最も危険な要因は「車道にはみ出した電柱」|長山先生の「危険予知」よもやま話 第38回
JAF Mate誌の「危険予知」を監修されていた大阪大学名誉教授の長山先生からお聞きした、本誌では紹介できなかった事故事例や脱線ネタを紹介するこのコーナー。今回は車道の電柱が危険な要因になるという話から、自転車の右側通行が左折してくる車との出会い頭事故の原因になるという話を事故事例を挙げてわかりやすく説明していただきました。
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最も危険な要因は「車道にはみ出した電柱」
編集部:今回は夜間住宅街の交差点を通過する状況で、右側通行してきた自転車と正面衝突しそうになるというケースでした。右側通行に加えて無灯火と、自転車側の違反度がかなり高いケースです。しかも今回の場合、対向車は来ていますし、右側の道路から曲がってくる車もいて、そっちに意識がいってしまいそうですね。
夜間、住宅街の交差点を通過しようとしています。
電柱の向こう側から右側通行の無灯火自転車が飛び出してきました。
長山先生:そうですね。夜間、このような道路状況で運転者がまず認知するのは、対向車のヘッドライトではないでしょうか。とくに右の脇道から左折してきた車のヘッドライトは上向きライトのように眩しく見えるので、曲がってくる際、ヘッドライトが直接目に入り視覚障害の原因になると考えられます。
編集部:たしかにそうですね。タイミング的に左折車のライトに眩惑させられる危険性がありますね。
長山先生:おっしゃるとおり左折車のライトに注意が必要ですが、道路照明に少し偏りがあるのも気になります。右側の電柱には照明があるうえ、左折車や対向直進車のヘッドライトの影響で路面はかなり明るく照らされていますが、よく見ると道路の左側には照明がなく、右側に比べて少し暗めになっています。明るい部分と暗い部分の差があると、暗い部分の自転車や歩行者が見えづらくなるので注意が必要です。
編集部:なるほど。それでなくても電柱が死角をつくっているので、ライトを点けていない自転車は見落とす可能性がかなり高そうですね。
長山先生:電柱が車道にはみ出したところに設置されている点は最も気になる点です。左側の歩行者がもう少し前を歩いていれば、こちらが近づく前に電柱の右側を通ろうとして右側にはみ出してくる可能性があります。何らかの理由があってこの歩行者は道路の左側を歩いていると思いますが、道路の右側には歩道がきっちりと整備されガードレールもあるので、安全を考えたら右側の歩道内を歩いたほうがいいですね。
編集部:たしかにそうですね。自宅や目的地が道路の左側にあれば、左側を歩くことが多いでしょうけど、片側1車線の狭い道なので、夜間は見落とされたりして接触事故などの可能性もありますからね。しかし、問題の場所は歩道がないうえ、電柱や標識のポールが路肩にあって車道を歩かざるを得ない酷い状況と言えますね。
長山先生:おっしゃるとおりです。電柱が車道に出っ張って設置されていることが大きな危険要因ですので、そのような条件を道路管理者は取り除き、良き運転環境を整備しておかなければなりません。改めて自宅周辺など電柱の設置場所を確認すると、歩道がある道路では一般的に電柱は歩道上に設置されており、路側帯がある所では路側帯に設置されているようです。新しく整備された住宅街では電柱は路側帯の内側に設置されていて、歩行者はそれほど車道にはみ出すことはなさそうでしたが、非整備の道路になると電柱は車道にあって歩行者はもちろん、自動車もそれを避けるのに苦労するような所がありますね。
編集部:たしかに、区画が古い道路だと歩道がなかったり、路側帯が狭くて歩きにくい所が少なくないですね。でも、道路環境が悪ければ悪いほど、自転車側も交通ルールを守って慎重に走ることが重要になりますね。今回の場合、ライトを点けて左側通行をしていれば、事故の危険性はかなり低くなるでしょうから。
長山先生:もちろん、自転車のルール違反は事故原因として軽視できません。今回のケースでは「自転車の右側通行」が大きな問題となります。
自転車の右側通行が出会い頭事故に!?
編集部:自転車での右側通行といえば、私も学生時代はその危険性を理解しておらず平気でやっていましたが、車を運転するようになってから自転車の右側通行の危険性がよくわかりました。
長山先生:以前あなたも同じことをおっしゃっていましたが、右側通行すると対向車と向き合うので相手の存在がよく分かるし、相手からもこちらがよく認められるので安心して走れるというメリットを述べる人がいます。しかし、今回のように夜間無灯火で走っていると、相手から存在を見落とされてしまいます。昼間でも車のドライバーが脇見をしていたり、ぼんやりしていると相手から見落とされて正面衝突の危険が生じます。相手に頼っていると、このメリットは効果を持たないことになります。
編集部:なるほど。しかも右側通行をすると車と向かい合う形で進むので、気づいてからハンドルやブレーキで回避する時間的な余裕もありませんね。それにもかかわらず、大胆に電柱を避けて車道に出てくるとは、かなり危険ですね。
長山先生:自転車側からは車のドライバーが自分の存在を十分認知できているだろうと、平気で無謀な行動を取っていると言えましょう。車側に譲ることを求める走り方は、危険極まりないものです。
編集部:ちなみに、今回のような正面衝突は自転車事故で多いのでしょうか?
