トヨタに本物のスポーツカーは作れるのか? 「2000GT」「LFA」から「GR GT」へと続くクルマ屋の挑戦の物語
TOYOTA GAZOO Racingとレクサスは12月5日、静岡県裾野市の実証都市「ウーブン・シティ」で、新型スポーツカー3車種をワールドプレミアした。しかし、発表会という晴れの舞台で壇上から語られたのは、“屈辱”や“悔しさ”という言葉だった。これら3モデルの開発には、いったいどんな物語があったのか。モータージャーナリストの原アキラが現地で取材した。
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目次
開発の原動力は「悔しさ」と「式年遷宮」
トヨタは12月5日、GRブランドのフラッグシップとなる「GR GT」とその競技車両「GR GT3」、レクサスブランドの「レクサスLFAコンセプト」の計3台をワールドプレミアした。
場所は、1967年に初代センチュリーが生まれたその地にある「トヨタ ウーブンシティ」。スポーツカー3車種誕生の原動力は、「悔しさ」と「式年遷宮」という2つの要素だという。発表会に参加し、実車を間近で見てきた印象をお伝えしよう。
スポーツカー3車種の発表は静岡県裾野市のウーブンシティにあるインベンターガレージにて開催された。
ワールドプレミアに登壇したサイモン・ハンフリーズCBOは、トヨタにとっての屈辱の物語を2つ紹介した。
ひとつは14年前の米ペブルビーチで、章男さん(豊田章男会長)が『レクサスは退屈だ』といわれたこと。もうひとつは20年前の独ニュルブルクリンクを中古の80スープラで走った章男さんは、カムフラージュされた他社の最新プロトタイプに道を譲り続け、「トヨタさん、あなたたちにこんなクルマ作れるわけないでしょ」と言われているように感じたこと。
その2つの“悔しさ”が、今回のようなクルマを造り上げる原動力になったのだという。そして「式年遷宮」とは、日本の神社がある年数ごとに遷宮を繰り返すことで、社殿の維持や技術継承を行なっていることを例えたもの。
トヨタが作り上げてきたフラッグシップスポーツカー「2000GT」「LFA」などの開発で得た、クルマ屋が残すべき技能、“秘伝のタレ”を次の世代に受け継いでゆくその象徴が、今回の3台であると位置付けた。
豊田章男氏によるプレゼンテーション
超ロングノーズの「GR GT」はどんなモデル?
GR GTのボディサイズは、全長4,820mm、全幅2,000mm、全高1,195mm、ホイールベース2,725mmと公表された。その超ロングノーズ、ショートデッキのスタイルは、ドライバーの着座位置を限界まで下げた低重心かつ空力性能の理想像を定めてからデザインを検討したのだという。
今回はルマンカーやナスカーのようにフラットサイドで四角い箱形が空力的に理想のものであるとし、その基本を崩さずデザイナーが形を決めるという逆転の発想から生まれたのだ。
開発にはマスタードライバーのモリゾウ(豊田章男会長)のほか、プロドライバーの片岡 龍也選手、石浦宏明選手、蒲生尚弥選手、ジェントルマンドライバーの豊田大輔選手、社内の評価ドライバーなど多様なドライバーが、コンセプト策定の段階から参画してきたという。
GR GT(プロトタイプ)|GR GT Prototype
搭載するパワートレーンは、マルチパスウェイのトヨタらしく、e-フューエルにも対応する4.0L V8ツインターボ+1モーターのハイブリッドシステムで、目標値はシステム最高出力650PS以上、システム最大トルク850Nm以上というもの。
低いボンネットに収めるため、90°のV8エンジンはサーキットなどでの強烈なGに耐えるためのスカベンジングポンプを使用したオイルパンの薄いドライサンプ方式を採用し、ツインターボをバンク内に装着したホットV形式としている。
会場内にはカットモデルが展示されていたので、87.5mm×83.1mmのショートストロークタイプの燃焼室がよく見えたし、自走でステージ上に入ってきたので、ちょっと図太いV8ターボの音も聞くことができた。その「音」は、「クルマと対話できるサウンド」、「熱量変化を感じさせるサウンド」の2つの柱を基軸に開発したそうだ。
駆動方式はFRで、エンジンが生み出した動力は極太の炭素繊維強化プラスチックのトルクチューブを介してリアのトランスアクスルに伝えられる。そこには1基のモーターや8速AT、機械式LSDが一体化されて搭載されている。
GR GT(プロトタイプ)|GR GT Prototype
インテリアは真紅。2座のレカロ製スポーツシート、中に太いトルクチューブが突き抜けるセンターコンソールに取り付けたコンパクトなシフトスイッチ、底面がフラットなステアリングなどが配されており、センターパッド右には、フェラーリやランボルギーニのような、スポーツブースト付きの赤いドライブモードダイヤルが取り付けられているのが見えた。
撮影時には針式で表示されていたタコメーターは7,300rpmあたりからレッドゾーンで、スピードメーターは最高速度220マイル(約350km/h)表示だった。
GR GT3について現在わかっていることは?
