なぜアウディ新型「SQ5」の走りは気持ちがいいのか。V6エンジンとMHEVプラスの正体【試乗レビュー】
SUVでありながら、どこか獲物を狙うような緊張感がある。アウディの新型Q5、その頂点に立つ「SQ5」を今尾直樹が試乗した。プレミアムSUVという言葉だけでは語れない、その走りの正体を探る。
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新型Q5に乗りたい!
ダッシュボードとディスプレイが一体化された新型SQ5スポーツバックのインテリア
エンジンの始動ボタンを押すと、ブオンッという快音を発してフロントの3リッターV6が目覚めた。
筆者がステアリングホイールを握っているのは、アウディの新型SQ5スポーツバック、すなわち2024年秋にドイツ本国で発表となり、本年夏にニッポン上陸を果たした新型Q5シリーズの最強モデルである。運転席に座っちゃったから見えないけれど、フロント・マスクは凶悪宇宙人のプレデターを思わせるぐらいコワい。
あれ? KURU KURAって、比較的若い世代向けのメディアでしょ。アウディQ5は760万円から始まるミド・サイズのプレミアムSUVで、その最高峰のSQ5スポーツバックは1058万円もするのに……いいんですか、こんな高級ブランドの、いちばん高いモデルの紹介で? いいんです、もちろん。
ということで、インプレッションを続ける。シフトレバーをDに入れ、アクセルをゆっくり踏む。ブレーキが自動的に解除され、プレデターSQ5はスッと前に出る。新型Q5シリーズはすべて新開発のマイルド・ハイブリッド「MHEVプラス」を採用しているからだ。
新方式のマイルド・ハイブリッドがスゴイ
MHEVプラスについて説明しよう。
そもそもQ5はA4シリーズ、新型でA5に改名したアウディの中核モデルとプラットフォームを共有している。Q5とA5、両車の関係は初代以来のもので、新型A5で初採用されたエンジン縦置き用の「PPC(プレミアム・プラットフォーム・コンバッション)」を新型Q5も分かち合っている。ホイールベースは、Q5が2820mm(エア・サスペンション仕様は2825mm)、A5は2895mmと、70mmほど短くなってはいるけれど。
アウディはもうひとつ「PPE(プレミアム・プラットフォーム・エレクトリック)」なるBEV専用のプラットフォームをポルシェと共同開発しており、Q6やA6で採用している。ここまで、よろしいでしょうか。PPCとPPE。
ダイヤモンドステッチが施された新型SQ5スポーツバックのレザーシート
アウディ先進のマトリクスLEDヘッドライトは、LED光源と精密な光学デバイスを組み合わせたカメラシステムによって、状況に合わせて配光を可変させることができる
試乗したSQ5 スポーツバックは、前後同じ255/40R21のミシュラン・パイロットスポーツ4 SUVを履いていた
で、PPCとセットで登場したのが新方式のマイルド・ハイブリッドであるMHEVプラスである。アウディのMHEVはこれまでベルト式オルタネータースターター(BAS)のみだった。新方式では「PTG(パワートレインジェネレーター)」と呼ばれる第2のモーターをトランスミッションの出力軸にプラスし、内燃機関のアシストをより積極的に行う。なんせPTGの最高出力は24ps、最大トルクは230Nmもあり、これが0〜140km/hの範囲で稼働する。車重2110kg(車検証値)のヘビー級ボディが無音のまま、上品かつ軽やかに発進するのは、PTGのおかげなのだ。
減速時にはPTGはエネルギーを回収するジェネレーター(発電機)となり、回収したエネルギーを荷室床下のリン酸リチウム・イオン電池に送る。駆動用電池の容量は1.7kWhと、たとえばトヨタ・プリウス用の1.1kWhより大きく、数kmのEV走行を可能にしている。また、140km/h以上になると、PTGは効率アップのため、内臓のドッグクラッチにより自動的に切り離される。
トランスミッションは7段DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)に統一されている。ちなみに先代Q5は、SQ5のみ、トルクコンバーター式の8段ATだった。
V6エンジンが快音を発し、滑らかかつ軽やかに回る
まるでプレデターのような顔つきで、ワインディングを駆け抜ける新型SQ5スポーツバック
一般道を走り出しての驚きは乗り心地の良さである。SQ5の場合、20インチが標準だけれど、試乗車は21インチを装着している。タイヤは255/40という極太扁平サイズ。それでいて、ふわりとした極上の乗り心地なのだから、ちょっとたまげる。もっとも、それは試乗車がオプションのエア・サスペンションを装備していたから、ではある。ミシュラン・パイロットスポーツ4 SUVの乗り心地性能も優秀なのだろう。コワモテのプレデター顔とは思えぬ、まろやかさなのだ。
東名高速の御殿場IC近くのホテルを出て、一般道を箱根方面へと向かう。ふと長尾峠、近年、道が広げられたとはいえ、狭くて曲がりくねった峠道にノーズを向ける気になったのは、ちょっと走ってみて、この動きなら、十分イケる。と判断したからだ。
