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クルマ最終更新日:2018.09.05 公開日:2018.09.05

介護用スマートモビリティ「ロデム」が草津総合病院に導入

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介護用ロボットは、国策としてさまざまなプロジェクトが進められてきた。また自動車メーカーなども参入しているが、今のところ正式な販売までは至っていない。そうした中、テムザックが製品化し、2017年から販売を開始したのがこの「ロデム」だ。

 日本では高齢者人口の増加に伴い、要介護者も増加している。その結果、介護者の慢性的な人手不足や肉体的な負担の大きさ、家族による老老介護などが問題となっている。その労働力不足の面で大きく寄与する手段として長らく期待されているのが、ロボット技術の応用だ。国策としてさまざまなプロジェクトも行われてきたし、トヨタやホンダといった大手自動車メーカーもロボット技術の介護機器への応用に取り組んでいる。

 そうした状況の中で、国内では数少ないサービスロボット専業メーカーであるテムザック(福岡県北九州)が販売しているのが、介護用(屋内用)スマートモビリティ「ロデム」だ。

 当初、ユニバーサル・ビークルと呼ばれていた「ロデム」は、2014~15年に行われた国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の支援を受けてデンマークでの実証実験を行うなど、約10年かけて開発されてきた。デンマークでの実証実験で高齢者への自立への貢献、介護者の負担軽減が実証され、同時にそこで得られた知見により、実用化のための機能の改良や追加。ユーザビリティの向上などが施された結果、2017年11月に量産モデルの発売を開始。そして、2018年8月28日にその第1号が滋賀県の草津総合病院に導入されたのである。スマートモビリティ「ロデム」とはどのようなものかに迫る。

ベッドから車いすへの乗り移りが最も危険!

 「ロデム」は、九州大学病院リハビリテーション部高杉紳一郎准教授(開発当時)からの、「介護現場での一番の問題である、要介護者の『ベッドから車いすへの乗り移り』をロボット技術で何とか解決できないものか」という相談から始まった。通常の車いすの乗り移りでは、腰を浮かして90度横に向くか、場合によっては180度回って後ろ向きにならないと座れないため、転倒事故が起きやすいという大きな問題を抱えている。

 しかも、それを手伝う介護者にとっても乗り移りは大きな問題だ。要介護者を中腰で抱え上げるケースも少なくなく、そのために職業性腰痛を慢性的に抱えてしまう人も多い。

後ろ向きに座るのではなく前から乗り込む!

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(左)最も座面が高い状態。(右)最も座面が低い状態。座面の高さを変えることで、より乗り込みやすくしている。「ロデム」の重心が後方に移るため、変形することで転倒しないようにも配慮された設計となっている。※ 画像はイメージです。

 高杉准教授の相談に対し、テムザック代表取締役の高本陽一氏は、車いすの座面がベッドに合わせるようにして、そのまま後ろから乗り移る直線スライド移動であれば、より簡単で安全に車いすに乗れると思いつく。後ろ向きに座るのではなく、前から乗るという発想の転換を行ったのが、「ロデム」の大きなポイントだ。

 そして、車いすの座面や車体を乗り移りに合わせて高さや角度などの制御をロボット技術で行えば使いやすいものができると考え、「ロデム」の開発が始まった。

 「ロデム」の場合、機体をベッドにくっつけ、ベッドやイスなどに腰掛けた介護者がシートをまたいで少しだけ前に進めばすぐに座ることが可能となっている。座面の高さを変えられるので、乗り込みもしやすい。

 また「ロデム」はその場でのターンが可能なので、トイレなどでも中に入ってから180度ターンし、便座に乗り移るということも可能だ。このように要介護者が自分で乗り移りやすいので自立も促しやすく、同時に介護者にとっても肉体的な負担が少なくて自ら活動しやすくなるというメリットもある。

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このように「ロデム」を後ろ向きにベッドに隣接させ、後ろからそのまま乗り込むことで、要介護者がひとりでも乗りやすく、自立を促しやすいというメリットもある。※ 画像はイメージです。

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介護用としての特徴は?

「ロデム」の介護用スマートモビリティとしてのポイント

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(左)手を洗うような場合でも、前かがみの姿勢を支えてくれる構造。(右)食事の場面では、前かがみを支えてもらえるだけでなく、テーブルの下に「ロデム」の本体が潜り込むので、テーブルに近づいて食事がしやすい。※ 画像はイメージです。

 「ロデム」が介護用とされるところは、乗り移りが楽だからというだけではない。高さや角度の調節が可能な胸当てがあるので、手を洗うなどの前かがみ作業で身体を支えてくれるところがひとつ。自然と前傾姿勢になる乗り方なので気持ちも前向きになるという。さらに、歩行者とほぼ同じ目線になるので、会話もしやすい。

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このように歩行者と目線が同じなので、会話も弾む。

ジョイスティックで操作するほかスマホで遠隔操作も可能!

