『イタリア発 大矢アキオの今日もクルマでアンディアーモ!』第21回「夏時間&冬時間」。年2回の”儀式”はつらいよ
イタリア・シエナ在住の人気コラムニスト、大矢アキオがヨーロッパのクルマ事情についてアレコレ語る連載コラム。第21回は、メリットよりデメリットのほうが多い!? ヨーロッパのサマータイム事情について。
混乱が生じないのは「誰も信じていないから」
イタリアでは2021年10月31日、夏時間(サマータイム)から冬時間に切り替わった。周辺諸国とともに、時計の針を1時間遅らせた。これによって、日本との時差は7時間から8時間となった。
イタリアは12月ともなると日の出は遅く、筆者の住む中部シエナでも7時30分頃になる。冬時間に調整後、時計で同じ時刻に起きると、若干明るいのはありがたい。それでも東京のやたら明るい朝からすると暗いのが悲しい。
いっぽう3月の最終日曜日、逆に針を1時間進ませて冬時間から夏時間へと切り替えると、日没の時刻が遅くなる。そのため、もっとも日が長い時期は、夜の9時過ぎまで明るい。多くの人々は夕食後、街なかにふたたび散歩へと繰り出す。
実は2019年、欧州連合(EU)の欧州議会は、2021年をもって夏時間制度を廃止することを賛成多数で可決している。経緯は複雑なので割愛するが、日照時間を有効活用でき、かつ商業も活性化するというサマータイム賛成派よりも、さしたる効果が見いだせないとする反対派の数が大きく上回ったことによるものだ。
2022年以降各国は、標準時を従来の冬時間とするか、それとも夏時間とするか選択することになる。当然、イタリア政府も決めなければならない。しかし新型コロナウィルス対策に時間を割いてきたためであろう、冬・夏どちらを標準時とするか本稿執筆時点までに公式のアナウンスはない。
これまで年2回の”儀式”であった時計の調整だが、我が家は部屋数が少ないので、実際に針を動して調整する時計はたった2つであった。寝室のデジタル目覚まし時計は、日本の家電ブランド製にもかかわらず、夏・冬時間の切り替えボタンがある欧州仕様ゆえ、それを押すだけだ。
切り替えは、イタリアでそれほど混乱を招いていなかった。筆者が知る限り、しくじったのは「出勤してみると上司も同僚がいなかったことで、冬時間に気づいたことがあるわよ、アハハ」と笑う知り合いのおばちゃんくらいだ。PCや電波時計など、自動で時刻を調整してくれる機器の普及も、近年は混乱防止に貢献している。
親切なホテルでは、玄関や客室にアクセスするエレベーターホールに、前日「今夜時間が切り替わります」などと貼ってくれる。街なかや路線バス内の時計は、切り替え直後に未調整のことが多い。それでも混乱を生じないのは、ほとんどの人がそうした時計に正確さを期待していないことがある。
最強は「100均」時計?
いっぽうで筆者が困っているのは、クルマの車内時計である。本来なら時刻の切り替え当日、クルマを置いている地下駐車場まで降りて行って切り替えれば良いのだが、それが億劫なのだ。
加えて、イタリアの通勤者と比べ、クルマの使用頻度は高くない。そのため、ある日「今日は妙に速く走れたな」と悦に入っていると、なーんだ、実は冬時間に変わっていただけ、といった経験を幾度となくした。
最近の欧州仕様車は自動切り替えなのかどうなのか、今回の執筆を機会に、地元の自動車販売店に赴いて聞いてみた。結論からいうと、「フィアット」「ダチア」など大半のポピュラーカーは、今日でも自分で調整する必要がある。
いっぽうで「ルノー」の上級仕様や「メルセデス・ベンツ」「アルファ・ロメオ」といったプレミアムカーの大半は、GPSの時計をもとに自動調整してくれる。ということは、冬夏時間の切り替えだけでなく、スペインとポルトガルといった、陸続きでも時差があるエリアをまたいでも、若干のタイムラグを伴いつつも勝手に調整してくれることになる。
前述のように、今後EU加盟各国それぞれが独自の標準時を採用するようになっても、十分対応できるはずだ。
筆者のクルマは前述のとおり、自動で切り替えてくれない。この10年落ち欧州製小型車には、車内にふたつのデジタル時計が存在する。ひとつはセンターコンソールに収まった純正カーナビのもの、もうひとつはメーター内に表示されるものである。
このふたつの時計、新車時は当然時刻が同期していた。ところが数年前から、カーナビのものは調整できても、メーター内の時計が夏時間のまま動かなくなってしまった。さらに前回本欄で執筆した修理のあとは、メーター内の”夏時間時計”がどんどん進んでしまう症状が出始めた。
カーナビ内の時計は、時刻を調整するのにいくつものボタンを操作しなければいけないうえ、しかるべき表示モードに切り替えないと、通常は到着時刻しか表示されない。もはや自分の腕時計以外、頼れるものがなくなってしまった。
考えてみれば、筆者が子ども時代を過ごした1970年代、家にあるクルマは時計が付いていなかった。それでも過ごせてしまっていたのに、壊れたままだと、どこか気持ち悪いのは困ったものである。
そうした中、往年のフランスにおける大衆車「ルノー4」のイベントで、参加車に同乗させてもらう機会があった。
よく見るとダッシュボードには、薄型の時計が両面粘着テープでぺたりと貼られていた。日本でいえば100均的クオリティのものである。「もう少し内装のデザインにマッチした時計を選べよ」とケチをつけつつも、「これなら国境を越えたときも調整が簡単そうで、意外といけるかも」と、真面目に模倣を検討し始めた筆者である。