100年続く老舗純喫茶店「デンキヤホール」で、レトロゲームとグルメを堪能してきた
かつて一世を風靡した「テーブルゲーム機」の現役機が、浅草の老舗喫茶店「デンキヤホール」にある。今ではなかなかプレイできないレトロゲームを懐かしグルメとともにくるくら記者が体験してきた。
希少なテーブルゲーム現役機を純喫茶で初体験
銀座線浅草駅から徒歩約15分、千束通り商店街の一角にたたずむ「デンキヤホール」は創業1903年の老舗喫茶店だ。デンキヤホールといえば「元祖オムマキ」などのレトログルメや今は希少なテーブルゲーム機の現役機があることで有名だ。今回、記者はテーブルゲームを初体験するべく、デンキヤホールへ足を運んだ。
ちなみに、「デンキヤホール」という店名は、ゲーム機とは関係なく、もともと初代が電器屋を営んでいたことに由来しているそうだ。戦時中に男手が不足した中、女性や子どもだけでもできる商売として甘味屋へ転換したことが現在の「デンキヤホール」の始まりなのだそう。
昭和の風情ある外観に期待を高めながら店内に入ると、オレンジ色の照明に合うレトロなデザインのイスとテーブルが並んでいる。その落ち着いた雰囲気の店内で、目的のテーブルゲーム機は、店内の奥に3卓設置されていた。3代目女将の杉平淑江さんによると、テーブルゲーム機は約40年前に導入したものだという。当時はどの喫茶店でも見かけたが、今では現役機は希少で、ゲームファンがテーブルゲーム機を目当てに訪れることも多々あるのだとか。
記者が座ったのは、「ナムコクラシックコレクションVol.2」が楽しめるテーブルだ。座ってまず目に入る画面のドット調ムービーとBGMが、懐かしい気持ちとともにテンションを高めてくれる。ジョイスティックとカラフルなボタンも、レトロな風格を漂わせていた。
「ナムコクラシックコレクションVol.2」は、ナムコ往年の名作が複数収録されている作品。収録タイトルは、『パックマン』『ラリーX&ニューラリーX』『ディグダグ』、それと各タイトル後に「アレンジメント」が付いた、リメイク版の全6作品だ。デンキヤホールでは、1ゲーム100円でプレイすることができる。ジョイスティックを使ったゲーム経験はあるが、このタイプのレトロゲームは初体験だったので少々緊張しながらも100円を投入。まずは、「ラリーX」のオリジナル版に挑戦してみることにした。
ラリーXでは、青いクルマ(マイカー)を操作しながら、迷路状のコースを追ってくる赤いクルマを回避してチェックポイント(フラッグ)を通過していく。10か所あるチェックポイントは、通過するごとに得点が加算されていき、全て通過すると次のステージに進むことができる。
単純なゲームなのだが、操作するマイカーに攻撃手段はないため、追ってくる赤いクルマからひたすら逃げながらチェックポイントを目指すしかない。画面右下には、ナビゲーションマップがあり、自分の位置とチェックポイント、それにマイカーの位置が表示されている。マップをじっくり確認しようとすると、うっかり赤いクルマに追いつかれてしまう。かといって、マップを見ずに走ると袋小路に詰められてしまうこともあるのだ。このジレンマは、運転時にカーナビで道を確認する際、進行方向から一瞬でも目を逸らすことが不安になる感覚に似ているかもしれない。
結果は、かろうじて最初のステージをクリアしたのみにとどまった。次のステージが始まった途端、2台に増えた赤いクルマに追いつかれてしまいゲームオーバー。シンプルなゲームシステムだが、高得点を狙ってやり込みたくなる魅力があるゲームであった。
次に挑戦したのは、世界的にも有名なタイトルの『パックマン』だ。迷路の中を4匹のモンスターの追跡をかわしながらドットを食べていくゲーム、ということは読者にもおなじみだろう。実際にプレイしてみると、最初は順調にドットを食べ進められた。しかし、徐々にモンスターたちがパックマンを確実に追跡してくるようになると、あっという間に捕まってしまった。残機が2つ残っていたが、それもスタートしてすぐにモンスターに捕獲されるという、散々な結果であった。
