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公開日:2025.10.07

なぜ「911 GT3」はファンを魅了するのか?——河村康彦の「ポルシェは凄い!」♯7

ポルシェ911 GT3(996型)|Porsche 911 GT3(type 996)

いつの時代もスポーツカーファンから一目置かれているブランドと言っていいポルシェ。ではポルシェのいったい何が凄いのか。ポルシェ愛好家のモータージャーナリスト河村康彦の連載コラム、7回目は「911 GT3」をフィーチャー!

ポルシェ911 GT3(996型)|Porsche 911 GT3(type 996)

文=河村康彦

写真=ポルシェ

編集=細田 靖

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911シリーズ中で最もサーキットに近い存在

今や数多ある911のバリエーションの中にあっても「常にモータースポーツと密接な関係にあるポルシェならではの知見を余すところなく生かし、ボディにもパワーユニットにもシャシーにも妥協のない専用の設計を取り入れたシリーズ中で“最もサーキットに近い存在”」と、そんなフレーズで紹介できるのが「GT3」というグレード名を与えられたモデル。

1999年に996型(5代目)のモデルレンジに初代が設定されて以来、その歴史はすでに四半世紀あまり。その間にローンチされた歴代のGT3は、レーシングマシン由来の設計が施された自然吸気の水平対向エンジンを搭載し、やはり専用の空力チューニングが施されたボディにサーキットでの走行を念頭に置いたシャシーを組み合わせるというクルマづくりの姿勢が一貫して変わっていない。

一方で、サーキット走行でのラップタイム短縮に特化するあまり、その他の要求すべてを犠牲にするという手法にまでは染まっていないことも、歴代911 GT3の特徴として紹介できるのは興味深い。

例えば動力性能にフォーカスすると、クラッチ操作を必要とする3ペダル式のマニュアルトランスミッション(MT)よりも変速時に加速力が途絶をしない2ペダル式のオートマチックトランスミッション(AT)の方が、今やスピード性能の点では有利というのが常識。実際、それを根拠に911シリーズの中にあっても特にサーキットでのラップタイムを重視するGT3では、一時MTをリストから落としたという過去がある。

ところがそうした決断の後に、飛び切り刺激の強いエンジンの特性やスパイシーなチューニングのシャシーには大きな魅力を感じながらも、変速の操作はすべて自身の手の内に収めたいというMT志向のスポーツ派ドライバーが少なからず存在していると認識を新たにすると、当初の方針を変更してMT仕様を改めて“復活”させるという柔軟なマーケティング戦略も持ち合わせているといった事柄も、このブランドならではと言えそうな特徴点。

昨今911 GT3がかつてない危機に直面!?

ポルシェ911 GT3(992.2型)|Porsche 911 GT3(type 992.2)※写真はオプションの「ヴァイザッハ パッケージ」装着車

ポルシェ911 GT3(992.2型)|Porsche 911 GT3(type 992.2)※写真はオプションの「ヴァイザッハ パッケージ」装着車

同様に、“サーキット生まれ”と躊躇わずに表現したくなる内容を秘めたGT3でありながら、「日常的なロードユースには余りに仰々しい外観に抵抗がある」という声に応えて、2017年に登場の991後期型(7代目991.2型)のモデルからはGT3の象徴とも言えそうな固定式の巨大なリヤウイングを廃した「ツーリングパッケージ」を新たに設定。サーキット走行時には有効な空力性能の一部を削りつつ、好みの異なるユーザーの希望を叶えたことも注目に値する。

このような姿勢は、誕生以来60年以上という長い時間をユーザーと共に成長してきたと真摯に考える911のクルマづくりのポリシーを見事に反映しているとも受け取れそう。一方で、スピード性能の向上には軽量化こそが有効であるという本質を理解しながらも、新たなテクノロジーの採用が重量増によるマイナス分を補って余りある効果をもたらすと判断すれば、前出のようなトランスミッションのAT化やリヤアクスルステアリングシステムの標準採用化など、技術者集団として知られるこのブランドならではの進化を遂げてきたという史実も、また911 GT3というモデルらしい特徴と言っていいだろう。

ポルシェ911 GT3ツーリングパッケージ(992.2型)|Porsche 911 GT3 with Touring Package(type 992.2)

ポルシェ911 GT3ツーリングパッケージ(992.2型)|Porsche 911 GT3 with Touring Package(type 992.2)

こうして、時代の要請を敏感に受け入れながら“サーキットに最も近い911”として歴史を重ねてきたこのモデルが昨今、かつてない危機に直面している。それは現代のすべてのクルマが避けては通ることのできない様々な規制の強化という問題。これまでも幾多の高いハードルをそれまでに培った知見やポルシェならではの高い技術力によって乗り越えてきた911 GT3だが、現在直面する燃費や騒音などの様々な規制のハードルはかつて無く、高く険しい。

それらをクリアするために、ついにターボ化や電動化といった多くの他車が取り入れた手法に頼らざるを得ないのか、それとも多くのGT3ファンが期待するに違いない独自の方法で突破するのか、その回答は数年後に登場するであろう次期モデルで得られるはずだ。

動画=ポルシェ公式YouTubeチャンネルより

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