用パワータイプの「ジャンボーグ9」が加わるが、ナオキの愛車「Z360」(通称「ジャンカー」)が変形するという設定だった。平和を愛する高度な宇宙人の技術で改造されたため、質量保存の法則を無視して、コンパクトな軽自動車が全長50メートルもの巨大ロボットに変形した。
「Z360」のリアビュー。「Z360」もベースとなった「N360」もとてもコンパクトだが、大人が4人乗車可能なスペースが確保されている。「まずユーザーの利便性ありき」がホンダの当時からのクルマづくりのコンセプト。
「Z360」のサイドビュー。センターピラーやドアサッシュ(ウインドーの保持・ガイドパーツ)がなく、上下スライド式のクォーターウインドーも降ろせることから、サイドの開放感は大きい。
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「水中メガネ」という愛称がつけられた理由に迫る!
愛称が”水中メガネ”の理由とは?
「Z360」の本当の愛称は「水中メガネ」だ。そんな愛称がつけられた理由は、最大の外見的特徴であるリアウインドー(ハッチバック)の形状にある。潜水用ゴーグルのような形状をしていたことが理由だ。また「Z360」オーナーやファンからは、航空機のようなコックピットも好きだという声も聞かれる。
「Z360」のリアウインドー。まさにシュノーケルなどが似合いそうな形状だ。
運転席というよりは、航空機のコックピットという雰囲気がある。
「Z360」は「N360」をベースとしているが、より精悍さの増したフロントマスクを持つ。マイナーチェンジでエクステリアも手が入れられ、この「GSS」は初期モデルよりも精悍さが増したデザインが採用されている。
今回撮影した「GSS」は、1972年11月のマイナーチェンジで新たに設定されたグレードで、4グレード中の最上位に位置する。エクステリア・インテリア共に手が加えられ、ハードトップスタイル(ドアサッシュやセンターピラーを廃したデザイン)となった。「GSS」はほかの3グレードが4速MTのところを5速MTとし、走りを追求したグレードとなっている。
「GSS」の外見的な特徴として、セパレート型のリアバンパーがある。現在のクルマでは、なかなか見られないデザインだ。
2連装キャブのOHC直列2気筒「SA型」エンジンを搭載
「GSS」は発売当初2種類のグレードによって異なる2種類のエンジンがあったが、マイナーチェンジ後の4グレードは1種類に統一された。2連装キャブレターを備えた、水冷4サイクルOHCの直列2気筒「SA型」が搭載され、排気量356ccながら最高出力は36馬力を絞り出した。またこのエンジンは公害対策技術として、初代「シビック」などで定評を得た、燃料蒸発ガス排出抑止装置を備え、また無鉛ガソリンの使用に耐えられるバルブシートが採用された。
水冷4サイクルの直列2気筒OHCエンジン「SA型」。キャブレターを気筒ごとに備える。最高出力は36馬力、最大トルクは3.2kg-m。
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ホンダの軽自動車撤退と軽自動車市場の衰退
高度経済成長で迎えた高級志向から軽4輪の人気は衰退していった
ホンダは「Z360」だけでなく、「N360」など軽自動車の生産を1974年に終了する。その理由は、ユーザーニーズがより高級な車を志向する方向に向かっていたのも大きいが、サギ・恐喝行為も影響していたのである。
1970年代に入ると、消費者の目が高級車に向くようになる。「N」シリーズも販売台数が落ちていき、また軽自動車市場そのものが衰退していった。ホンダも「シビック」増産のために生産設備を確保する必要があったことから、1974年10月にすべての軽自動車の生産を休止。この時、「Z360」も生産終了となった。
その後、ホンダは11年後の1985年9月に「トゥデイ」で軽自動車の生産を再開。そして現在は、「N」の名を受け継いだ「N-BOX」など「N」シリーズが人気だ。「N-BOX」は軽自動車だけでなく、登録車も含めて2017年の販売台数1位を記録しており、「N360」の再来ともいえるような人気車種となっている。
また「Z」の名は、2代目が1998年に4WDのSUV系軽自動車として復活するが、2002年に生産終了。2018年現在、その名を受け継ぐ車種は存在していない。
【スペック】
全長×全幅×全高:2995×1295×1275mm
ホイールベース:2080mm
トレッド(前/後):1130/1115mm
最低地上高:160mm
車重:530kg
【足回り】
サスペンション(前/後):独立懸架式・マクファーソン方式/半だ円板ばね式・リジッドアクスル
ブレーキ:前後共にリーディングトレーリング油圧式4輪制動
タイヤ:前後共に145SR10
【エンジン】
型式:SA型
種類:水冷4サイクルOHC直列2気筒(横置き)
排気量:356cc
最高出力:36ps(kW)/9000rpm
最大トルク:3.2kg-m(N・m)/7000rpm
舗装平坦路燃費:28kml(時速60km時)
ミッション:5速MT
2018年12月25日(JAFメディアワークス IT Media部 日高 保)