2022年08月23日 14:40 掲載

クルマ F1パワーユニットを製造する「HRC Sakura」ホンダモータースポーツ活動の心臓部を取材:F1パワーユニット編


くるくら編集部 小林 祐史

AIも活用したPUのセッティングデータ決定

RV Dynoテストを行う部屋

RV Dynoテストを行う部屋。多数あるモニターにはPUの状態や、設定したドライバーの操作状況、設定したサーキットで走行している場所などが表示されている。中央の窓の奥が、PUと試験機が設置された部屋となる 写真=ホンダ

 PU開発では、設計、プロトタイプの製造、構成部品単体テスト、Dynoテスト、RV Dynoテストが行われるが、前述のようにレギュレーションで2025年まで新規開発が禁じられているため、PUを新設計することはない。開発という名目ではあるが、レギュレーション変更への対応や耐久性に不具合が生じた場合の改良などが業務の中心となる。

 設計、プロトタイプの製造、構成部品単体テスト、Dynoテストに関しては、基本的にシーズンが始まる前に済ませる作業となる。一方でシーズン中に多忙を極める業務がRV Dynoテストだ。

 DynoとはPU単体の動力性能を測定する試験機のことだ。つまりDynoテストもRV DynoテストもPU単体を試験機でテストする作業になるのが、両者の目的や設備は大きく異なる。DynoテストはPU単体を試験機に設置して、設計通りの性能や耐久性が発揮されているかを確認する作業となる。

 対してRV Dynoテストは、実際にF1マシンに搭載した状態に近い条件で試験機にPUを設置し、次のレースに即したシミュレーションを行い、セッティングなどの仕様決定を行うものだ。シミュレーションの内容は、過去にドライバーが走行したアクセルやブレーキ、シフト操作を試験機上で再現しながら、フリープラクティス、予選、決勝のPUのセッティングデータを構築する作業となる。

 RVとはReal Vehicleの略で、PUだけでなくトランスミッション、ラジエーター、バッテリーなどの周辺機器も実車と同じものが取り付けられ、それらに走行速度と同じ風を当て、リアタイヤの代わりにモーターが取り付けられて実際の走行でかかる負荷を再現している。また気温や湿度、気圧といった気象条件も実際にサーキットに沿って再現されており、その条件下でPUのセッティングを仕上げていく。

 RV Dynoテストの設備は前述のようになるが、対してセッティングを決める作業の流れは、まずドライバー、サーキットなどのSim(シミュレーション)モデルを構築し、それに過去や予想される当日の気象データと組み合わせたセッティングデータを用意する。それをRV Dynoテストで検証し、結果を評価する。このサイクルを繰り返しながら、最適なセッティングデータを決定する。そしてレースが終われば、結果を再検証して次のレースへ反映させるようになっている。これをHRC Sakuraでは「アクティビティ」と呼んでいるそうだ。

RV Dynoテストの概要図

RV Dynoテストの概要図 資料=ホンダ

 ちなみに2014年から2017年のマクラーレンと組んでF1参戦していたころのRV Dynoテストは、マクラーレンのマシン丸ごとをRV Dynoテストに設置して行っていたそうだ。しかし現在は開発コストを抑制するレギュレーションから、マシン丸ごとの設置は中止している。

 さらにRV Dynoテストではセッティングだけでなく、現在のF1ではPUは年間で3基までしか使用できないというレギュレーションがあるため、レースごとにPUへ蓄積されていくダメージについてもシミュレーションによるデータ収集が行われている。

 年間3基のほかにも、レースに使ったPUDynoなどの試験機にかけることが禁止されているので、シーズン中に行われるRV Dynoテストではレース用のPUではなく、テスト専用のもので行っている。

 これらのテストを経てPUのセッティングデータが、サーキットで走行するPUに反映されるという流れになっている。実際のレースで、ドライバーとチームが行う無線の中で「PUのモードを3-2に変更」等というものが交わされるが、これはドライバーへステアリングにあるスイッチで、PUのセッティングを変更するように指示しているのだが、このモードの種類や内容もRV Dynoテストで構築されている。

 また近年のF1PUのセッティングデータは多種多様な機能を有しており、各機能の組み合わせは膨大なものとなる。それをレースの12週間前までにアクティビティで決定する際にはAIも活用して業務効率化を図っているそうだ。

 これほど緻密にリアルを重視したRV Dynoテストが活用されている理由は、現在のF1ではサーキットで走行するテストの機会が制限されているからだ。テストの機会がないまま本番のレースに臨むと、決勝レースまでのフリープラクティス、予選、ウォームアップなどの走行時間内で、マシンが高いパフォーマンスを発揮できるようにセッティングを進めていくことになる。

 このように走行時間も数時間に限られている中で、RV Dynoテストのような緻密な検証に基づいたPUセッティングデータの構築は難しい。そこで、より即戦力となるようなセッティングデータを予めHRC Sakura内で構築することで、本番のサーキットではセッティングデータの確認と微調整で進められるようにしているのだ。

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