GR GTをベースに、カスタマーモータースポーツのトップカテゴリーであるFIA GT3規格に沿って、「勝ちたい人に選ばれる」「誰が乗っても乗りやすい」クルマを目指して開発したのが「GR GT3」だ。
公表されているのは、全長4785mm、全幅2050mm、ホイールベース2725mmというボディサイズと、ハイブリッドなしの4.0L V型8気筒ツインターボエンジン(ガソリンとe-フューエルに対応可能)だけのパワートレーン、FRの駆動方式という情報のみだ。
GR GT3(プロトタイプ)|GR GT3 Prototype
目立つのは、巨大なリアウイング(角度調整式)と、ボンネットセンターの巨大な開口部。中を覗くと大型ファンが2基取り付けられた大面積のラジエーターが装着されているのが見えた。
排気管の取り回しも異なっていて、ボディサイドからの排出方式としている。クイックの給油口は右側Bピラーに配されていた。
インテリアはレース用そのもので、ロールゲージが張り巡らされた室内にはフルバケットのレーシングシートや6点式シートベルト、各種設定ボタンが装着されたヨーク型ステアリングが装着され、“仕事場”の雰囲気を醸し出す。
GT3国際レースに参戦するユーザーに向けて、TOYOTA GAZOO Racingとして最適なカスタマーサポート体制を整える用意も進めているという。
GR GT3(プロトタイプ)|GR GT3 Prototype
レクサス「スポーツコンセプト」改め「LFAコンセプト」へ
今年のペブルビーチやJMS2025で公開された「レクサス スポーツコンセプト」が名を改め、新たに「LFA」の名称が与えられたのがコレだ。
公表された主要諸元は、全長4,690mm、全幅2,040mm、全高1,195mm、ホイールベース2,725mmで、BEVパワートレーンの詳細は未公表だ。ボディはGR GTのオールアルミニウム骨格をベースに、スポーツカーらしいノーズからリアへと流れる低く伸びやかなシルエットや、正統派クーペのプロポーションを描き出したとされる。
レクサスLFAコンセプト|Lexus LFA Concept
運転席側がホワイト、助手席側がグレーのインテリアは、ブラインドタッチで各部の操作スイッチ類が操作できるヨーク型の異形ステアリングや3連のインフォテインメント画面がシンプルに配され、ミニマルな世界観を表現している。
実車を見ると、なだらかに左右が膨らむボンネットや、後端に向かって収縮するリアのラインは「トヨタ2000GT」、ヘッドライトやBピラーの造形、リアの3角形のストップランプは「LFA」の要素を上手に引き継いでいるように見える。
3台は2027年ごろの発売を目指してまだまだ開発は続けられるというが、今からワクワクしてしまうのは筆者だけではないはず。その“時”を楽しみに待つことにしよう。
GR GT3(プロトタイプ)|GR GT3 Prototype





