2022年08月23日 14:40 掲載

クルマ F1パワーユニットを製造する「HRC Sakura」ホンダモータースポーツ活動の心臓部を取材:F1パワーユニット編


くるくら編集部 小林 祐史

最前線をサポートするための専用室

Sakuraミッションルーム

SakuraミッションルームはF1が行われているサーキットにいるスタッフ、ドライバーらをバックアップするための部屋だ。ちなみに部屋の左側に座るのがレッドブル・レーシング担当で、右がスクーデリア・アルファタウリ担当となる 写真=ホンダ

 HRC Sakuraからレッドブル・レーシング、スクーデリア・アルファタウリに発送されたPUはマシンに搭載されて、サーキットに運び込まれ本番のレースを迎える。ここからの業務が3つ目の支援である「レース運営サポート」となる。

 具体的には、サーキットでそれぞれのF1チームにHRC Sakuraのスタッフが帯同する。スタッフは決勝までにPUが最高のパフォーマンスが発揮できるようにチームと協業していく。RV Dynoテストによるセッティングを本番に合わせて調整を行い、またライバルの動向を見ながらチームと決勝に向けた作戦を実行できるPUへと仕上げていく。この作業を現地のスタッフだけで行うのではなく、専用回線で結んだHRC SakuraにあるSakuraミッションルームと呼ばれる部屋からもリアルタイムで支援を行っている。

 この部屋は2021年末のNHK特番にも登場しているところで、前方に大型のマルチスクリーンがあり、各席には現地のHRCスタッフや各チームのスタッフ、ドライバーと交信できるヘッドセットと、走行するマシンの状態を表示するモニターが備えられている。フリープラクティスから、この部屋で走行するマシンの状態をモニタリングし、次の走行や決勝に向けたセッティングを現地スタッフとチームへ提案することを行っている。また決勝などでは提案だけではなく、チームからPUのモード変更の依頼があれば、助言をするなどのサポートも行っている。このようなサポートをリアルタイムで行うため、レース期間中のSakuraミッションルームには、PUのエネルギー回生システムやダメージ蓄積などといった各分野のエキスパートが座っており、スタッフやチームからの提案や要求にすぐさま対応できる体制を整えている。

Sakuraミッションルームで行われている支援内容

Sakuraミッションルームで行われている支援内容 資料=ホンダ

世界情勢がレース後のメンテナンスに影響

 Sakuraミッションルームで収集された情報は、RV Dynoテストなどの開発側へ引き継がれ、今後のレースや来シーズンのセッティングなどに活用されていく。そしてレースを終えた後のPUはマシンから下ろされ、次に向けたメンテナンスのためにHRC Sakuraへ返送されるのだ。返送されたエンジンは、レギュレーションで許されている部品の交換を行い、分解が禁止されている部分はマイクロスコープなどを使った内部検査を行う。

 このメンテナンスは次のレースのスケジュールによって変動するが通常は25日で行われているそうだ。運送には航空便が使われることが多いのだが、昨今は新型コロナウイルス感染症拡大やウクライナ情勢といった航空業界の大きな影響を与える世界情勢が起きているため、以前のような予定を組むことが難しくなっているそうだ。このような運送事情や次のレースまでのスケールなどによって、メンテナンスを行う時間が決まる。その時間が短くなれば、作業スタッフの増員や、必要最小限の作業のみにする、サーキットにスタッフが出張してメンテナンスを行うなどで対応しているとのこと。

 RV Dynoテストとともにシーズン中にフル稼働するのが、このメンテナンスの部署になる。実際の作業では、破損した部品を発見し次のレースでリタイアすることを免れた事例もあり、緊張感のある作業となる。ちなみにここのスタッフはレース当日のテレビ放送などを、PUが最後までノートラブルで完走することを願いながら視聴しているそうだ。

F1参戦は、終了したのでは?

 今回はHRC SakuraF1PUの「技術的な支援」の内容について紹介したが、それだけでも膨大な作業があり、多くのスタッフによって支えられていることが理解できた。このさまを見て「これではF1参戦と変わらないのでは?」という疑問を感じる人もいるだろう。

 しかし参戦していた2021年までは、これらの業務とは別に新技術の開発が別に行われていたのだ。これは現状のものをブラッシュアップしていく作業とは異なり、対面している課題を根本的に解決する新しい技術や材料などを「研究」する作業になる。この研究から全く新しい構造となったバッテリーを2021年シーズン途中で投入し、PUのパフォーマンスを大幅に向上させたこともある。

 だが現在はこのような研究は縮小され、そこに携わっていたスタッフの多くが、HRC SakuraもしくはF1PUの技術的な支援から離れ、カーボンニュートラル社会を実現するための研究などに就いているそうだ。

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