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最終更新日:2017.01.16 公開日:2017.01.16

【TAS17続報】ブリッド、FIA最新安全基準を満たしたレーシングシートを発売開始

FIAの最新レース用安全基準「FIA8862-2009」を満たした、国内初のレーシングシート「HYPER」。

 15日まで開催されていた東京オートサロン2017(幕張メッセ)。編集部オススメのカスタムカー・チューニングカーや、会場で発表された最新モデルなどの情報をお届けする。


 オートサロンにはパーツメーカーも多数出展していることはご存じの通りだが、レーシングシート国内最大手メーカーの「ブリッド」もそのひとつ。

 オートサロン開催初日にブリッドが発表し、同日より販売を開始したのが、レーシングカー・コンストラクターの「童夢」と、CFRP(カーボン複合材)製レーシングシートの製造販売を目的とした業務提携で実現した、FIA(世界自動車連盟)の新基準「8862-2009」を満たしたレース専用シート「HYPER」だ。

レーシングシートの基準がより厳格に

 現在、レーシングシートに関して安全基準が厳しくなっており、FIA8862-2009がFIAの最新安全基準として設けられている。同基準に合格するには、耐久レース系の車両であるLMP(ル・マン・プロトタイプ)のモノコック用荷重テストと同等の強度を立証する必要があり、かなり厳しい試験である。

公認テストの様子。左は横押し。中上は後ろ押し。中下は両肩押し。(右)は難燃試験。プレスリリースより抜粋。

 同試験に合格しているメーカーは、ブリッドと童夢のほかには、独レカロ、伊OMP、伊スパルコ、伊サベルト、米ファイバーワークスコンポジット、米レーステックなど世界で見ても数える程度だ。

 同安全基準は、F1やWRC世界ラリー選手権などのトップカテゴリーだけでなく、市販車改造クラスの各種グランドツーリーングカーによる選手権などにおいても、より高い安全性を確保するために規定された。

 国際的に人気の高い、FIAによるレースカテゴリー規格「GT3」の規則としてもより厳格な着座深度規定が加えられ、2018年1月1日から実施される予定だ。

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新基準シートには日本人レーサーならではの悩みが

新基準を満たしたシートには日本・アジア圏では大きな問題が

HYPERを正面から。

 そうした中で、安全基準を満たした最新のレーシングシートが発売されつつあるが、実は日本を含むアジア圏で問題となっていることがあった。

 これまで基準を満たしていたメーカーは、上で紹介したように海外メーカーのみ。そのため、それらで製作されたシートはアジア圏のドライバーには大きすぎてフィットしないという問題が起きているのである。

 発表会見に応援で駆けつけたスーパーGTなどで活躍するトップドライバーの織戸学氏によれば、結局、詰め物などをしないとならないため、せっかくのシートの安全性が損なわれてしまうという。

 さらに、シートポジションが合っていないためにドライビングしづらくなることからタイムにまで悪影響を及ぼすし、より体力の消耗が激しくなるという事態なのだそうだ。

 そこで、ブリッドと童夢という、テストに合格している2社が16年12月20日に業務提携を行ってHYPERの公認申請を実施。そして公認が行われたことから、1月13日からの発売に至ったというわけだ。

HYPERには世界初の特徴も複数!

 日本人を初めとするアジア人の体型にマッチさせた専用設計のほかには、以下の特徴がある。

 まず、夏場のレースで不可欠となる、ドライバーの背部への空気循環(ベンチレーション)機能が備えられている点がひとつ。FIA8862-2009基準を満たしたシートとしては、ほかには17年1月11日現在、ファイバーワークスコンポジットとレーステックの2社のみ。

 なお、国内のカテゴリーでいえば、スーパーGTなど、ハコ車の真夏のレースは、コックピット内が60度ぐらいになるという。その上、ドライバーは耐火・難燃素材のアンダーウェアやレーシングスーツ、そしてヘルメットを被るので、サウナに何時間も入りながら100分の1秒を争っている状態。なので、クーリングシステムの有無で、ドライバーへの負担が非常に大きく変わってくるのだ。

HYPERを背面から。つながっているホースが、クーリング用の送風ダクト。空気を送り込むだけで冷却効果がある。

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まだまだあるHYPERの特徴!

アルミ製スライドレール装備シートは世界初!

 そしてHYPERのために開発された軽量アルミスライドレールは特許出願中で、FIA8862-2009基準シートとしては世界初となる。スライドレールを装備したシートとしては、ほかにレカロとサベルトのものがあるが、どちらもスチール製だ。

 このスライド機構は、(前後方向)9ステップ117mm。またシートの角度調整は、4度ステップ3段階となっている。

 また、ベンチレーション機能とスライドレールを共に装備したFIA8862-2009基準シートは、HYPERが世界初。

モータースポーツは軽い方が有利なので、アルミ製がスチール製よりも勝利に近いのは間違いない。

 そして重量は、ドライカーボン製のシートシェルと付属装備品、そしてアルミ製スライドレールを合わせた総重量が16.2kg(本体重量は9.9kg)。これはFIA8862-2009基準シートとしては最軽量となっている(レカロ製25.4kg、サベルト製はスライドレールの重量データがないため総重量は不明)。寸法は、下の画像の通り。

HYPERの寸法。日本人を初め、アジア人の体格を考慮したものになっている。プレスリリースより抜粋。

 そのほかデザイン的な特徴としては、車体とシートとドライバーが三位一体となるフォーミュラポジションになるボディシェル形状となっており、また繊細なペダルワークを可能にする、太ももから前方の高いサポート性を備えてもいる。

 難燃生地製で、クッションキット(パッド部)のカラーバリエーションはブラックとレッドの2色。

赤の部分がクッションキット(パッド)、その右側はドライカーボン製シェル、下はガイドレール。プレスリリースより抜粋。

初年度は10脚、3年後には50脚の販売を目指す!

 価格は、シート本体が129万6000円(税込)、スライドレールブラケットが28万800円(税込)、クーリングダクトが3万888円(税込)。このほか、各車両への取り付けに必要な別売りの車種別マウントも必要。

 販売対象先は、FIA-GT3規定車両などを所有し、ハイエンドなレースカテゴリーに参戦するエントラント(レーシングチーム)。年間販売目標は、初年度が10脚(約1500万円)、3年後が50脚(約7500万円)としている。

 そして両社の今後の方針としては、今回の提携を機に、世界でも最新鋭のレーシングシートの開発を進めていくとした。世界一のレーシングシートメーカーを目指すため、モータースポーツを中軸に、幅広い分野にレーシングシートを応用し、新たなマーケットを創造していくとしている。

左から童夢の高橋拓也代表取締役社長、ドライバーの織戸学氏、ブリッドの高瀬嶺生代表取締役社長。会見の様子。

2017年1月16日(JAFメディアワークス IT Media部 日高 保)

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