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最終更新日:2025.04.01 公開日:2025.04.01

なぜ僕がポルシェを好きになったのか?━━河村康彦の「ポルシェは凄い!」♯1

ポルシェ944S|Porsche 944S

いつの時代もスポーツカーファンから一目置かれているブランドと言っていいポルシェ。ではポルシェのいったい何が凄いのか。ポルシェ愛好家のモータージャーナリスト河村康彦の新連載コラムがスタート!

ポルシェ944S|Porsche 944S

文=河村康彦

写真=ポルシェ

編集=細田 靖

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“スポーツカーの価値はエンジンパワーの大きさでは決まらない”を教えてくれた「944S」

ポルシェ、と耳にした時に老若男女を問わず大多数の人の脳裏に浮かぶのはおそらく、独特のカタチをしたスポーツカー「911」の姿であるはず。

けれども冷静に考えると、“猫背型”ボディの前端左右から丸い目玉がちょこっと飛び出したあのスタイリングは本当にカッコ良いものなのか?? と、そう疑問に思う自分が居たりするのも事実。スポーツカーらしいスタイリッシュなフォルムと言えばもっと流麗で地を這うような姿を指すのではないのか? となれば、911のそれは確かにそうしたセオリーに沿っているとは到底言い難い。

しかし、そこは「継続は力なり」というものなのだろう。

ディテールが微妙に変化をしたり、時が経つに連れてサイズが大型化したりといった変更は受けながらも、一見して「あっ、911だ!」と、迷うことなく識別が付く仕上がりの作品が初代誕生の1964年以降、すでに60年以上にわたって連綿と続いているのだ。ここまで続けてそれでも人々の脳裏への刷り込みができあがっていないとなれば、それはそもそもブランドの構築に失敗している。見慣れると何ともカッコ良く見えたり可愛く思えたりしてくるというのは、人やペットに対しての場合にも当てはまりそうな現実だ(笑)

実際、自身のポルシェ歴の中で911を所有したのは一度だけ。それでも「やっぱりこのメーカーは凄い!」と感心し畏敬の念を抱くようになったのは、「944S」→「911カレラ4(3代目964型)」→「ボクスター(初代986型)」→「ケイマンS(初代987型)」→「ケイマンS(2代目981型)」と乗り継いできた中での1台目から2台目への移行時、すなわち、944Sから911カレラ4へと乗り換えた際の強烈な実体験があるからだ。

ポルシェのラインナップ中に現在のような4ドアモデルはまだ存在せず、911が“一本足打法”のメイン車種として圧倒的に高い知名度を誇っていた当時、当然ながら本当は911が欲しかったものの、予算などの都合から手に入れた944Sは水冷の4気筒エンジンをフロントに搭載した後輪駆動のモデルだった。

重量配分に配慮してトランスミッションを後輪寄りにレイアウトする点だけはやや特殊な構造であったものの、要はオーソドックスなFR車。4気筒で2.5リッターという排気量の心臓から生み出される最高出力は190psに過ぎず、特段の加速性能の持ち主ではなかった。それでも高速走行時のフラット感の高さや、コーナリング時のバランスの良さなどにはキラリと光るものがあった。日本車の中にはすでに遥かに大きなパワーを誇るモデルも多かったが、「スポーツカーの価値はエンジンパワーの大きさでは決まらないんだ」と教えてくれたのがこのモデルでもあった。

メカニズムが異なっても一本筋の通った走りのテイスト、そしてそれを実現させる技術力

ポルシェ911カレラ4(964型)|Porsche 911 Carrera 4(type 964)

ポルシェ911カレラ4(964型)|Porsche 911 Carrera 4(type 964)

で、そこから乗り換えた911カレラ4の心臓はご存じの通り水平対向の6気筒で排気量も3.6リッター。そしてその搭載位置は例の猫背型ボディの後端で、駆動方式もポルシェ量産モデル初の4WDと、944Sとの共通項は皆無。こうなれば、その走りのテイストもまったくの別物になると考えるのが自然というものだろう。

ところが……特に高速道路に乗り入れるとこの両者には、恐らくは初めて乗った人でも「この感じ何か似ているな」と受け取れるであろう明確な共通性が感じられた。多少の横風や路面のわだちをものともしない圧倒的な安定感や、視線のブレを一切伴わないフラットな乗り味が両者に共通する典型例。強めのブレーキングでも前のめりになることなく、見えない巨大な手で鷲掴みにされるような「リヤタイヤが良く仕事をしていることが実感できる減速感」も両者の共通性の明確な部分だった。

前述のように、両者が採用するメカニズムはことごとく異なったもの。にもかかわらずこうした印象を得られたということは、ポルシェというメーカーが目指す走りの方向性に一本筋が通ったものを携えていることに加え、それを実現させる技術力も備えていることの証左なのだろうと感じられた。そして、そうした印象はやはりその後に所有した各モデルでも見事に共通。極端に言えば、目隠しをして乗せられても「これはポルシェの作品だ!」と言い当てることができそうな走りのテイストで貫かれているのである。

だからこそ、現在でも乗れば乗るほどに「このメーカーは凄い!」という思いが強くなってしまう。世の中に自動車メーカーは数々あれど、これはやっぱりちょっと凄いことだと思う。

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