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公開日:2025.09.03

なぜポルシェの“ターボ”は別格なのか?——河村康彦の「ポルシェは凄い!」♯6

ポルシェ911ターボ3.0(930型)|Porsche 911 Turbo 3.0(Type 930)

いつの時代もスポーツカーファンから一目置かれているブランドと言っていいポルシェ。ではポルシェのいったい何が凄いのか。ポルシェ愛好家のモータージャーナリスト河村康彦の連載コラム、6回目は“ターボ”モデルをフィーチャー!

ポルシェ911ターボ3.0(930型)|Porsche 911 Turbo 3.0(Type 930)

文=河村康彦

写真=ポルシェ

編集=細田 靖

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ポルシェ車の場合“ターボ”は極めて特別な響きを持つ

エンジンからの排気経路上に置かれたタービンホイールを排気ガスのエネルギーで高速回転させて、それと同軸上の吸気経路内にあるコンプレッサーホイールを回すことでエンジン燃焼室に多くの空気を押し込み、さらにそれに見合った量の燃料を送り込むことによって強大な出力を獲得する――そんな原理によるターボチャージャーは、排気量が小さくコンパクトなエンジンでも必要なシーンで十分な出力を得ることができるため、軽自動車をはじめ今や多くのエンジンで採用されているメカニズム。

特にディーゼルエンジンでは「燃焼室内に押し込まれた大量の空気が排ガス対策に有利に作用する」という理由から、もはやすべてのユニットに標準で採用されていると言っていい状況。かくして現在ではごくポピュラーな存在になっている“ターボ”だが、それでもポルシェ車の場合には極めて特別な響きを持つのがこの言葉でもある。

ポルシェが初のターボ付きエンジンを搭載する量産車を発表したのは、1974年のパリのモーターショーの舞台。

出展された「911ターボ3.0」が人々に強い衝撃を与えたのは、ベースとなった930型(2代目)911カレラ3.0が積む自然吸気の3.0リッター水平対向6気筒ユニットに対して60psも高い260psという最高出力を発生させたことはもちろん、巨大なリヤスポイラーや大きく張り出したリヤフェンダーなど、異形とも言える特徴的な見た目を採用する点にもあった。

ターボ付きエンジンを搭載した市販モデルの当初のモデル構想は、実はレース用車両の規定台数をクリアするために「快適性には目をつぶってオンロード走行が可能なレーシングカーを少量生産する」というもの。

けれども、1974年の春にGTレーシングカーの最低重量規定が引き上げられることとなり、これを好機と捉えて前出のコンセプトを「モータースポーツ用バリエーションのプラットフォームにもなる高級で高性能なスポーツカー」へと軌道修正。実際、当時としては贅沢品であったパワーウインドウやカセットプレーヤーなども標準装備としながら、10月の市販型発表へと漕ぎつけたという。

911に限らず、豪華で快適ですこぶる速いオールラウンダーという“ターボ”のグレード名を冠した現在のポルシェ各モデルに共通する基本キャラクターは、すでにこの半世紀以上前の段階で確立されていたと言っていい。もしも当初構想された「ディチューンされたレーシングカー」という方向性が選択されていたとしたら、今へと続く“ターボ”を称する各モデルの仕上がりぶりはサーキット走行に強くフォーカスした、現在よりもずっと硬派な内容になっていたかも知れない。

走りも豪華さも明確にシリーズの頂点に立つ仕様以外“ターボ”の名は謳わない

ポルシェ911ターボ(992型)|Porsche 911 Turbo(Type 992)

ポルシェ911ターボ(992型)|Porsche 911 Turbo(Type 992)

かくして、GT3系以外のモデルの心臓がターボ付きとなった最新の911シリーズや、基本モデルに積む心臓がかつての6気筒からターボ付き4気筒となったボクスター/ケイマンでも、走りも豪華さも明確にシリーズの頂点に立つ仕様以外では“ターボ”の名称は謳わないというのがこのメーカーのポリシー。

一方でそうした呼称はもはやメカニズムそのものを表すのではなく、クルマづくりの方向性を示す言葉にもなっていることから、内燃エンジンを搭載しないタイカンや新型マカンにも敢えて“ターボ”を名乗るグレードが設定されることになっている。

前述のように1974年に初のターボチャージャー搭載モデルが発表されて以降、1977年には300ps、1990年には320ps、1993年には360ps、1995年には408ps、そして2000年には420ps……と時の流れとともにその出力は着実に向上。現行(8代目992型)911ターボの最高出力は当初の2倍以上となる580psに達した。そうした強大なパワーを確実に路面に伝達するべく、“ターボ”では4WDシャシーも必須のアイテムになって久しい(4WDの採用は4代目993型から)。

現時点では911シリーズはモデル刷新の過渡期にあるため、ターボ・グレードが後期型(992.2型)にはまだ設定されていないが、その登場はまさに今や秒読み段階にあることは確実。排気量を3.8リッターに拡大した新エンジンに、電動ターボチャージャーを核としたプラグイン(外部充電)に対応しないハイブリッドシステムを採用する、といった噂も聞かれるそんな最新の“ターボ”は、改めて911シリーズ中の絶対王者となるに違いない!

動画=ポルシェ公式YouTubeチャンネルより

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次回は9月5日からスタートです!
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