2020年09月09日 10:30 掲載

クルマ JAXA×トヨタの月面探査車「ルナ・クルーザー」。なぜ燃料電池が必要なのか?


神林 良輔

2020年現在の開発状況と今後の計画

 2019年度から始まった本格的な「ルナ・クルーザー」の研究開発。2019年度は、実際の月面走行に向けて開発が必要な技術要素の識別、試作車の仕様定義などが行われた。

 そして2年目となる2020年度は、シミュレーションによる走行中の動力や放熱の性能確認、タイヤの試作・走行評価、VR(仮想現実)や原寸大の模型を活用した有人与圧ローバ内部の機器配置の検討など、各技術要素の部品の試作、試作車の製作に必要な細部の検討が行われている最中だ。

ブリヂストンの協力を得て製作された、原寸大のJAXA×トヨタ「ルナ・クルーザー」用の試作タイヤ。東京モーターショー2019にて撮影。

ブリヂストンの協力を得て製作された、原寸大の「ルナ・クルーザー」用の試作タイヤ。直径は1.5m。東京モーターショー2019にて撮影。

 共同研究協定最後の1年となる2021年度は、試作・製作した部品や試作車を用いた実験・評価を行う予定だ。もちろんここでJAXAとトヨタの関係は終わりではない。この後も2029年の打ち上げを目指して研究開発が進められるため、協定の延長や、何らかの新たな協定などが結ばれることだろう。2022年度以降は、以下のスケジュールが計画されている。

2022年~:1/1スケール試作車の製作・評価、月極域での走行系に関するデータ取得・実証
2024年~:エンジニアリングモデルの設計・製作・評価、フライトモデル(実機)の設計
2027年~:フライトモデルの製作・性能品質検証

2020年現在の「ルナ・クルーザー」のスペック

 「ルナ・クルーザー」の計画中のスペックは、以下の通りとなる。まだ仕様がフィックスしていないため、最終的なスペックは変わる部分もある。今回は2020年2月7日に発表されたJAXAの資料「有人与圧ローバの検討状況~一次検討結果と今後の課題~」を参考とした。

全長×全幅×全高:6.0×4.4×3.8m(マイクロバス2台分より少し大きい程度)
ホイールベース:4.6m
トレッド:3.6m
タイヤサイズ:1.5m(6輪)
質量(打ち上げ時):~7.0t(マージン込み)
質量(月面走行時):~11.5t(マージン込み)
居住スペース:13立方m(4畳半のワンルームほど)
与圧スペース:22立方m
クルー搭乗数:2名(宇宙服を脱いで搭乗可能)※ 緊急時は4名乗車が可能
クルー滞在日数:42地球日

駆動方式:インホイールモーター式の6輪駆動
走行時1時間当たりの消費電力量:600kWh
太陽光発電の発電量:3.0kW
バッテリー容量:32kWh
1充填航続距離(水素と酸素満充填):約1000km
5年間のトータルの総走行距離:安全係数を考慮して1万2000km
1有人ミッション時の必要な燃料容量(酸素・水素高圧ガスタンクカートリッジ):約1t
廃熱要求:7.6kW
自動運転用センサー:カメラ、3D LIDAR
ボディ:CFRPまたはケブラー製
耐久性能(トータル走行距離):約1万2000km

【電源トレーラー】
質量:~10.0t
バッテリー容量:670kWh

 電源トレーラーとは、自動運転で次の探査エリアへ移動する際に「ルナ・クルーザー」に電力を供給する支援車両のことだ。自動運転中は搭載したFCは使用せず、電源トレーラーから供給される電気で走行する計画だ。また有人ミッション期間中の、13日半に及ぶ月の夜間時は「ルナ・クルーザー」での移動や調査は行わず、探査拠点に戻って、宇宙飛行士は採取したサンプルや集めたデータの分析や報告、広報活動などを行う。その際の電力も電源トレーラーから供給される予定だ。


 「ルナ・クルーザー」は、これまでトヨタが開発してきたどのクルマよりもタフさを必要とするクルマなのは間違いないだろう。その開発においては、これまでにない技術を開発する必要があるはずで、同時に新たな知見も得られるはずだ。そうして新たに開発されたり得られた知見は、2030年代以降の市販車に何らかの形でフィードバックされることだろう。

 なお、2019年3月に実施されたJAXAのシンポジウムにおいて登壇したトヨタ副社長の寺師茂樹氏は、個人的な意見として「ルナ・クルーザー」のデザインについての言及を行っている。冗談めかして「トヨタのクルマはよくダサいっていわれるんですけど(笑)、(『ルナ・クルーザー』は)僕としては結構カッコいいと思っていまして。ぜひ次の『ランドクルーザー』には、この辺のデザインを使いたいと思っています」とした。

 すでにデザイン面では市販車へのフィードバックも見据えているかのような発言だ。さすがにそのままということはないにしても、部分的に「ルナ・クルーザー」を彷彿とさせるようなデザインが採用されるのかもしれない。

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