車線変更時はまず「斜め後方の死角」に注意! |長山先生の「危険予知」よもやま話 第37回
JAF Mate誌の「危険予知」を監修されていた大阪大学名誉教授の長山先生からお聞きした、本誌では紹介できなかった事故事例や脱線ネタを紹介するこのコーナー。今回は道に不案内だと事故を起こしやすいという話を発端に、長山先生が外国で経験したことから考察した各国の国民性など、興味深い話を聞くことができました。
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車線変更時はまず「斜め後方の死角」に注意!
編集部:今回は片側3車線ある道路で車線変更する状況です。車線変更での危険というと、移ろうとする車線の車の有無や相手車両の速度や距離ばかり注意してしまいますね。
3車線ある道路の右端の車線を走っていて、左側に車線変更しようとしています。
車線変更を始めたところ、左前方の停止車両が発進し、同じ車線に合流してきました。
長山先生:そうなりがちですね。今回の場合、左への車線変更なので、左車線の前方が空いているかどうかと、左後方からの車があるかどうかを目視とミラーで確認することになるでしょう。
編集部:左車線の前方は空いていますが、左後方には赤い車がミラーに映っています。でも、赤い車との距離が多少あり、速度も同じなら車線変更は問題なくできそうです。
長山先生:赤い車に関してはそうですね。ただ、ドアミラーで見えるのは自分の車の斜め後方で、赤い車の前方、つまり自車のすぐ左側は見えません。そこを走っている車がいれば見落としてしまう危険性があります。
編集部:ミラーの死角ですね。
長山先生:そうです。運転姿勢や車のミラーの大きさや向きにもよりますが、車の真横からすぐ近くの斜め後方がミラーに映らない死角になるので、そこは顔を横に向けて目視しないといけません。
編集部:車線変更するドライバーの目視が不十分な場合、死角にいる車のドライバーは自分が死角に入って見落とされている可能性を考えていないと、車線変更に気づくのが遅れて接触してしまう危険性がありますね。
長山先生:おっしゃるとおり、ドライバーが死角に入っている可能性とそれによる危険性を考えていれば、斜め前の車の車線変更にすばやく気づいて反応できます。つまり危険予知ができていれば、事故を未然に防ぐことができるのです。
編集部:そうですね。でも、今回車線変更するドライバーが注意すべき対象はミラーの死角ではありませんでした。
3車線道路の車線変更は、危険がいっぱい!
長山先生:そうです。車線変更を行ったところ、左前方に止まっていた車両が発進して、自分が移ろうとした第2通行帯(左から2番目の車線)に入ってきました。この車の前にも停車車両があったため、発進してすぐに第2通行帯に入ってきたようです。
編集部:タイミングしだいでは、追突や接触事故につながる危険がありますね。車線変更の際は路肩の停止車両にあまり意識が行きませんが、今回のように停止車両が動き出す可能性まで考えておかないといけませんね。
長山先生:おっしゃるとおりです。また、問題の場面をよく見ると、左側に交差点があり、ピラー(柱)越しに合流してくる車があるようにも見えます。その車が合流してきた場合も、第2通行帯に出てくる危険性があります。路肩から発進してくるドライバーも、交差点から合流してくるドライバーも、どちらも自分が合流しようとする第2通行帯の状況しか見ておらず、第3通行帯から第2通行帯に車線変更してくる車を想定していない場合が多いので、その両者が事故を起こす可能性を秘めています。今回のように3車線以上ある道路では、双方から車線変更しようとする車の存在がお互いの盲点となっているので注意が必要です。
編集部:左右から同時に真ん中の車線(第2通行帯)に車線変更するような場合、お互いの車がミラーの死角に隠れてしまうケースもあるので、より危険ですね。今回の場合、左側の車線に加えて、さらに隣の車線の車と路肩の停止車両の動向、交差点があれば、そこから合流してくる車のことまで注意していないといけませんね。道路には狭い路地や駐車場などの出口もあるので、左側を目視する際は、ミラーはもちろん、ミラーの死角、さらに路肩の様子までしっかり見る必要がありますね。
長山先生:そうですね。ただ気になるからと言って、そこを凝視してしまうのも危険です。脇見による事故は「ちらっ」と見るのではなく、「じーっ」と見てしまうことで起こっているからです。今回のように前方に先行車がいる場合、車線変更しようとしてドアミラーをじーっと見てしまうと、目線が離れている間に先行車が何らかの理由で急減速や急停止した場合、気づくのが遅れて追突する危険性があるからです。ミラーで確認したあとは、即座に目線を前方に戻す必要があります。
編集部:いろいろな対象をすばやく注意する必要があって、かなり高度になりますね。
長山先生:そのとおりです。車線が増えれば増えるほど注意すべき対象が多くなるので、都心などの多車線道路を走る場合、事前にコースを調べておき、十分余裕をもって車線変更することが大切ですね。
編集部:慣れている道なら直前で慌てて車線変更することもないですけど、初めて走る道では注意しないといけませんね。最近、外国人観光客が乗ったレンタカーによる事故が問題になっていますが、外国人ならなおさら道に不案内なので、そんな外国人が運転している車であることがわかったら、周囲を走るドライバーはより注意する必要がありますね。
長山先生:そうですね。ただ、現在ではレンタカーには必ずナビが付いていますし、スマホでもルート検索ができるので、以前と比べたら外国人でもスムースに走れるようになっているのかもしれません。以前、何度かヨーロッパを車で旅行したことがありましたが、道が分からなくなったら地図を見るしかありませんでした。
編集部:昔はそうですよね。でも、外国では自分がどこにいるのか、わからないことも多そうですね。
長山先生:おっしゃるとおり、車内で地図を見て悩むことも少なくありませんでした。でも、ドイツだと、そんな困った状況に気づいてくれる人が多く、ずいぶん助けられたものです。
国によって「親切度」は違う?
