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最終更新日:2025.04.15 公開日:2025.04.15

マクラーレンが最新スーパーカー「W1」に採用した航空宇宙産業レベルのカーボンファイバー技術とは?

マクラーレンW1|McLaren W1

マクラーレン・オートモーティブはこのほど、2024年10月発表の最新ハイブリッドスーパーカー「W1」に採用した、航空宇宙産業レベルのカーボンファイバー技術による「マクラーレンARTカーボンファイバー」と、世界で初めて開発した最先端の製造工程を公開した。

マクラーレンW1|McLaren W1

文=細田 靖

写真=マクラーレン・オートモーティブ

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マクラーレン最先端のカーボンファイバー技術「ART」

マクラーレンは40年以上にわたり、カーボンファイバーのメリットを生かして、軽量、パフォーマンス、高強度の構造という3要素を確保する実績を積み重ねてきた。レースや自動車産業におけるカーボンファイバー活用の重要な先駆者となり、この技術をF1で全チームが採用するスタンダードにしただけでなく、ロードカーにも展開。これまでに造られたマクラーレンはすべてカーボンファイバー製モノコックを採用し、軽量で強度と耐久性に優れるこの素材のメリットを、ボディ構造や空力システムでも最大限に生かすことで、最高のパフォーマンスと刺激的なドライビングダイナミクスを実現してきたのである。

このたび同社は、最先端のカーボンファイバー技術である「マクラーレンARTカーボンファイバー」の製造工程を世界で初めて開発した。ARTとはオートメイテッド・ラビッド・テープの略で、この製造工程が導入されたのは、英国シェフィールドにあるマクラーレン・コンポジット・テクノロジー・センター(以下MCTC)だ。

航空宇宙産業では、最新のジェット旅客機や戦闘機のために専用設計されたカーボンファイバー製構造物を造る際、とくに航空機の機体や翼といった大型部品において、超精密な製造法が用いられている。これは、ロボットアームでコンポジットテープを積層して成形するという手法で、従来はあらかじめ樹脂を含浸させたプリプレグ素材を手作業で敷き詰めていた。マクラーレンでは、この製造法の「ラピッド(高速)」バージョンを開発し、これを製造体制に組み込んだのである。

マクラーレンW1|McLaren W1

マクラーレンW1|McLaren W1

ART技術は、マクラーレンのロードカーに途方もない可能性を切り拓く。カーボンファイバー製ストラクチャーを一層軽量、高剛性、高強度に最適化するとともに、各部品の品質をさらに均一化できる。しかも製造時の廃棄物を削減できる。この手法で作られるマクラーレンARTカーボンファイバーは、手作業で裁断される一般的なプリプレグ・カーボンファイバーのコンポーネントとは、ビジュアルも異なり、際立っている。

マクラーレンは、ロボットアームでコンポジットテープを積層する航空宇宙産業のART工法をもとに、さらに工夫を施した。専用に設計された製造装置は、積層ヘッドが固定され、回転可能なマシンベッドが素早く動く仕組みで、これにより自動車製造に適した高速な工程が可能になったのである。

エンジニアを素材の制約から解放する

マクラーレンARTカーボンファイバー|McLaren ART carbon fiber

マクラーレンARTカーボンファイバー|McLaren ART carbon fiber

マクラーレンARTは炭素繊維の配置を自在に調整できる。 このため、エンジニアが素材の制約から解放され、耐荷重性や剛性に関して、従来の手法では不可能だった技術革新を実現できる可能性が生まれた。カーボンファイバーの方向を細かく調整できるため、素材の「異方性」を無視した剛性が実現する。例えば、特定の方向で剛性を強化し、他の方向では柔軟性を確保できるようになる。

さらに、強度重量比の最適化も可能になる。接合部や外縁部といった大きな応力や負荷のかかる部分には炭素繊維を集中させ、負荷の小さな部分では不要な素材を削減できるからだ。

製造時の廃棄物を大幅削減

マクラーレンARTカーボンファイバー|McLaren ART carbon fiber

マクラーレンARTカーボンファイバー|McLaren ART carbon fiber

マクラーレンARTカーボンファイバー工法は、長さを正確に測定したドライ・コンポジット・テープを積層していくため、再利用できない不揃いな切れ端を大幅に削減できる。コンポーネント1個に積層されるドライ・テープ原料のうち、最大90%が製品の一部となる。

工程は自動化されており、ヒューマンエラーによる裁断の不正確さや素材の損失を減らすことができ、最終的な積層品が設計上の許容範囲内に確実に収まるため、不合格品を最小限にできる。

次世代マクラーレン・スーパーカーの骨格へ

マクラーレンARTカーボンファイバー|McLaren ART carbon fiber

マクラーレンARTカーボンファイバー|McLaren ART carbon fiber

ART工法は製造期間の短縮とコスト削減というメリットもあるため、カーボンファイバーの採用部位をさらに拡大できる可能性がある。MCTCには高速積層機のプロトタイプを導入済みで、2025年中には量産スペックの機器にスケールアップされ、生産量も拡大する見込みだ。

ART工法によって製造されるマクラーレンARTカーボンファイバーを採用した最初のマクラーレンは、アイコニックな“1”モデルの血統を受け継ぐ最新のアルティメットスーパーカー「W1」だ。

世界限定399台が生産されるW1には、928ps/900Nmを発する4.0リッターV型8気筒ツインターボエンジン+8速DCTに、378ps/440Nmのモーターと1.384kWhのバッテリー組み合わせるプラグインハイブリッドシステムを搭載。システム総合で938kW(1275ps)/1340Nm(136.6kgf-m)を引き出し、0-100km/h加速を2.7秒、0-200km/h加速を5.8秒、そして0-300km/h加速を12.7秒でこなす圧倒的な性能を誇る。最高速は350km/hでリミッターが介入する。

マクラーレンW1|McLaren W1

マクラーレンW1|McLaren W1

このW1には、最大で1000kgものダウンフォースを発生する驚異的な空力パッケージが採用されているが、これに不可欠なアクティブ・フロントウイング・アッセンブリーの固定プレーンが、マクラーレンARTカーボンファイバー製だ。

この固定プレーンは、同等のプリプレグ製パーツより剛性が10%高く、空力上の耐荷重機能が大幅に強化されている。W1のプロダクションモデルでは、マクラーレンARTカーボンファイバー製のコンポーネントをさらに増やすことも検討中だという。

ART生産方式とマクラーレンARTカーボンファイバー構造は、次世代のカーボンファイバー製アーキテクチャーに計り知れない可能性をもたらす。この技術を駆使して超軽量・超高強度のカーボンファイバー製タブを構成し、しかも廃棄物が最小限になる方法で製造し、次世代のマクラーレン・スーパーカーの骨格とすることがすでに検討されている。

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