 操作は、行きたい方向に向けるだけという、直感的なジョイスティックで行う。また、スマートフォンでの遠隔操作も可能だ。

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操作はジョイスティックで行える。※ 画像はイメージです。

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スマホでの遠隔操作も可能なので、朝起きてベッドまで迎えに来てもらうののも簡単。※ 画像はイメージです。

座れるけれど歩けない人たちのために「ロデム」を導入

 草津総合病院は今回、正式に導入することにした理由として、「座れるけど歩けない患者さんの”動きたい”というニーズに応えるため」だという。下半身が不自由な入院患者、外来患者に乗ってもらい、さまざまな可能性を探っていきたいとしている。

 またテムザック広報にうかがったところ、現在導入を検討している施設や病院が複数あるということだ。

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「ロデム」屋外仕様が京都で実験!

「ロデム」屋外仕様による観光用途の実験を京都嵐山で実施!

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屋外仕様「ロデム シティバージョン」を用いた、京都嵐山での観光利用の実証実験の様子。日本は、「ロデム」のようなスマートモビリティを車両の一種ととらえているため、公道では乗れないのが現状。ただし、国立公園など、公道ではない場所では導入している地域が増えている。また、筑波のモビリティロボット特区などでは実証実験が行われていて街中での利用が可能。

 テムザックはNTTドコモ、京阪バスと協力して、「ロデム」の屋外仕様「ライド・ロイド ロデム シティバージョン」を用いて、2018年7月9日・10日の2日間、京都嵐山で屋外走行実証実験も実施。お土産どころの「嵐山 かづら野」から一般観光客への無料貸し出しが行われ、アンケートを用いた安全性や社会受容性の検証が行われた。テムザックでは、将来的に、最寄り駅から自宅や目的地を結ぶラストマイル用スマートモビリティとしての活用も検討しているそうだ。

 屋外仕様ということで、公道走行がしやすいよう「ロデム シティバージョン」にはサスペンションが搭載されていることや、障害物を検知して自動で停止する機能を備えることなどが特徴。最高速度は介護用と同じで時速6km(シニアカートと同じ)。さらに機体の見守り機能として位置情報をクラウドで管理しており、盗難にも対応した。

 そのほか外国人を含む観光客用として、観光スポットの推薦や経路案内、多言語翻訳などのアプリケーションがインストールされたタブレット端末を搭載している。ただし、実験用なので量産化された際にこうした機能がそのまま搭載されるかは未定だ。テムザックとしては、スマートモビリティの需要、課題などを調査し、実用化を進めていくという。また2020年を目標に、自動運転化なども見据えた実証実験も段階的に進めていくとしている。

 「ロデム シティバージョン」を利用した観光客から得られたアンケート結果は、以下の通り。
【性別】
男性:58%
女性:42%

【年齢】
10代:25%
20代:17%
30代:25%
40代:17%
60代:8%
70代以上:8%

【レンタルを利用したいか】
YES:100%

【感想】
・かわいい
・楽しい、乗り心地がよかった
・操作性がよい
・ちょっとした買い物に行くのに使いたい

「ロデム」の価格は? スペックは?

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「ロデム」を後方から。

 ロデムの価格は98万円(非課税)。草津総合病院での2台目の導入は未定。また、今後、導入を検討している施設や病院は複数あるそうだ。スペックは以下の通り。

 ちなみに、利用者の体重が何kgまで対応しているのか確認したところ、一般には非公開だった(導入先には開示している)。以前、記者が展示会でプロトタイプを試乗させてもらったことがあるが、同じスペックなのであれば、80kgまでは問題ないものと思われる。おそらく、100kgぐらいまでは大丈夫なように設計されているのではないだろうか。身長180cm以上の記者でも特に小さいと感じることもなく利用できた。

【介護用「ロデム」スペック】
型式:M651
全長×全幅×全高:1000~1203×690×920~1254mm
座面高:400~785mm
重量:174kg(バッテリ含む)
バッテリ種類:
バッテリ性能:12V・20Ah×4
充電方式:家庭用AC100Vプラグイン方式
充電時間:約8時間
最高速度:時速6km以下(3段階の速度設定が可能)
走行距離:1充電当たり約15km(荷重70kgで走行した場合)
駆動方式:4輪駆動(前輪は真横にも動けるオムニホイール仕様)
防水:生活防水
ボディカラー:5色(ブルー、ピンク、グレー、シルバー、ホワイト)

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