編集部:それはすごいですね。車内で地図を見ているだけで、声でも掛けてくれるのですか?
長山先生:そうです。ドイツの「黒い森」と言われる地域の交差点で止まって地図を見ていると、車の前を渡っていた人が向きを変えて窓のところに来て、「どこへ行くのか」と尋ねてくれたことがありました。言った地名の場所を教えてくれたうえに「良い旅行を!」と言ってくれました。
編集部:車の前を歩いている人がわざわざ戻ってきて声を掛けてくれるとは、とても親切な人ですね。ヨーロッパにはそのような人が多いのでしょうか?
長山先生:いえいえ、同じヨーロッパでも国によって「親切度」は違うようで、ドイツとフランスでは違うようです。そもそもドイツは人に対しての関心が高い国のようです。ドイツとフランスを旅行していて次のような違いを経験したことがあります。ドイツでは田舎の居酒屋などに入ると、カード遊びをしている人たちが外国人が来たということで、いっせいにこちらを見て話しかけてきますが、フランスの同じような田舎では、仲間で遊んでいる人たちがまったくこちらを無視して見ようともしないのです。まったく関心がないのでしょう。
編集部:そうなんですか! フランス人ほど個人主義が強くなさそうですけど、ドイツ人がそんなにフレンドリーとは意外ですね。冷徹と言っては言い過ぎですけど、ドイツ人はガードが固く、すぐには馴染めないようなイメージがあります。
長山先生:いえ、そうではありません。ドイツでは駅で切符を買おうと案内板などを見ていると、必ず声をかけてくれる人が現れるものです。道で地図を見ていても、どこへ行くのかと声を掛けてくれるのです。一度、家内と二人で町はずれの道路で立ち止まって地図を見ていると、そばを通ったトラックが少し先に止まって運転手が降りてきて、「どこへ行くのか?」と尋ねてきたこともありました。地図で行先を示したところ、「この地図は分かりにくい。自分の持っている地図のほうが分かりやすい」と言い、車に地図を取りに行ってそれをくれたものでした。
ドイツ人は“おせっかい焼き”で困る!?
編集部:わざわざ止まったうえに地図までくれたのですか!? それは凄いですね。
長山先生:そうです。ドイツ人はやや「おせっかい焼きで困る」という話を聞きますが、本当に親切な人たちだと思います。ただし、おせっかいが過ぎてこんなこともありました。ハノーバーという町で、研究所を訪問する前に有名な公園に行こうと思って、地下鉄の切符売り場でどの切符を買えばよいかと迷っていると、少しみすぼらしい姿の男性が近づいてきて教えてくれようとしたのですが、それを見た貴婦人のような中年の女性がその人を押しのけて「どこへ行きたいのか?」と尋ねてくれました。
編集部:男性を押しのけてですか!? それはたしかに「おせっかい焼き」ですね。
長山先生:そこで私は「ここへ行って、次にはここへ行く」と答えたところ、「それならこれを買えばよい」と回数券のようなものを買って渡してくれたのですが、乗換駅でどの線に乗ればよいかと駅員に尋ねたら、「この回数券は子供用なので、あなたは駄目だ」と言われてしまいました。「これまでの料金はよいが、これからの分はきっちり払ってもらう」ということで新しい切符を買ってことは収まりましたが、あの女性は十分な知識も無しに、人を押しのけてまでおせっかいに教えてくれたのかと、おかしくなったものでした。
編集部:それは災難でしたね。女性に悪気はなかったのでしょうけど。
長山先生:私はこのような経験を通して、次のような研究データを取ってみるのも面白いと考えました。実際にはできませんでしたが、外国の路上で地図を開いたときにストップウォッチを押して、誰かが声をかけてくるまでの時間を測るというものです。多くの国でデータを取れば、各国の「親切度」が比較できると思います。ちなみに、スイスはドイツ語・フランス語・イタリー語を話す地域に分かれていて、以前ドイツ語圏の小さな町で地図を眺めていたとき、「お手伝いしましょうか」と話しかけてくれた女性がおりました。一例ではありますが、親切度はドイツと同じだったのです。
編集部:よく海外は治安が悪く、不用意にカバンを持ってもらったり、写真を撮ってくれるからとカメラを渡したために窃盗に遭うといった話も聞くので、親切な行為を警戒してしまいがちですが、逆の立場で日本に来た外国人観光客が困っていたら、できるだけ親切に接したいですね。
長山先生:そうですね。私も2年ほど前、大阪市内の駅で大きな荷物を持つ夫婦がスマホを見ながらキョロキョロしていたので声をかけて乗り換えの仕方を教えてあげました。日本人かと思ったのですが、言葉からするとアジアのどこかの国から来ている人たちのようでした。2020年には東京オリンピックもあるので、海外からの観光客はさらに増えるでしょうから、少しでも親切にしてあげたいものですね。
『JAF Mate』誌 2018年5月号掲載の「危険予知」を基にした「よもやま話」です。
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