コイツは砂漠のGT-Rだ! 日産の新型高級SUV「パトロール」は先代とは別次元の完成度。日本上陸が待ち遠しい!【試乗レビュー】
かつて日本では「サファリ」の名で親しまれた日産「パトロール」。現在では中東を中心に絶大な人気を誇る本格SUVが、フルモデルチェンジを果たした。その存在感と完成度はGT-Rに匹敵!? 日本導入が待たれる新型パトロールに、モータージャーナリストの渡辺敏史が試乗した。
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中東で確かな地位を築いたサファリ
ラダー=梯子型のシャシーにキャビンを載せて形作る「ボディ・オン・フレーム」のクルマというのは、自動車の普及期には多くが存在したが、モノコックという形式が普及した今では、トラックやバスといった商用的な車両に限られるようになった。
その中でも、乗用車的な体系でボディ・オン・フレームの形式を採るモデルが幾つかある。日本国内で代表的なモデルといえばランドクルーザーやジムニーだろうか。と、そこで思い出されるのが、パジェロやサファリといったモデルだろう。
それらは現在、日本では販売されていない。パジェロは2019年に、サファリは2007年に販売を終了している。が、パジェロはパジェロスポーツとしてASEANを中心に、そしてサファリは国外向け社名である「パトロール」として中東を中心に現在も販売を継続、モデルチェンジも定期的に施されている。
昨年(2024年)、そのパトロールがフルモデルチェンジして7代目となった。ワールドローンチは内田誠社長が自らプレゼンテーションを買って出たほど力の入ったものだった……と、そのお披露目が行われた場所はアブダビだ。
かようにパトロールにとって中東は重要な商圏で、実際、彼の地をみているとドバイを擁するUAEでもカタールやサウジアラビアでも、石を投げれば当たっちゃうかもという感じでよく見かける。
そして、社長がわざわざ出張っていったのにはもうひとつ理由があるのだと推しているのが、新しいパトロールは久しぶりに中身をがらりと刷新したという背景だ。
このメカニカルなアーキテクチャーは、主に北米で販売するアルマーダ、そしてインフィニティ銘柄のQX80にも横展開される。味付けは各々違うとはいえ、いずれも市場の沽券に大きく関わるモデルたちだ。経営環境的にはワンミスも許されないのだから、気合が入るのもよくわかる。
ラダーフレームを持ちながら快適性も妥協なし

新型パトロールのエクステリアは「unbreakable(壊れることのない頑丈性)」がコンセプト。
ラダーフレームの最大の特徴は「堅牢」だ。トラックやバスなどの商用車に多用されるそれは、高負荷・高荷重といったヘビーデューティな用途において、その強靭さやそこから伝わってくる頼もしさや頼り甲斐といったところの安心感は、大半のクルマが採るモノコックフレームとは一線を画する。
日本で販売されているラダーフレームを持つモデルといえば、前述のランドクルーザー系やジムニーに加えて、ハイラックスやトライトンといったピックアップトラック、輸入車ではジープ・ラングラーやGクラス、エスカレードといった、いわゆる「ゴツい」車種に留まっている。
理由は重さがもたらす燃費の悪さや乗り心地に代表される快適性の課題だ。この点でモノコックを超えることは難しい。
パトロールは特に快適性の改善に重きを置いて、先代からはサス形式に四輪独立懸架を奢っている。加えてこの新型では最上級グレードにエアサスを採用した。
路面からの入力を柔らかくいなしつつ、車高調整幅も大きく採れるメリットがある一方、性能上がさつに扱われがちなクルマにとっては金属バネに比べると耐久性的な課題があるわけだが、日産はこの採用にあたって徹底的なテストを重ねて信頼に値する成果を得られたというから、凡百のものではないのだろう。

新型3.5リッターV6ターボエンジンでは最大出力425馬力、最大トルク700Nmを発生。従来のV8エンジンと比較して出力が7%、トルクが25%向上している。
搭載するエンジンも5.6リッターV8から3.5リッターV6ターボへとダウンサイジングを計った。単純に出力やトルクといった数値が増すのはターボマジックだが、新設計のVR35DDTTユニットは中東のような灼熱砂漠での連続全開といった超高負荷を想定して、GT-Rの開発や熟成で培ったオイル潤滑など、冷却のマネジメントをしっかり織り込んでいる。
新型パトロールのボディサイズは300系ランドクルーザーよりもひと回り以上は大きく、数値的にはキャデラック・エスカレードやロールスロイス・カリナンにも比肩する、もしくはそれ以上というサイズだ。
加えて新型では後席側の形状刷新もあって、最後席の乗降性や居住性も大きく改善されており、3列シートのミニバンと大差ない使い勝手の良さを有してもいる。

インテリアは、快適さと最先端テクノロジーが調和するよう設計。14.3インチディスプレイを2つ配置し、インフォテインメントシステムはGoogleビルトインを搭載した日産コネクト2.0を採用。

新型パトロールは2+3+3(8名)の3列シートレイアウト
日本への導入が待たれる“砂漠の王”
そして普通に走る限りも、その乗り心地は限りなくミニバン的なところと差異なく感じられる。突き上げひとつにしても、カツンと伝わるような角が取れた丸いフィードバックはエアサスの恩恵あらかたといったところだろう。
一方で、ベースグレードなどに用意されるコイルサスの側がどういうフィーリングなのかも知りたかったが、今回はそれはかなわなかった。それでも、全面刷新され部位別では5割以上のねじれ剛性向上をみたという車台の良さは存分に実感できる。
試乗会場にあったスタッフカーの先代パトロールを無理いって乗り比べさせてもらったが、オンロードでの操舵応答性や操縦安定性などの違いは歴然としていた。

日産 パトロール|Nissan Patrol
本懐ともいえるオフロード性能にも抜かりはない。砂漠の凹凸を次々と越えていくようなコースでは、この車格のクルマでも当然4WD状態でアクセルを深踏みするような状況が多々訪れるが、重さを感じさせず砂塵を飄々と駆けていくサマをみるに、これはGT-Rと共に技術の日産の両極を目指した標なのではないかという思いも巡ってくる。
パトロールは砂漠の王でなければならないという開発陣の想いは伊達ではないのだろう。砂をも掴むという性能に関しては、試乗中でも異質なグリップ力を感じることもできた。

日産 パトロール|Nissan Patrol
日産でしかできない仕事というのは今でもたくさんあるもので、パトロールのようなクルマづくりというのもまさにそのひとつだ。
日本への導入は未定という一方で、社内では技術力の証明や存在のユニークさ、GT-Rに代替するようなアイコン等としての期待値が大きく、導入を望む声は大きいと聞く。
そこにクルマ屋としての自分が一言添えるとすれば、走ってどうこう……の、動的な質感は海外勢も含めた幾つかのライバルと完全に比肩する、もしくは上回るレベルにあるということだ。
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