英のEV専用充電レーンに 独のリコールや不正疑惑 欧州のEV化はどうなるのか?
英国で計画中のEV専用レーン。© Highways England
地球温暖化対策の国際的な取り組み「パリ協定」を自国で開催したフランス政府が、7月6日、2040年までにガソリン車とディーゼル車、内燃エンジンの販売を禁じると発表した。
英国もEV化を表明
それに追い討ちをかけるように英国政府も7月26日、2040年から内燃エンジンの販売を禁止すると声明を発表。ただしハイブリッド車とプラグインハイブリッド車は禁止対象に含まれない。
英ガーディアン誌によれば、英国が電気自動車(EV)化を加速するのは、同国の環境省が発表した報告書の中で大気汚染の改善が背景となっている。2017年の英国の新車販売台数の内、電動モーターを搭載したクルマの割合は約4%であり、これをあと23年の期間に100%にするには大胆な変革と経済的支援が必要になってくると思われる。
英国がEV専用レーンを計画中
その先駆けとして英国政府は8月11日、主要幹線道路に走行しながら充電が可能なEV専用レーン(車線)を設ける計画を発表した。充電レーンの原理は、道路に埋め込んだ送電コイルからEVのフロア部分に取り付けたピックアップコイルへと給電を行うもので、路面から20cmほど離れた車の底面にも送電できるという。
EV専用レーンの仕組み。© Highways England
試験用充電レーンは早ければ年内にも着工するとしており、導入後は、少なくとも充電レーンを走る限りは、EVの最大の課題である航続距離の問題が抜本的に解決される。
英運輸相アンドリュー・ジョーンズは、「この最先端技術の導入のためにイギリスは今後5年間で5億ポンド(約723億円、8月7日換算)を投入し、雇用と整備を促進していきます。私達は、モビリティのあり方を改善し、家族や企業が低排出ガス車に乗り換えられるようサポートしていきます」とコメントを残した。
さらに政府は、充電ステーションを20マイル間隔で設置する計画を進めており、2040年EV化への基盤を整えていく予定だ。
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引き金たる排ガス規制とドイツでのディーゼルへの逆風
排ガス規制がEV化の引き金
こうしたEV化の急速な流れは、各国での排ガス規制が引き金となっていることは間違いない。世界で最も厳しいといわれる米カリフォルニア州の環境規制では、今年の秋からガソリンエンジンを搭載するハイブリッド車がエコカーの対象から外される。
環境大国であるドイツでもシュトゥットガルト地方裁判所が7月28日、市内でのディーゼル車の走行禁止を求める環境団体の訴えを支持する判決を下した。
シュトゥットガルト市といえば、ベンツでお馴染みのダイムラー社やポルシェ社が本社を構えるが、そのお膝元であるシュトゥットガルトでディーゼル車が禁止されれば、ドイツの自動車産業の未来はEV以外に残る道はなくなる。またBMW社の本社があるミュンヘンでも同様の議論が起きており、ディーゼル車への風当たりはますます強くなる傾向にある。
ドイツ自動車産業に次々と打撃が
そういった中、ドイツでは、大手自動車メーカーによるディーゼル・スキャンダルが相次いで発覚している。
まずはダイムラー社であるが、南ドイツ新聞によると、2008年から16年まで欧米で販売した車両が規制を大きく超える有害物質を排出していたという。これについてダイムラー社は、ディーゼル車300万台以上の自主的なリコールを発表している。
また、ドイツの国営放送ARDによれば、ポルシェ社が排ガス規制逃れのためにディーゼル車に不正なソフトウエアを搭載していたとして7月27日、ドイツ政府からリコールを命じられた。リコールの対象は、ヨーロッパで販売したディーゼルSUV「カイエン」の22,000台で、排ガス試験のときだけ有害物質の排出を抑えるが、路上での走行時には基準を超える有害物質が排出されるソフトウエアが搭載されていた。
© picture alliance / Daniel Maurer/dpa
さらに、BMW社、ダイムラー社、ポルシェ社、アウディ社、VW社の大手自動車メーカー5社が、長期にわたって不正なカルテルを結んでいたとの疑惑があがり、欧州委員会が調査していることを本国メディアは報じた。ドイツの自動車メーカーのイメージは危機的に悪いものになりかねないと危惧されており、ドイツの産業全体の約2割を担うという自動車産業は今までにない岐路に立たされている。
ディーゼル首脳会談に集まった大手自動車メーカーCEOたち。手前からVW社マティアス・ミュラー、BMW社ハラルド・クリューガー(中央)と奥がダイムラー社ディーター・ツェッチェ。© picture alliance / Maurizio Gambarini/dpa
ドイツでは急遽、ディーゼル首脳会談が
8月2日、同5社と政府当局者は、「ディーゼル首脳会談」といわれる緊急会合を召集し、国内でのディーゼル車530万台を無償改修する排ガス対策を行うことを発表した。つまり、ドイツの自動車メーカーは、ディーゼル車が禁止されるのを避けたい意向なのだが、これについて独環境相ははっきりと失望の意を表しており、国民からも非難の声が上がっている。
ディーゼル首脳会談の開催を機にディーゼル車に反対する市民デモが行われた。写真は「ディーゼルの排ガスは死」と書かれた抗議用オブジェ。© picture alliance / Kay Nietfeld/dpa
欧州自動車工業会の昨年の統計によれば、ドイツの自動車生産台数は約554万台で、フランスの157万台や英国の173万台を大きく上回り、国を挙げての対策は難しいとの見方を国内各メディアは伝えているが、いずれにせよ、今ドイツの自動車メーカーは大きな窮地に立たされている。
この状況下、9月半ばに開催されるフランクフルト・モーターショーで、ドイツ各メーカーはどういったクルマや方策を発表するのか、動向が注目される。
2017年8月10日(JAFメディアワークス IT Media部 荒井 剛)