SQ5スポーツバックのサイズは全長×全幅×全高=4715×1900×1630mm、ホイールベース2825mmと、最近のCセグメントのSUVとしては小柄な部類に属することもある。全幅も、たとえばライバルのメルセデス・ベンツGLC(220dを除く)や、BMW X3より20mm狭い。
人里離れた山奥のストレートで、アクセルをちょいとばかし踏み込んでみる。2994ccのV6直噴エンジンが快音を発して、滑らかかつ軽やかに回る。軽やかに感じるのはPTGのブースト機能もあるのかもしれない。
新型A5で初採用されたエンジン縦置き用の「PPC」と呼ばれるプラットフォームを採用する新型Q5シリーズ
まるでポルシェみたいだ
それにしても、このV6、とっても気持ちよく回る。まるでポルシェみたいだ。と思ったので確認してみたら、マカンSのV6は2894ccで、内径×行程=84.5×86.0mm。SQ5のV6は2994cc、内径×行程=84.5×89.0mmで、ストロークが異なる別物だった。ごめんね、疑って。
ターボなのに、12.0という高圧縮比を実現していて、VTG(可変タービン・ジオメトリー)ターボチャージャーとの組み合わせで、最高出力367ps/5500-6300rpm、最大トルク550Nm/1700-4000rpmを得ている。これは先代SQ5比で13psのアップである。
「Bサイクル」という、アウディ独自のミラーサイクルの一種の燃焼方式を採用しているはずだけれど、高効率エンジンにありがちなスカスカ感とは無縁で、ダイナミック・モードに切り替えると、4000rpm以上でギュオオオオオオオオオッと絶唱し、6000rpmまスムーズに回り切る。
アクセルを閉じれば、バラバラバラッというバックファイアを思わせるレーシーなサウンドを轟かせ、なにより、やってる気にさせてくれる。実際、速い。PTGのアシストを得て、0-100km/h4.5秒の俊足を誇るのである。
SQ5 スポーツバックが搭載するV6ターボは、最高出力367ps/5500-6300rpm、最大トルク550Nm/1700-4000rpm
重心の高いSUVなのに、重心の高い感じはまるでない。着座位置こそちょっと高いものの、気分はハコの高級&高性能スポーツカー。
エンジン縦置き前輪駆動ベースの4WDにしては鼻先の重さを感じないのは、リアに駆動用電池を積むことで前後重量配分55:45(車検証値)と、フロントが重すぎないこともあるかもしれない。
それと、静かである。音が澄んでいる。エンジンの快音は、じつは情熱と冷静のあいだの、ちょっと冷静寄りの音量に抑制されている。アウディというのは高性能であっても、どこかクールなのだ。
アウディ本来の魅力を再発見
SQ5 スポーツバックのボディサイズは全長4715×全幅1900×全高1630mm
止まる能力もクールで、「iBRS」と名付けられた統合ブレーキ制御システムを採用している。いわゆるブレーキ・バイ・ワイアのこのシステムは、普段は回生ブレーキで減速し、ドライバーがブレーキ・ペダルを強く踏み込んだ場合にのみ、ディスクをパッドが挟む、機械式のブレーキを使う。ということだけれど、どこでどう切り替えているのやら、筆者にはさっぱりわからなかった。その違和感のなさが不思議なほどだった。
なお、機構面では、SQ5を含む新型Q5の駆動方式はすべてクワトロ、すなわち4輪駆動で、燃費を稼ぐべく、状況に応じてFWDに切り替えるクラッチが付いている。今回の試乗はもっぱら山道だったので、FWD走行の機会は少なかったのではないか……というのが筆者の勝手な推測だ。
ファストバックスタイルのSQ5 スポーツバック
SQ5がこれだけ好印象だったのだからして、1984cc直4ターボ・ガソリンのTFSI、もしくは1968cc直4ターボ・ディーゼルのTDI、どちらのQ5もすばらしい出来栄えにちがいない。
ボディにスタンダードとスポーツバックの2タイプがあるのは、プレミアムSUVの定石通り。スポーツバックはファストバックながら、後席の居住空間はスタンダード・ボディと遜色ない。全高は5mm低いだけで、トランク容量も5リッターの違いにすぎない。ファストバックのデザインが好きなひとは悩むことなく、スポーツバックを選ぶべきであろう。
BEVだけじゃない。内燃機関のアウディも、時代に合うディ。アディヨス。
アウディ SQ5 スポーツバック|Audi SQ5 Sportback
SPECIFICATIONS
アウディ SQ5 スポーツバック|Audi SQ5 Sportback
ボディサイズ:全長4715×全幅1900×全高1630mm
ホイールベース:2825mm
車両重量:2080kg
駆動方式:4WD
エンジン:V型6気筒直噴DOHC 24バルブ+ターボチャージャー
総排気量:2994cc
トランスミッション:7速DCT(Sトロニック)
エンジン最高出力:367PS(270kW)/5500-6300rpm
エンジン最大トルク:550Nm(56.1kgfm)/1700-4000rpm
モーター最高出力:24PS(18kW)
モーター最大トルク:230Nm(23.5kgfm)
サスペンション:(前後)マルチリンク/エアサスペンション(アダプティブ・エア・サスペンション・スポーツ)
ブレーキ:(前後)ディスク
タイヤ:(前後)255/40R21(ミシュラン・パイロットスポーツ4 SUV)※オプション
0-100km/h加速:4.5秒
価格:1058万円




