住んでみたい! トヨタの未来都市「ウーブン・シティ」が着工。2025年に入居開始。
トヨタの考える未来都市「Woven City(ウーブン・シティ)」プロジェクトがついにスタートした。自動車業界が「100年に一度の大変革期」と叫ばれる中、トヨタはこの街づくりで何を目指すのか。モータージャーナリストの会田肇氏が考察する。
トヨタ自動車とウーブン・プラネット・ホールディングス(以下:ウーブン・プラネット)は2021年2月23日、トヨタ自動車東日本(TMEJ)の東富士工場跡地に隣接する旧車両ヤードにおいて、「Woven City(ウーブン・シティ)」の建設へ向けた地鎮祭を実施した。
地鎮祭には静岡県の川勝平太知事や裾野市の髙村謙二市長など地元関係者を来賓に迎え、トヨタの豊田章男社長、ウーブン・プラネットのジェームス・カフナーCEO、TMEJの宮内一公社長ら16人の関係者が出席。本格的に開始される建設工事の安全を祈願した。
あらゆるものがネットワークでつながる街に
ウーブン・シティは2020年1月に開催された「CES2020」において、トヨタ自動車の豊田章男社長が発表した未来都市。あらゆるものがネットワークでつながる「コネクティッド・シティ」をインフラから建設していくことが明らかにされた。建設地は東富士工場跡地である70.8万平方メートルに及ぶ広大な敷地で、最初は希望者を募り、2025年にも高齢者や子育て世代ら360名程度が入居。将来的にはトヨタ従業員を含む2000人程度が暮らす街になるとしている。
「ウーブン・シティ」は、網の目のように道路が織り込まれる街の姿から「ウーブン(Woven)=織り込んだ」の意味を取って名付けられた。ここで展開されるプロジェクトには、人々が実際に生活を送るリアルな環境の下で、自動運転をはじめ、MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)、パーソナルモビリティ、ロボット、スマートホーム技術、AI技術などの導入や検証が含まれる。技術やサービスの開発と実証のサイクルを素早く回すことで、新たな価値やビジネスモデルを生み出し続けることを最大の目的としているのだ。
インフラ整備についてはさっそく動きを見せている。トヨタは20年3月にNTTと業務資本提携を結び、その中で開発する「スマートシティプラットフォーム」をウーブン・シティで実装することを発表した。
ここでは自動運転車両のインフラ側からのサポートや個人向けの通信デバイスなど、幅広いサービスを想定。その構想にはソフトウェアからハードウェアまでを含んでおり、両社が資本提携にまで踏み込んだのもこれらが社会実装されるには長期間にわたることが想定されたためだ。これらを積み上げた上で、同年11月の決算説明会において「富士山の日」である21年2月23日に着工することを明らかにしたのだ。
最終的な完成時期は未定!?
現時点でウーブン・シティについて明らかにされているのは、2020年1月に米国ラスベガスで開催されたCES2020で発表された内容にとどまる。それを改めて紹介すると、地上と地下で道路を分け、地上は自動運転車専用、歩行者専用、超小型モビリティと歩行者が行き交う道という3種類の道路を用意し、地下は物流向けの自動運転車のみを走らせる。
特に自動運転車専用道では、「e-Palette」など完全自動運転かつゼロエミッションのモビリティのみが走行。「e-Palette」は単に人の輸送やモノの配達だけにとどまらず、移動用店舗としても使われるなど、街のさまざまな場所で活躍させる予定となっている。
また、住民同士のつながりによってコミュニティが形成されるよう、人々の集いの場となる公園・広場を作る予定。インフラは燃料電池技術をフル活用し、地下には燃料電池発電を行う施設を用意するほか、各戸の屋根には太陽光発電パネルを設置するなどして、環境との調和やサステイナビリティを前提として街づくりを進めていくことになっている。最終的な完成時期は特に明記されていないが、それはウーブン・シティそのものが常に進化し続ける街としているからに他ならない。
一方で地元である裾野市では、東富士工場で働いていた約1100人の従業員が東北の拠点へ異動したり、退職するなどしてしまうため、これらが地元経済へ与える影響は小さくない。最終的に予定されている2000人がウーブン・シティに住むことになれば新たな需要が生まれる可能性はあるが、その時期が明確ではない現状では不安が先に立つのも無理はない。さらに街が出来上がったとしても、自動運転車が走る実験場のような場所となれば、一般車の立ち入りが制限されるのではないかと恐れる声もある。
前例のない街づくりに世界が注目
そんな中でトヨタは、この地鎮祭に先立つ1月29日、先進技術や新規事業の開発を手掛ける子会社として運営していた「TRI-AD」を再編し、持ち株会社「ウーブン・プラネット」と、その傘下として事業会社の「ウーブン・コア」「ウーブン・アルファ」、それに投資ファンドの「ウーブン・キャピタル」の4社体制へと移行した。ウーブン・シティ事業はそのうちのウーブン・アルファが担い、その担当となったのが章男氏の息子である豊田大輔氏(同社代表取締役)だ。
豊田大輔氏はこの日、「人を中心に、住む方々一人一人の生活を想像しながらウーブン・シティに取り組む。ウーブン・シティはグループにとってもイノベーションをリアルな環境で実証・実装していく重要な場所になると考えている」と表明。ウーブン・シティ事業を進めるにあたって、グループが一丸となってこのトヨタの新たな取り組みを推進していくことを宣言した。
さらに朝日新聞の報道によれば、豊田章男社長は2月初旬に裾野市を訪問し、「20年後には先進都市ができ上がり、若者がわざわざ首都圏の企業に就職しなくても、最先端技術を扱う企業が富士山のふもとに集うことになる」と語ったという。
こうした街作りは既に米国や中国でも行われているが、それらは政府や自治体主導で開発され、そこに各企業が担当を受け持つ形で事業は進められている。今回のプロジェクトのように一企業がすべてを手掛けるのはこれまで例がなく、その成果には世界が注目しているのは間違いない。
豊田章男社長の発言に端を発した「100年に一度の大変革期」にある自動車業界。ウーブン・シティがその未来に向けてどんな効果がもたらすのか、その行方に注目していきたいと思う。