長山先生:下の警察庁のデータを見ればわかるように、自転車事故では「正面衝突」は比較的少なく、「出会い頭衝突」が圧倒的に多くなります。
自転車(第1・第2当事者)の事故統計
編集部:「正面衝突」はわずか1.5%で、「出会い頭衝突」が51.2%と半分を占めているのですね。
長山先生:そうです。実は今回のように右側通行をしていると、正面衝突の危険以外に交差点での出会い頭衝突の確率が大きくなります。右側通行のデメリットとして、下図のように信号機のない交差点や施設の出入口から右左折して出ようとする車Ⓐは、右側通行してきた自転車©と出会い頭で衝突する事故がしばしば認められるのです。
編集部:よくあるケースですね。基本、左右の安全を確認して出ていると思いますが、どちらか一方に注意が偏るということでしょうか。
長山先生:そのとおりです。本線に左折して入る運転者は右側からくる車にのみ注意し、左から来る歩行者や自転車があることを忘れて注意を怠りがちになるからです。また、本線に右折しようとする運転者の注意は、右から来る車の存在と入ろうとする本線の左車線を左から走ってくる車にのみ注意を払いがちです。そのため、手前車線を左から来る右側通行の自転車は見落とされがちです。
編集部:たしかに合流するのに影響のある車両を中心に注意している気がしますね。とくに交通量が多いと、車が途切れるタイミングばかり見てしまい、それ以外の自転車や歩行者のことは忘れてしまいますね。実際にこのようなケースでの事故は多いのでしょうか?
左折で出るときこそ「右側通行自転車」に注意!
長山先生:私はこれまで多くの事故事例を調査してデータベースを作っていますが、自転車の右側通行が原因になった事例も少なくありません。そこから取り上げた3例を紹介します。先ほど図で説明したものと類似したケースと言えましょう。
編集部:3例とも「左折で広い道に出る」「右側ばかり注意した」「左から来た右側通行の自転車と事故」という点はまったく同じですね。右側通行自転車との典型的な事例なのですね。
事故防止には運転者との“アイコンタクト”が重要。
長山先生:そうですね。まったく共通した原因で交通事故が起こっています。自転車に乗る人にはそれらの事故の原因を徹底して分からせ、注意して乗るように習慣化させる必要があります。自転車運転者に対しての指導ポイントは次のようになります。
- 右側通行をすると問題が起こるのでそれを十分に認識させ、常に左側通行をしているかを意識させること。
- 右側通行の第一の問題は、交差点で右から近づく自動車の運転者に見落とされやすいこと。
- 信号のない交差点で右から近づく運転者は自分から見て右方向の交通状況に注意を払い、左から近づく自転車を意識していない可能性があること。
- 右側通行・左側通行の自転車運転者は共通に認識しておかなければならないことですが、交差点手前で一時停止している車は自分のために止まったと勘違いをしないこと。別の理由で停止している可能性がある。
- 止まっている運転者と目と目を合わせて意思を確認する「アイコンタクト」をとり、こちらに気づいて譲ってくれていることを確かめたうえで、初めてその前を通過すること。
編集部:以前にも出てきたアイコンタクトですね。こんなことを言うと歩行者や自転車利用者から怒られそうですが、ドライバーは周囲の車両や歩行者、自転車、さらに信号の変化や標識など、いろいろなことに注意しなければいけないので、すべてを常にしっかり見ているわけではないですからね。車の動きに騙されず、こちらを見て止まっているのか、疑ってかかったほうがいいですね。それに対してドライバーへの指導ポイントはどのようなことがあるのでしょうか?
長山先生:そうですね。ドライバーも人間なので当然ミスをすることがあるので、自己防衛のために相手を疑うことも必要ですね。自動車運転者に対しての指導ポイントは以下のものがあります。これらは事故事例から得られた教訓ですので、運転するときにぜひ生かしてください。
- 信号のない交差点において直進・右左折をしようとする場合、運転者としては交差道路を右から走ってくる車がいないかどうかを確かめようとするが、それと同時に左からの交通に対しても同様に確かめることが重要であると認識すること。
- 自分が停止した場合、その前を通行しようとする歩行者や自転車は自分に対して譲ったと間違って受け止めて平気で前を通行するので、停止し発進する場合、近づいてきていた彼らが次にどうするかを十分に再確認する必要があること。
- 運転者は大きな対象(トラック・バス・自分と同等の車等)は見落とさないが、小さな対象(歩行者・自転車・原付等)は見落としやすいことを十分に認識しておくこと。
『JAF Mate』誌 2018年6月号掲載の「危険予知」を基にした「よもやま話」です。
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