ところで、4匹のモンスターの動きには、それぞれに異なる特徴があったのだが、これは性格に応じた行動を取るよう設定されているからだそうだ。モンスターの性格と名前は次の通り。
オイカケ (アカベエ) |
赤 | 縄張りは右上。粘着タイプで、パックマンの後ろをひたすら追いかけてくる。 |
マチブセ (ピンキー) |
ピンク | 縄張りは左上。頭脳タイプで、パックマンの行く手を先回りする。 |
キマグレ (アオスケ) |
青 | 縄張りは右下。気まぐれタイプで、追跡中はパックマンを中心として、アカベエと点対称の位置を最短距離で目指して行動する。 |
オトボケ (グズタ) |
黄 | 縄張りは左下。好き勝手タイプで、パックマンより遠いところにいるときは追いかけるが、近いところにいると逃げる。 |
これらモンスターの性格を知ると、単純な追いかけゲームではなく、いかにモンスターの行動を先読みして回避するかという頭脳ゲームでもあることがわかる。こちらもシンプルなシステムながらも、レトロゲームならではのやり込み甲斐と奥深さがあると感じられた。
テーブルゲーム卓でレトロなグルメを楽しむ
デンキヤホールの魅力は、もちろんグルメにもある。名物は、初代から続く伝統の味「元祖 オムマキ」。それから、喫茶店の定番メニューであるナポリタンも外せない。小豆をたっぷりの汁とともにグラスに注いだ「ゆであずき」も、デンキヤホールに来たら食べてみたい一品だったので、今回はこの3品をオーダーした。
元祖オムマキ (700円/税込)
太麺の焼きそばを卵で巻いた料理で、初代が当時ハイカラ料理であったオムライスから着想を得た料理なのだそう。そのこだわりは、何と言っても麺にある。初代が製麺所に深蒸しで注文したことを今も引き継いだという、もっちりとした太麺は食べ応えも抜群だ。シンプルな甘めのソース味に、卵の上にかかったケチャップとのコンビネーションが濃い味好きにはたまらない。
さらに特筆すべきは、老舗「祇園 原了郭」の黒七味と一味、浅草やげん堀と長野善光寺八幡屋の七味が一緒に運ばれてくるということ。特に宮内省御用達を賜ったこともある原了郭の2種は、店主が京都の祇園から取り寄せているこだわりだそうで、これをオムマキにかけて食べるとピリッとした味わいも楽しむことができる。アルミ皿にどかんと盛られてくるところも昭和を感じられる、こだわり尽くしの一品だ。
ナポリタン(700円/税込)
レトロな喫茶店に入った時に、ついナポリタンを頼みたくなるという人は少なくないと思う。デンキヤホールのナポリタンは、公式Webサイトにも「昔懐かしい味」と記されている通り、シンプルで懐かしい味わいだ。しっかりとケチャップソースが絡まっている麺は硬めで、シャキシャキ食感の玉ねぎとピーマンにもマッチする。皿いっぱいに盛られたボリュームは、男性でも満足できる量だろう。タバスコと粉チーズが何も言わずに一緒に運ばれてくる心遣いも嬉しい。
ゆであずき(550円/税込)
デンキヤホールのもうひとつの名物メニューといえば「ゆであずき」。古くから神社仏閣の境内で売られていたというゆであずきは、デンキヤホールでも開店当時から提供されている。「ゆであずき」というとトロリとしたものを思い浮かべると思うが、本来はさらりとした汁気があるものなのだそう。デンキヤホールで提供されるゆであずきも、さらりとした小豆と煮汁がグラスになみなみと注がれている。こだわりの素材は北海道産大納言小豆で、なんと3日間かけてじっくりと茹でているというから驚きだ。甘さ控えめの優しい味で、小豆の香ばしさも味わえる。程よい温かさは、冷え込んでくるこれからの時期には、体をほっと温めてくれそうだ。
レトロな空間とゲーム、グルメを楽しめるデンキヤホールは、古き良き時代を思い起こさせてくれる魅力にあふれた純喫茶店であった。